第26話 信じたくない
「一緒にポルノ映画でも見にいきませんか? なんなら、ずっきゅん妹パラダイスのアニメDVDの観賞会でもいいですよ」
「そんな事しなくても私が邪淫に満ちた世界にしてあげますよ、だけど今は逃げさせてもらいます、転移魔法でね」
「て、転移魔法って、そんなの」
ウィルトが無理だと言おうとして、アーレイは説明する。
「転移魔法の実用化ができないのは空間を転移するのに必要な魔力量が膨大過ぎて実用性に乏しいからです。
オマケに転移する先にあらかじめ受信用の魔法陣を用意しておかないといけないし、こちらも送信用の魔法陣が必要で利便性も低い。
何せ魔術師一〇〇人が大掛かりな儀式で全魔力を投じても、ようやくリンゴ一つを一〇〇メートル先に転移させられる程度です、でもね」
アーレイは白衣の内ポケットからビー玉のような物を取り出し、リノリウムの床にぽとりと落とす。
「私の技術と魔王の右手の魔力があれば」
ガラス玉が割れ、床に直径一メートル程の魔法陣が広がりアーレイが右手をかざすと黒い光を放つ。
「行かせません!」
踏み出そうとするウィルトをアーレイが一瞥(いちべつ)すると、魔王の忠実な僕(しもべ)と化した三体の魔獣が一斉に跳びかかる。
「ライトニングブレイク!」
エッジ系と違い、射程は低いが威力のあるブレイク系でまとめて三体のキマイラを葬るが、同時か、それより早くフィリアの怒声が聞こえる。
「させるか! バーニング!!」
ドアからアーレイに跳びかかり、あらん限りの魔力を乗せたロングソードを振り上げる。
一瞬でウィルトはその危険性を悟る。
フィリアが放つ全力のソレは、魔王の右手ごとアーレイを必殺たらしめるモノに違いなかった。
「ッッ!」
「カリバァーー!!」
「フリージングカリバー!」
「何!?」
体をひねり、フィリアと刃を交えるウィルトの剣から青白い光が放たれる。
絶対の高温と低温のせめぎ合いで、フィリアは弾き飛ばされて部屋の壁に後頭部を打ち付けた。
「さよなら勇者ウィルト、君との再戦を楽しみにしているよ」
目の前で消えかけるアーレイに手を伸ばしても、ウィルトの手はすり抜け、そしてアーレイは魔法陣と一緒に姿を消した。
「くそ!」
余りの悔しさに壁を殴りつける。
自分が上手く立ち回っていればアーレイを救えたかもしれないのに、人を救う機会をみすみす逃してしまったと自分を責めて、
「何がくそだ?」
突然肩をつかまれ振り向かされるといきなり頬を殴り飛ばされる。
無抵抗に床に崩れ落ちるウィルトを見下ろしてフィリアは、わなわなと震えながら声を張り上げる。
「貴様は真正のバカか!!?」
今まで以上の怒喝をウィルトに浴びせ、フィリアは叫ぶ。
「魔王をかばい味方の邪魔をするとは何事だ!? 相手はあの魔王なのだぞ! 魔王! そうだ、あの全人類の天敵にして勇者の最大の敵だ!? 今でこそ傭兵に甘んじているが勇者とは魔王を打ち倒す者! それを魔王を逃がすなど狂ってるとしか思えん!!」
フィリアの言葉が耳に痛い。
正論過ぎて何も言い返せない。
アーレイの言葉が本当ならばまた彼は何かとんでもない事をしでかすだろう。
それこそ、数え切れない人を巻き込むような事をだ。
アーレイ一人をさっさと殺してしまえば、その犠牲全てを未然に防ぐことになる。
結局のところ、ウィルトがしたのはつまらない正義感で多くの人の命を危険に晒す、最低の愚行でしかない。
何も言い返さず黙って罵られるウィルトの姿にますます眉間に刻むシワを深くして、フィリアは自身の剣をかざす。
「本当ならば私のこの剣が奴の息の根を……ッ!?」
刀身を見た途端、フィリアは言葉を飲み込み、フラフラと後ずさる。
「そんな、バカな……嘘だ、こんなこと…………」
首を振り、怯えるようにアゴを振るわせるフィリアに気付き、ウィルトは立ち上がって足を進める。
「おい、どうしたんだよ」
「くるなぁあああああああああああああ!!」
叫び、脱兎の如く逃げるフィリア。
赤い背中が廊下へと消え、一人残されたウィルトは理由が分からず頭を押さえて悩んだ。
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