第23話 女剣士を返せ!


「そんな言い訳が通じると――」


 不意にフィリアが視界の下に消える。


 否、フィリアの足に植物のツルが巻き突いて廊下の奥へ一気に引き込まれる。


「フィリア!」

「ウィルト!」


 互いの名を呼び合って手を伸ばすが届かず、さらに伸びてきた五本のツルがウィルトに襲い掛かる。


「フィリアを返せ!」


 横薙ぎの一撃でツルを払いのけるが植物だけに始末が悪い。


 痛覚が無い為どれだけ斬っても怯まないし、形さえ残っていれば何度でも襲い掛かってくる。


「どけ!」


 剣に炎をまとわせて振るい、廊下を火の海にして焼くが次々新しいツルが襲い掛かってくる。


 襲い掛かるツルを次々焼き払い、この獲物の捕獲は無理だと理解したのか、ツルはウィルトを避けるように猛スピードで廊下の奥へ逃げかえる。


「待ちやがれ!」


 下半身を強化して、ウィルトは駆けた。


 フィリアの言葉を借りるなら、フィリアは勇者側の人間であり、優先順位はアーレイより下だろう。


 『自分を助けるヒマがあるならアーレイを捜索しろ!』『自分の事は自分でなんとかする!』と怒鳴るフィリアの顔が浮かぶ。


 だが目の前でさらわれた人を、まして学生時代からの友達を見捨てて仕事を優先できるような神経をウィルトは持ち合わせていなかった。


 しかしツルを見失い、カンに頼って走り、人の気配と物音を感じて保管庫室へ飛び込んだ。


「あれ? どうしたんだいウィルト君?」


 ズッコケた。


 派手に、マヌケに、ギャグマンガのようにウィルトは転んで床に顔面を叩きつけた。


「アーレイさん何してんですか?」


 長身美形で長い髪を後ろで一本に束ねた白衣の男はエロ研究者アーレイに間違いなかった。


 壁一面を覆う巨大な金庫の扉の前で、宙に浮かぶ魔法陣を指でいじりながらアーレイは首だけをこちらに向けて平和な顔で尋ねてくる。


「いやこんな状況だろ? 私もキマイラやリザードマンから逃げて死を覚悟したんだ。でもね、どうせ死ぬならここの金庫に隠した秘蔵のお宝本と一緒に死にたいと思って取りに来たんだけど、術式のロックどう解除するか忘れちゃったんだよね、教えてもらったの随分前だからなー、えーっとここはどうだったかな……」


 人が死に物狂いで戦っている時にこのバカは何やってるんだろう。


 怒りで今ならマンティコアの大群を一撃で殺せそうな気がするが相手は今回の拘束ターゲットにして保護ターゲット。


 ウィルトは震える拳を収めて振り上げかけた剣も下ろす。


「それなら俺らがいるから大丈夫ですよ、もう外にモンスターもいませんし」

「そりゃあ良かった、何せ来週に発売を控えた写真集が三冊もあるからね、まだ死ねないよ」


 こいつ一発殴ったろか。


「じゃあ俺はフィリア助けに行って来ますからこの部屋を動かないでくださいよ」

「フィリアちゃんがどうかしたのかい?」

「はい、実は長い植物のツルにさらわれてしまって、この辺に植物モンスターがいそうな場所ってあります?」

「植物? なら地下五階に植物園があるよ」

「ありがとうございます」

「ああでもあそこは!」


 アーレイの静止も聞かずにウィルトは走り去る。


「まぁいいか、それより早くこの術式解かないと間に合わないや」




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