第28話 幼馴染には敵わない
その夜、ウィルトは自室のベランダで手すりにもたれかかりながら、冷たい風に身を預けていた。
今日自分がした事を思い出すと、夜風が自分の体を通りぬけていくように感じる。
すると、黄色い月を見上げるウィルトの横に、そっとクロエが並んだ。
堅苦しいスーツではなく、黒いワンピース姿だ。
「なぁウィルト、今日リレイ部長に言ってない事があるんじゃないか?」
全てを見透かしたセリフに、しかしウィルトは驚かない。
「クロエには全部分かるんだな」
「誕生日が同じで生まれた時からの付き合いだからね、アーレイの目的は暗黒時代の再来ともう一つ、君の抹殺かい?」
「ああ……」
短く答えて、今度はウィルトから問いかける。
「なぁクロエ、なんでクロエは俺と組んでくれたんだ?」
「…………」
「エリカは誰からも指名されてなかったし、俺となら楽そうだとか言って来て、サーシャは勇者学科の生徒から数え切れないくらい指名されたけど、本性知ってる俺と組んだほうが気楽で俺と組めば家事をしなくても済むって組んでくれた。
だけど、クロエだって、それこそ数え切れないくらい指名されたんだろ?
お前にプレゼント送ったり、直接に会い来て口説く奴もたくさんいたよな、あの時は驚いたけど、クロエなら当然だって思った」
星空に遠い日を映しながら語るウィルトに、クロエが質問で返す。
「逆に聞きたい、ウィルト、なんで君はボクを指名してくれなかったんだい?」
同じ夜空を見るクロエが顔を向けて、ウィルトもクロエと視線を交わらせた。
「ボクはねウィルト、ずっと君だけの術師になりたかったんだ。だからボクはずっと、本当にずっとずっと君からの指名が来るのを待っていたんだ」
自分の胸に手を添えて、クロエはジッと見つめる。
「それで君が最後まで黒魔術師を選ばなかったから、ボクはそのイスに滑り込んだ、けれどボクは君からの指名が欲しかったんだ」
涙で眼が潤み、声がかすれる。
「ウィルトは……ボクが欲しくなかったのかい?」
幼馴染の涙に、ウィルトの胸が痛む。
どうして自分はこの娘(こ)の気持ちに気付いてあげられなかったんだろうと。
クロエは、黒魔術師としての出世や名声に興味なんて無かった。
ただ、子供の時のように、自分と一緒にいたかっただけなのだ。
「それは違うよクロエ、俺はクロエ以外にも、剣士も白魔術師も指名していないんだ」
「……それは、どうしてだい?」
勇者養成学校は卒業前に、勇者が他学科の生徒達を指名し、指名された生徒はその指名を受けるか断るかを選ぶ。
断られた勇者はまた別の生徒を指名する。
だが、パーティーを作れない勇者は、正式な理由が無い限り学校や企業からの評価が下がるし、入社試験でパーティー試験が受けられないなど、デメリットしかない。
そのため、勇者学科の生徒達は皆、パーティー結成に躍起になるし、卒業が近づくと指名されなかった他学科の生徒達が逆に勇者へ自分をパーティーに入れるよう交渉があったりする。
誰からも指名されなかったエリカや、全ての指名を断り続けたクロエ、サーシャはそうしてウィルトと組んだのだ。
「俺はさ、俺と一緒にやりたいって奴とパーティーが組みたかったんだよ」
また月を見上げて、ウィルトは語る。
「俺が頼んだら、優しい奴は断れなくて仕方なく俺のところに来るかもしれない、優しい奴にとって頼みごとは強制なんだ。
だから誰も指名しないで、自分の意思で俺を望んでくれる奴とやろう、望んでくれる奴が誰もいなかったらそれは自分の人望が無かった証拠で自業自得、そう思ってたのに、クロエやエリカ、サーシャが来てくれて、俺はパーティー試験を受けてセイバーグループに入社できた」
空から顔を下ろし、ウィルトは破顔して笑う。
「だから、俺はお前達と一緒に勇者できてすっげー幸せだぞ」
クロエの目から雫が零れる。
「ウィルト、ボクはね、そんな君だからずっと一緒にいたいって思うんだよ」
「え? どういう意味?」
「ふふ、なんでもないよ、それよりウィルト、エリカはともかくサーシャは頭がいいからね、多分もうバレてるよ」
「……そっか」
ぼりぼりと頭を掻いて、ウィルトはため息をついた。
「仲間にくらいは、言ってもいいんじゃないかな」
「うん、そうだな、仲間だもんな」
「ああ、それじゃあ二人を待たせてるから」
「おう」
短い言葉だけはこの二人には十分だった。
ウィルトは立ち去るクロエを振りかえらず、また星空を見上げた。
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