第22話 勇者と剣士の共闘


「ふむ、モンスターの数が減ってきたな」


 キマイラの首が床に落ちる。


 廊下を走り、片っ端から部屋のドアを開くがどこにもアーレイの姿は無い。


 だが作業は順調、今切り倒したキマイラも久しぶりの敵である。


 研究所のモンスターの多くはすでにウィルトとフィリアが片付けた事と、外へ逃げてしまった事が原因だろう。


「逃げた分は軍と他の勇者達がなんとかしてくれればいんだけど」

「信じるしかないだろう、我々は自分の仕事をすればいい」


 資料室の中へ入り、生き残りがいないかを確認する。

 その中で、フィリアは見つけてしまう。


「これは……」

「ちっ、遅かったか」


 中年男性の首である。

 さすがのウィルトもいつもの軽さは無く、悔しげに舌打ちをする。


「血が固まっているから初期の段階で殺されたのだろう、貴様のせいではない、それよりも一緒にアーレイ殿を探そう」


 机の上に首を置いて手を合わせると、フィリアは足早に部屋を出る。


「おいおい、お前のターゲットも探さなきゃ駄目だろ、つうか独断で来たならお前の仲間も探さないと」

「連中は腐っても勇者だ。死ぬ覚悟ぐらいできているだろう、私が助けに行く必要は無い」

「どんだけ上から目線なんだよ……」


 まああれが仲間なら仕方ないか。

 前に見たフィリアの冴えない仲間を思い出してウィルトの眉が下がる。

 一応はBランク勇者らしいが、顔も名前も聞いた事がないしフィリアよりずっと弱いらしく、そんな人ではフィリアに見下されても仕方ないだろう。


「でもお前仲間なんだから」

「私の使命は市民の安全を守る事、同じこちら側の人間を守っている間にアーレイ殿が死んだら誰が責任を取る? それに仲間というならそれこそ仲間を信頼して自分の仕事をやるべきだ」


 ウィルトは納得した。


 つまりフィリアは仲間がどうでもいいとかではなく、ただ単純に保護する優先順位が市民より低いだけらしい。


「それに今の首が私のターゲットだからな、ターゲット探しはもういいんだ」

「え……」


 言葉に詰まるウィルトと違い、フィリアは無感動に足を進める。


「私のパーティーのターゲットは死んだ。なら私も貴様の任務を手伝うまでだ。アーレイ殿はまだ生きている可能性がある。早く探さねば」


 それはそうだが、あまりにそっけない態度にウィルトは口をとがらせる。


「ドライだなお前」

「死者に囚われてどうする? 大事なのは今を生きている人間だ、感傷に浸る暇があるなら生存者の捜索を優先するのが私の流儀だ」

「…………」


 今の言葉がウィルトの中に響く。


 『大事なのは今を生きている人間』その言葉が何度も繰り返し頭の中で再生される。


「どうしたウィルト?」


 ウィルトの異常に気付いたのか、フィリアは肩越しに振り返って問うてくる。


「いや、何でも無い、ただ、フィリアの言う事はいつも正し過ぎるなって」


 力無い声だが肯定的な意見にフィリアも乗っかる。


「当然だ。何せ私は世界最強の勇者になる女だからな、間違った事などするはずがないだろう?」

「そうだな……」


 だがその言葉はお気に召さないようだ。


 ムッとしてフィリアは語気を強める。


「どうしたウィルト、貴様は去年私に言ったではないか、一番正しい事がいつも正しいとは限らないと、レストランでのテロ事件の時もお前の勝手な思想がどうとか、なのに今日は随分と肯定的じゃないか」

「別に、ただ今のお前の言葉は正しいと思っただけだよ」


 まるで覇気の無い返答に、フィリアは柳眉を逆立てる。


「ええいシャキっとしろ! 貴様は勇者だろうが! 不本意だがこの私ですらなれなかった勇者に貴様はなったのだ! なのにそのお前がその体たらくではますます自分が惨めになってくる!」

「お前より弱い勇者なんていくらでもいるだろ? なんで俺限定なんだよ?」


 もっともな質問にフィリアは「それは」と口ごもってしまう。


 ウィルトは知らない事だがフィリアは幼い頃からずっとウィルトを目標にし修業してきた。


 ウィルトを倒せば最強の証明になると、ウィルトを倒せば誰もが自分を認めると。


 長年想い続けた相手の凋落は辛い。


 ウィルトには最強でいてもらわなくては困るのだが、そんな事を自ら言うのは恥ずかしい、フィリアのプライドが許さない。


 足を止め、ウィルトと向き合って怒鳴る。


「黙れ黙れ! 悔しかったら本気で戦ってみろ! 私と全力でぶつかりあいそして勝ってみろ! そしたら貴様の言う事などなんでも聞いてやる!」

「論点ズレてるぞ」

「うるさい! 私はな、自分よりも強い奴がいることが我慢できないんだ!」

「いやだからお前もう最強だろ? お前に勝てる奴なんてどこにいるんだよ?」


 ウィルトの顔を指差す。


「おいおい、冗談はよせよ」

「全国剣術大会終了後に私を一撃で倒したではないか」

「あれは昔の話だ」

「中等部一年の頃にベヒーモスを一撃で倒したではないか」

「それはお前の幻だよ」

「そんな言い訳が通じると――」


 不意にフィリアが視界の下に消える。

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