第4話 勇者派遣会社の会議

 昼過ぎ、セイバーグループ本社C‐三会議室ではCランクパーティーの勇者達が集まり、担当部長であるリレイからの報告を受けている。


 週に一度、定期的に行われる勇者会議だが、今日は緊急招集で集まっている。


 とは言っても発言権は担当部長のリレイが握っているし、勇者同士が話合うというよりも、ただリレイの報告を聞き、質疑応答をするという色が強い。


 階段教室のような部屋の座席には一〇〇人近い勇者が座り、全員腰には剣を挿しているが鎧姿では無く、胸にセイバーグループのエンブレムが入った制服を着ている。


 Cランク勇者、とは言っても魔術と法術を自在に操り、勇者養成学校であらゆる戦闘訓練を受けた彼らは、一人で並の兵一〇〇人分の働きをすると言われている。


 Aランク勇者にもなればそれこそ一騎当千、それがパーティーを組めば、戦争においては人間兵器とすら呼ばれるのも納得だ。


 決して国の兵士が弱いわけではないが、かつて勇者レギスが魔王バルアードを倒し世界を救ったこの世界。


 勇者はいわゆる花形職業であり、法術や魔術の才あるものは皆、軍隊ではなく勇者派遣会社に入社する。


 当然勇者養成学校で魔法と戦闘の素養を身につけても、

『私はお国に尽くします』

『偉大な王にこの身を捧げる!』


 などという奇特な人もいるが、それはごく少数である。


「というわけで、ここ数日の間に起こった事件は瘴気によるものよ」


 リレイの落ち着いた声に勇者達は注目する。


 知的なメガネを人差し指で上げて、リレイは続ける。


「学校で習ったと思うけれど、瘴気は人の中の狂気を増長させ、狂わせるわ、症状が軽いうちはまだ本人の意思や理性もあるし記憶にも残るけど、重度の者はその間の記憶を失うわ」


 瘴気とは魔族の肉体を強め、逆に人はその毒に犯されその身を蝕まれて精神を壊してしまう。


 魔王バルアードが健在の頃は世界の各地で見られた気体だが、勇者レギスの活躍で魔族がいなくなった今、瘴気の発生する土地はごくわずか。


 それも各国家が危険区域に指定し、誰も入れないようになっている。


「被害者たちが瘴気を吸った経緯はまだ分からないけれど、今後勇者のみんなには特別任務が下りる可能性もあるわ、それと」


 リレイの鋭い瞳が最前列に座るウィルトを射抜く。


「ウィルトは今月、五万ゴールド減給します」

「なんで!?」


 会議室を包む笑い。

 人の不幸を笑うとはてめーらそれでも勇者か!?


「貴方がフェンリルを壊すのはこれで何回目かしら? 今月に入ってから昨日の分を含めて五回だったかしら?

 それも危険度の低いC級任務で、しかも路面を凍らせたせいで起こった二次災害も見逃せないわ」


 実際にはクロエが凍らせたのだが、事件後の報告の際、凍らせるよう指示したのは自分で、すぐに溶かすよう指示しなかったのもリーダーである勇者の落ち度。


 と言ってクロエをかばった結果がこれである。


 クロエのドジをフォローするのは子供の頃から慣れているが、子供と違って大人の世界では減給や降格という罰則があるのだ。


「ではこれで会議を終わるわ」


 って俺はオチ扱いかよ!?


 会議の締めが俺の減給通告って! しかもそれメールでいいじゃねーか!

 とは口が裂けても言えないウィルトであった。


 リレイは部長という役職に就いているとは思えないほど若く、スレンダーなメガネ美人だが、その目に宿った鋭さにはBランク勇者でさえたじろいでしまう。


 通称氷の女王、それが彼女、Cランク勇者第二部隊担当部長リレイである。


 彼女が退室すると勇者達も次々に立ち上がり、退室し始める。

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