第7話 劣等生に理由などない


「それで、ウィルト君はなんで劣等生なんかしてるんだい?」


 ウェイトレスがサンドイッチとケーキを運んでくると突然アーレイが意味不明の質問をしてくる。


「それは『どうしてそんなに馬鹿なんだい?』ってことですか?」


 ムッとするウィルトにアーレイは手を振って否定する。


「違う違う、実はずっと前から君の事は知ってたんだよ、ウィルト君て子供のころ剣術の全国大会で優勝してるよね?

 それも少年の部とはいえ英才教育を受けた名門出の子も参加する、レベルの高い大会だ」


 ウィルトのコーヒーを飲む手が止まる。


「しかも実力的には大人の部でも十分に通用する力で、当時のインタビューで将来は勇者になりたいってコメントしたのにある日突然武芸大会には一切顔を出さなくなった伝説の神童」


 同期生のほとんどが知らない事実を突きつけられてもウィルトは動揺しない、元から隠しているつもりも無い。


「あんな昔の記事、よく覚えてますね」

「ここだけはいいからね」


 ウィルトがカップを置くとアーレイは自分の頭を指で小突いて笑った。


「子供の頃の夢を叶えたんだ、結果だけ見れば美談だけれど、さっきの子供達が言うように君の名前は期待の新人ランキングや注目の新人特集にも無い、何かあったのかい? 

ケガの後遺症で体の反応が鈍ったとか、実は病気とか」


 アーレイの言う通り、ウィルトは勇者学校時代、これといって目立った成績は残さず、いつも赤点ギリギリだったと言っても過言ではない。


 そんな、かつての神童の凋落(ちょうらく)ぶりを見れば誰もが同じ質問をするだろうが、ウィルトはテーブルにヒジをついて視線を落とす。


「一〇歳で神童、一五歳で天才、二十歳過ぎればただの人ですよ」


 全身から発する重い空気にアーレイの口角がひきつる。


「弱いフリをしてるだけで実はすっごく強いとかは?」

「なんの為に?」

「実は伝説の戦闘民族の末裔で隠された才能が」

「うちの実家はパン屋ですよ」

「ピンチなると奇跡のパワーが発揮して敵を一掃」

「少年漫画の読み過ぎです」

「普段はダメ勇者だけどマスコットキャラとステッキの力でマジカル変身♪」

「遊んでます?」

「クロエちゃんの胸って何カップ?」

「遊んでたんですね?」


 タバコを吸うジェスチャーをして、


「空が青いねー、こんな日はきっと空から美少女が降って来るに違いない」

「そんな事あるわけが」


 耳をつんざく爆音はその時襲い掛かった。

 前方の駐車場で巻き起こる爆炎が黒煙を噴き上げ、レストランの客が悲鳴を上げて逃げ惑う。


「美少女じゃなくて事件が降って来ちゃった」

「言ってる場合ですか!」


 ツッコんでから今一度駐車場へ目を向けると一〇人近い男達が駐車場で暴れている。


 剣を持った男達は炎や雷をまとった剣で車を斬り付け、先端に水晶玉のついた杖を持つ男達は攻撃呪文をレストランに浴びせている。


 平日で昼時は過ぎているため客はそれほど多く無いが、それでもウィルト達以外にも客は八人程いる。


 火球の一発が窓を突き破ってレストランに侵入、若い女性客に向かって飛来する火球をウィルトは素早く抜いた腰の剣でかき消す。


「っぶねえな」


 ウィルトの双眸が外にいる男達を睨みつける。


「あいつらただじゃおかねえ」


 規模は劣るが、現代ではこのような事件が時折起こる。


 魔王がいなくなった世界で発生した問題の一つ、それが攻撃魔術と法術である。


 常に魔王やモンスターの脅威があった古代や中世時代、人々は魔法を敵と戦う手段とし、上手く利用してきた。


 だが魔王がいなくなり、モンスターとは無縁の広く安全な街中に住むのが当たり前の平和な時代になると、魔法を犯罪に使う者が激増した。


 魔術の素養が薄く、最下級呪文しか使えなくても一般人には脅威である。


 ただ、魔法を学べる学校での学習経験した者によるイタズラを越えた危険行為は社会問題になっているが、ここまで大規模なモノになるとそれこそ不良やチンピラの反社会行動というよりも完全なテロだ。


 だが何故レストランを? と思うが考えるのは後回しだ。


「鎧無いけど大丈夫かい?」


 確かにアーレイの言う通り、今のウィルトは頑丈なプロテクターも動きやすいスニーキングスーツもなければ勇者の証である強固な盾も持っていない、だが、


「もう神童じゃないけど、勇者ですから」


 一言そう残して、ウィルトは一度の跳躍で外に飛び出した。


「てめえら大人しくしろ! 勇者の登場だ!」


 まだ若い、二十代後半ほどの男達は一斉に手を止めてウィルトのほうを向く、そしてウィルトの着る制服を見るなりその顔を怒りに歪めた。


「その制服、そうかセイバーグループの……いいよなぁ」


 男の一人が炎をまとった剣を振り上げる。


「勇者やれる奴はよぉ!」


 杖を持った男達が一斉に火球を放ち、その間に剣を持った男達はウィルトを取り囲もうとする。


 最下級の火炎呪文、ファイアボール程度は剣で弾くこともせず、ウィルトは流れるような身のこなしで避けながら迫る男の剣を根元から切り裂いた。


「な!?」


 男達の剣を自身の剣で破壊し、続けて残りの男達の杖を水晶玉ごと切り裂いて全員の武器を無力化する。


「これで終わりだ、抵抗はやめな」


 男達い剣の切っ先を付きつけるが誰一人として首を縦には振らない。


「杖なんかなくてもなぁ!」


 杖を持っていた男達の手の平から雷撃が放たれて、対するウィルトは空(くう)を真一文字に切りつける。


「ライトニングエッジ!」


 迸る雷光の刃が男達の雷撃を飲み込み、そのまま突き進んで術師と思われる男達を焦がす。


 胸に刻まれた真一文字の傷口を中心に火傷で皮膚が焼けただれて、感電し意識も失ったようだ。


 迸る雷光の刃が男達の雷撃を飲み込み、そのまま突き進んで術師と思われる男達を焦がす。

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