第5話 落ちこぼれだけどパーティーメンバーは美少女
彼女が退室すると勇者達も次々に立ち上がり、退室し始める。
減給の二文字を聞いて鉛のように重い足を引きずるウィルト、そんな彼の耳に周囲からの陰口が聞こえる。
「あーあ、いいよなウィルトは、落ちこぼれってだけでサーシャちゃんが組んでくれて、しかも幼馴染ってだけでクロエちゃんまで組んでくれて」
声の主は同期生達だ。
「俺、卒業前のパーティー編成でサーシャちゃん指名したんだぜ、まあ倍率高過ぎて期待してなかったけどさ」
入れなくて正解だよ、むしろ俺があの悪魔を引き取ってやったんだから俺に感謝しろ。
「俺はクロエちゃん指名した。なのに送ったプレゼント全部返されてウィルトと組むんだもんな、俺なら絶対にクロエちゃんを使いこなしてるね」
あの天然ドジっ娘魔女をフォローできるならしてみやがれ、あいつは海水浴で日焼け止めクリームと練乳を間違えて塗る女だからな、それ以前に耐性の無いお前らがあの無自覚無防備なクロエと一緒に住めば三日でパーティー内レイプ事件発生かクロエを取り合っての骨肉の殺し合いが起こる事確実だ。
禁断の果実を引き取ってやった俺を讃(たた)えろ。
「白魔術学科と黒魔術学科の主席卒業者がいて減給とかどんだけ役立たずだって話だよな」
う……
「なんつーかヒモだよな、クロエとサーシャが組んでやらなきゃウィルトが入社試験に合格するわけないじゃん」
まぁ…………
「あの二人も可哀相に、ウィルトのパーティーにいる間、出世は望めないだろうぜ」
それは………………
「まあ来期までに口説けばいいじゃん」
「そうそう、パーティー編成なんてこれからいくらでもあるんだし」
セイバーグループへの入社試験にはいくつか種類があるが、ウィルト達が受けたのは学校で組んだパーティー単位で受けるパーティー試験。
《パーティーの中の誰を入社させるか?》ではなくパーティーメンバーを一つの塊として捉え《このパーティーを入社させるか?》で合否を決める試験だ。
ウィルトは剣士にエリカ、そして黒魔術師にクロエ、白魔術師にサーシャを入れた四人で受験して合格したのだ。
主席とはいかないが、エリカも戦闘能力に限って言えば剣士学科の中でも優秀なほうであり、メンバーに比べて勇者のウィルトだけが見劣りする。
自分は輝かしい功績なんて立てられないし、他の勇者のような出世欲も無い。
そんな自分の下にいてもたかがしれている。
確かにサーシャもクロエも問題はあるものの、それを差し引いてもその優秀さを考えればウィルトの下でくすぶっているような人材ではない。
「………………」
自分という人間を冷静に分析すれば、ただダラダラと勇者業を続けているロートルや同じく出世欲のない連中とツルんで細々と働くのが妥当だろう。
「君がウィルト君かい?」
沈鬱(ちんうつ)な面持ちで最後に部屋を出ると、不意に思わぬ人物の声がかかってウィルトは振り返る。
「あ」
それは見たばかりの顔だった。
昼飯を作る前、サーシャが出演した番組でゲストを務めた。
「アーレイさん?」
「やっほーい知っててくれたんだ」
白衣を着た長身、長い髪を後ろで一本に束ね、両手に白い手袋をしたその人は端正な顔を緩めて、人なつっこい笑みを浮かべながらウィルトの手を取り握手をしてくる。
「知ってるも何も、この国でアーレイさんを知らない人はいないんじゃないですか?」
「そう? いやー照れるなー」
テレビで紹介されていた通り、彼は魔科学研究の第一人者で、幅広い分野で活躍し、若くして数多くの賞を受賞してきた天才である。
ウィルトの通った勇者養成学校にも何度か特別講師として来たことがある。
「でもなんでアーレイさんが俺みたいな劣等生を知っているんですか?」
「またまたそんな謙遜(けんそん)しないで、自分で自分を劣等生なんて言うもんじゃないよウィルト君、自分自身が信じてあげなきゃ誰が君を信じるんだい?」
「はぁ」
天才科学者、という肩書きからかけ離れた軽い口調にウィルトは戸惑うが、この人は学校でもテレビでもこんな感じである。
「実は昨日盗まれた車は私のでね、取り返してくれたお礼を言いたくてリレイちゃんに勇者の名前聞いたんだけど驚いたよ」
「どうしてですか?」
「まさかミス勇者学園の優勝、準優勝、飛んで二五位の女の子をまとめてゲットしたあのウィルト君だったとはね」
どんな覚え方だ、そして二五位は当然エリカの事だ。
「いやー、可愛いよねサーシャちゃん、さすがミス勇者学園、準優勝のクロエちゃんも早くグラビアやればいいのに」
欲望が駄々漏れである。
これでも学会では幼少の頃から神童と謳われた天才だから信じられない。
天は二物を与えないものだ。
「あの、感謝してもらえるのは嬉しいんですけどその、廃車にしてすいません」
「もう新しいの買ったからいいよ、私が心配だったのは車の中に置きっぱなしだったサーシャちゃん巻頭の《美少女勇者特選春号限定版》だからね」
ああ、あのサーシャが自慢げに見せてたあれか、俺は痛まないよう毎日手袋して読んでるけど、なんかこの人とは気が合いそうだ。
でもいくら金あるからって廃車は……結構高そうな車だったしな、ここは何か話題を変えて、
「そういえば先月、魔王城遺跡に行ったんですよね? 今度は何発掘したんですか? いいなあ、アーレイさんの事だからまた教科書に載るような発見を」
「何も発掘できなかったよ」
一〇秒前の俺よ死ね!
「それよりこれから一緒に食事でもどうだい?」
「晩御飯には早過ぎないですか?」
「いいからいいから、三時のおやつに軽食だよ」
「野郎を誘って何が楽しいんですか?」
「いや、別にこれを足ががかりにサーシャちゃんとクロエちゃんの写真を撮ってきてもらおうとか全然」
「全力で断ります」
「それをなんとかするのがこの私、IQ二〇〇をナメてもらっちゃ困るよ?」
なんという才能の無駄遣い。
「そんな事に時間使ってたらみんな泣きますよ」
「エロスは一日三時間」グッ
そんな親指立てて『ゲームは一日一時間』みたく言わんでも。
「それにアーレイさんみたいなセレブが利用する店のマナーなんて俺知りませんよ?」
「あはは大丈夫大丈夫、これから行くのはこの街で一番ウェイトレスのスカートが短い普通のファミレスだから」
どうやって調べたソレ!?
「じゃあ私はちょっと電話するところがあるから、先に駐車場に行っててくれるかい?
私の車は一際(ひときわ)目立つからすぐ分かるよ」
「えっ、あの!」
言いながら猛スピードで去っていくアーレイ。
あの俊敏さなら戦士になれるだろう。
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