第6話 痛車
「えーっと、一際目立つ車ねー」
セイバーグループの地下駐車場、うす暗いその場に止まるのはどれも一般的な乗用車かワゴン車で、車に詳しく無いウィルトの目には色以外の違いが分からない。
車好きの前で言えば殺されそうだが興味の無い人間からすれば車なんて乗用車、ワゴン、トラック、ジープ、スポーツカーの五種類しかない。
「?」
そんな中、一際目立つ車を発見した。
ただしソレはド派手な改造車やシャコタンとかではなく。
ずっきゅん妹パラダイス5
というロゴと一緒にアニメの女の子がプリントされた車だった。
「い、痛車(いたしゃ)だぁああああああああ!」
ウィルトから見える右側だけでも三人の、それぞれ髪の色と形が違うだけで何が違うのか良く分からない女の子が媚びを売ったような目でこちらを見て来る。
左側はどうなっているのか、勇者ウィルトは恐ろしくて見る勇気が無かった。
「ああウィルトくーん、私の車は見つけられたみたいだね」
「あの、その……これ……」
口元をひきつらせるウィルトを無視して乗り込むアーレイ。
『わーいお兄ちゃんとドライブだぁー♪』
ドアの開閉がスイッチになっているのだろう。
外まで聞こえるアニメ声にウィルトの顔から血の気が引いた。
「痛っ」
レストラン前の駐車場で少年Aが転ぶが、そこへさっそうとウィルトが現れる。
「どうした坊主?」
優しく起こして、ヒザを見ると擦りむいているようだ。
「兄ちゃんに任せな、ヒール」
ウィルトがヒザにかざす手が白い光に包まれ、少年Aの傷はみるみる癒えていく。
「すげー、兄ちゃん白魔術師?」
目を輝かせる少年A、パーティーのリーダーである勇者でなくても、勇者パーティーの一員というだけでもこの世界の子供達にはヒーローなのだ。
子供、特に男の子に『将来の夢は?』と聞くと『勇者』もしくは『勇者メンバー』と言うのがお約束だ。
「術師じゃなくて勇者だよ」
と言って腰の剣を見せる。
「マジで!? みんな! こっちに勇者いるぜ!」
少年Aの声に遠くから友達と思われる子供達が急いで走ってくる。
「勇者って職業何!? 剣士? 黒魔術師?」
「違う違う、本当に勇者、パーティーのリーダーの勇者!」
「すっげー! 本物だ!」
セイバーグループの制服と腰の剣を見るなり子供達が歓喜する。
特別地位や名声に興味が無いウィルトでも、子供たちにここまで言われて悪い気はしない。
ところが、
「でもこの兄ちゃん見た事無いよ」
「ほんとだ、知らない顔だ」
「兄ちゃん名前は?」
急に冷める子供達。
そんな彼らにおそるおそる、
「ウィ、ウィルト……」
『しらなーい』
「お兄ちゃんランクは?」
「えっと、Cだよ」
『なんだCか』
露骨にテンションを下げる少年達。
確かに勇者は憧れの職業で、この世界の花形職業だが、例えば無名の俳優や売れないアイドルなどがそうであるように、Cランク勇者では反応もイマイチだ。
「お、お兄さんは今年入社したばかりの新人だからね、新人は実力に関係なく、みんなCから始めるんだよ」
なんでもかんでもランクで決めやがって、勇者の魅力はランクじゃねーぞ。
無理のある作り笑いで誤魔化すが、少年Bが携帯電話をイジって冷たく告げる。
「でも今年の期待の新人ランキングにはウィルトなんてないよ」
「うぐっ」
ちっ、ガキのくせに携帯なんか持ちやがって、親はどういう教育をして、
「ああ、ウィルトってあったよ」
マジで!?
誰だその素晴らしい評価をした奴は!? 俺何位だ!?
「ほら」
と少年Cが持っていた週刊勇者マガジンを見せると、そのページは今話題の新人特集でサーシャの写真が載っていた。
「えっと、俺はどこに?」
「ここ」
少年Cが指差すサーシャの記事、サーシャのプロフィールにはしっかりと、
所属パーティー:ウィルトパーティー
...私のリーダーであるウィルトはまだ頼りないけれど私は彼に期待し...
...あくまでリーダーであるウィルト氏を立てようとする彼女の姿勢に我々取材陣も思わず涙を...
「…………」
「ああいうのをヒモっていうんだね」
「甲斐性無しだな」
「帰ったら何する?」
「てかもうすぐ勇者ワイドの時間じゃね?」
遥か彼方へ去りゆく少年達。
それでもウィルトは勇者マガジンを覗き込む姿勢のまま固まり、微動だにしなかった。
ぽん
車のキーをポケットにしまうアーレイがウィルトの肩に手を置く。
「いつかいいことあるさ」
アーレイのウィンクが憎たらしい。
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