第3話 勇者パーティー寮生活の朝
「起きてるかクロエー」
こんな時間に起きてるとも思えないが一応は、である。
壁一面を覆う本棚は魔術書で埋め尽くされ……てはいるがその中の数冊がカバーだけで中身が少女漫画とファンシー情報誌である事はリサーチ済みである。
締め切られた黒カーテン越しの太陽光だけが頼りの部屋で、このミニ図書館の主は机に突っ伏して寝入っていた……と表現するのは間違いだろう。
「おお、クレイジー……」
その絶景にウィルトは感動すら覚えた。
クロエは机で寝ているが、机に突っ伏してはいない、自分の胸に突っ伏していた。
全ウィルトが総勃ちで神にこの奇跡を感謝した。
自分の腕じゃなくて胸を枕に寝るってどんな神具だよ!?
神具(しんぐ)の寝具(しんぐ)ってダジャレかよ!?
俺はこの世のどんな神剣神槍よりソレが欲しい!
クロエの胸に比べたらこの世のどんな安眠枕も石同然、子供の頃から着実に成長を続けるメロンの収穫日はいつですか!?
仕事中の暑苦しいコートとスーツを脱いで半袖の黒ワンピース一枚になるとクロエの胸は自重を忘れて本領を発揮。
ブラックホール並の吸引力で俺の手が伸びる。
毎朝恒例の精神修業タイム。
それがこの《クロエ起こし》である。
深い眠りについて、余程の事が無いと起きない状態で無防備な爆乳に触れる事を我慢する。
この修業のおかげで俺の精神力がどれほど養われた事か。
砂漠横断演習で持ち水の半分をエリカに強奪されても生きて帰れたのはクロエのおかげだと俺は自負しているし、クロエが後ろから抱きついてきた時は攻撃力が三倍になって一撃でドラゴンを倒した事もあった。
まことに素晴らしい万能おっぱいである。
パラメーターアップのどんなアイテムや装備品よりも俺ならクロエを選ぶね。
などと思っている間に右手がクロエの胸に触れそうになる。
先生は言った。
『この勇者学園に通う皆さんは勇者として恥ずかしくない行いをしましょう』
『勇者とは人の弱みに付け込む卑劣な悪漢達を倒す存在なのです』
『この学園の校則はただ一つ、そう、常に勇者たれです』
ウィルトの脳内に迫る二択。
勇者やめますか? おっぱいやめますか?
「先生、俺は勇者である前に一人の男なんだ」
即答である。
そしてウィルトの魔手がクロエのワンピースに触れ、
「大丈夫だよエリカ、だってボクはウィルトを信じてるもん、むにゃむにゃ」
ウィルトは床に崩れ落ちてさめざめと泣いた。
「クロエちゃんマジ天使、眩し過ぎて俺のような下衆(ゲス)には触れません」
よろけながら立ち上がるとクロエの肩を揺らして声をかける。
「おい起きろクロエ、もう昼だぞ」
何度か繰り返して、ようやくクロエの目がうっすらと開く。
「ん……、あれ? ウィルト?」
寝ぼけたクロエが可愛くて頭が春になる。
普段は真面目な美人さんがちょっと抜けた感じになると童顔のエリカとはまた違った可愛さがあるものだ。
「また遅くまで研究か?」
「ああ、この術が完成すれば今使っているコートの耐魔力をさらに一五パーセント上げられるはずなんだ」
「そりゃすげーな」
「完成したらウィルトの鎧にも掛けてあげるよ」
「相変わらず頼もしいねえ、じゃあこれから昼ご飯作るから歯磨きして顔洗って来い、て言ってもクロエにとっては朝飯かな?」
ニカリと歯を見せると、クロエもほほ笑み返してくれる。
「そうだな、じゃあボクは洗面所に行ってくるよ」
「はいおつかれさん」
そう言って、何故か部屋に残ってクロエが出て行くのを確認すると、ウィルトはすかさず机に突っ伏した。
「あったけーなぁ、冬もクロエと一緒に寝たらきっと暖房いらずだよなぁ」
机に残されたおっぱいの温もりを顔と手で余さず独占し、さらに息をすると感じる甘い香りも相まって、脳味噌が熱くなる。
魔術書だらけで窓とカーテンを閉め切った部屋は、黒魔術師というイメージにぴったりだが、香水を使わないはずのクロエの部屋はいつもいい匂いがする。
おそらくクロエ自身の匂いだろう。
我が幼馴染ながら惚れぼれするほどの実力だ。
あれで家事ができれば完璧なのだが、まあ女は不完全なほうが魅力的だ。
シチューを作るのに大真面目な顔で薬品の瓶ケースを持ってきた事件は記憶に新しい。
でも、そんな些細な事を差し引いてもクロエは十分に魅力的である。
週刊勇者マガジンのグラビア撮影依頼が毎週来る実力は折り紙付きで、だけど恥ずかしいからと毎週断り編集者を泣かせるのもグッドだ。
この世でクロエの水着写真を持っていいのは両親を除けば俺だけだからな。
「随分おもしろい事やってるじゃないウィルト」
脳天を突き抜ける悪寒に万分の一秒でクロエの机から離れるが、振り向けば開いたドアにテレビの収録をしているはずのサーシャが立っていた。
もちろん、その顔は心弱い人間を見つけた悪魔のソレで。
「サ、サーシャ様? テレビの収録はどうなされたのでございますか?」
「そんなのとっくに終わったわ、アタシはあくまでショート番組のワンコーナーに呼ばれただけだもの、帰りにどこかに寄ろうかとも思ったけど、家でおもしろい事が起こってる気がしたから真っ直ぐ帰ってきたわ」
なんてカンのいい奴だ。
「それで何? チキン過ぎて幼馴染の寝込みを襲う事もできずおっぱいの残り香にむさぼる所を見られたような顔して」
馬鹿な、こいつはせいぜい俺が机に頬ずりするのを見ただけのはず、なのに何故そこまで分かる!?
実際にはウィルトの日課である『クロエ起こし』の全容を知っているだけであるが、ウィルトはそこまで頭が回らない。
「ふふ、このことをクロエが知ったらどう思うかしら?」
「やめてくれ! あいつは学校で保体の授業を受けるまで子供はキスでできると思って、俺が女の子ハグしないと死ぬ呪いを受けたと言えば本当に抱き締めさせてくれる奴なんだぞ!」
この魂まで真っ黒なエセシスターと違って純真無垢なクロエがどれほどのショックを受ける事か、それだけは避けたかった。
「……あの牛魔女そんな馬鹿だったの?」
冷めた目で問うサーシャ、だがウィルトの言(げん)は全て真実である。
「おいおいひがむなよぶはぁあああ!」
サーシャの右ストレートが綺麗にキマり、ウィルトは片ヒザをついた。
「まったく、アンタは本当に何も分かってないのね、女の魅力は胸じゃないわ」
「へっ、胸に勝る魅力なんて」
ススッ
サーシャが白い僧衣の裾を上げる。
ヒザをついたウィルトは途端に立ち上がるろうとするのをやめて、むしろさらに姿勢を低くして趨勢(すうせい)を見守る。
徐々に、徐々にたくし上げられる白い布の下から細く、布地とは違う、人の持つ自然な白さを持った肌が晒される。
形の良い指、足首、スネ、ヒザ、そしてついにフトモモが垣間見えて、ウィルトは眼を血走らせる。
「ねえウィルト、女の魅力は何かしら?」
「それは……」
言い淀むウィルトに、サーシャは裾を一気にまくりあげて、フトモモを完全に露出させ、純白の下着すら晒した。
ずがん!
たまらず土下座を床に叩きつけ、ウィルトは平服した。
「いい子ね、顔を上げていいわよ」
鼻息を荒くして美脚を見上げるウィルト。
カーテンを閉め切った部屋でも分かるキメ細かい肌、まるで日に当たった事の無い箱入りお嬢様を思わせるほど白く、見ているだけで頬ずりしたいソレは、つま先から付け根までがまるで一つの芸術品であるかのような曲線を描いている。
ウィルトの視姦を一身に受け止める美脚は、だが突然幕が下りてしまう。
「ハイ終了、じゃあさっさとお昼作りなさいよ」
踵(きびす)を返すサーシャに、ウィルトはようやく正気に戻ってから握り拳で心中に自身の想いを焼きつけた。
俺はムチっとしたクロエのフトモモも好きだ。
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