第27話 竜核



「保管庫から盗まれたのはダークドラゴンの竜核三つね」

「竜核ってなんです?」


 セイバーグループ本社の談話室でエリカがリレイ部長に質問する。


「竜核は上級ドラゴンの体内にある莫大な魔力を持った宝石のような物よ、でもウィルトの話を聞く限りアーレイが魔力に不足している様子は無さそうだし、おそらくは」

「召喚の触媒ですね」


 クロエの発言にリレイが頷く。


「魔力以外が目的なら竜核の性質、ドラゴン族召喚の触媒として竜核を超えるモノはそう無いし」

「じゃあなんかすっごいドラゴン召喚して世界滅亡とかそういうことですか? あんのエロ科学者予想以上のゲス野郎ね」


 いきり立つエリカの横でサーシャがため息を吐く。


「問題は何を召喚しようとしてるかって事ね、千年前と違って今は世界中の勇者派遣会社が多くの勇者パーティーを抱えているし、魔術や法術の素養が無いただの兵士も銃の発明で随分強くなったわ。

 その現代をどうこうできるドラゴンなんて、ケツァルコアトルでも呼ぶ気?」


「あれはドラゴンというよりも神だからね、さすがに無理でしょう、とにかく貴方達は休みなさい、何か分かったらまた連絡する」


 眉根を寄せつつも四人を帰そうとするリレイだが、報告を終えてから一言も話さないウィルトの態度は無視できるものではないらしい。


「安心しなさいウィルト、今回の事で貴方を処罰するような事はないわ、むしろ真犯人を突きとめたんだから。胸を張りなさい」

「……はい」

「………………」

 視線を落とすウィルトに、リレイ達は同情の眼を向けるが、クロエだけは違った。




 談話室を出てリレイと別れると、同期の勇者数人が廊下の奥から近づいてくる。


「ようウィルト、お前瘴気事件の犯人取り逃がしたんだって?」

「バカだよなー」

「まあウィルトなら仕方ないじゃん」

「そうそうウィルトだしな」


 勇者は心正しき聖人君子、というのは大衆のイメージ。


 かつての時代にも魔王を倒して名を上げたり、それどころか魔王と戦う勇者様ご一行という肩書きで甘い汁を吸う者がいたように、勇者という職業に就いているからと言って、その人間の質は必ずしもいいとは限らない。


 しかし、


「うるっさいわねー! あんたら三下勇者にうちにウィルトの何が分かるって言うのよ!」


 エリカが勇者達に噛みついた。


「うちのウィルトはね、すっごいエロ勇者なんだから!」

「エリカ、それはフォローになっていないんだが」


 クロエにツッコまれてエリカは固まる。


「えーっと、そうだ、ウィルト超家事うまいんだからね! クロエがカーペットにソースぶちまけても五分でシミ一つ残さないんだからね! あたしが泥に尻もちついたパンツ一晩で新品と見分けつかないんだから! 煮物も揚げ物も炒め物も全部おいしいんだからね! えーっとそれからそれらから」


 まくしたてるエリカだが、


「それ勇者かんけーねーじゃん」

「あったまわりーな」

「だからお前は誰からも指名入らなかったんだよ」


 と言われて「う~」と唸ってしまう。

 すると、やれやれとばかりにサーシャが進み出る。


「ウィルトを責めないであげてください、仲間として彼の独断専行を止めるべきところを行かせてしまった私達が悪いんです」


 安い涙と営業声に勇者達は、


「いやいやサーシャちゃんは悪く無いよ」

「まぁサーシャちゃんがそう言うなら」

「そうそうそう」


 ころりと騙される三下勇者の共の姿がそこにはあった。

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