第42話 本物の勇者
元々上をいくウィルトはみるみる天属性の使い方をマスターし、さらに攻撃力が天上知らずに上がっていくのだ。
何故ウィルトが天属性を使えるのか、何故人の身でありながら魔王を超える力を持つのか、答えは至極単純、ウィルトは生まれる時代を間違った天才だった。
千年前に魔王バルアードを倒した勇者レギスを思えば、ウィルトは百年どころか、千年に一人の天才だ。
だが魔王が世界を支配する世では英雄として振るまえた才能も、かつての暗黒時代に比べればあまりに平和過ぎる現代にあっては過ぎた力だ。
ウィルトの力に対して世界が狭すぎる。
魔術を使った強盗事件や危険指定モンスターの密売、その危険指定モンスターの討伐がせいぜいの現代に、一撃で天地を割る剣を振るえる相手などいない。
だが今、生まれる時代を間違い、幼い頃から才能を腐らせて来た勇者は戦神となって現代の魔王と真っ向から衝突し、その神威を示す。
「諦めろフィリア! お前に勝ち目は無い!」
「黙れ! こんなところで終わってたまるか! 私は最強になるんだ! 絶対に、絶対に最強になるんだ! 貴様なんかに負けられないんだ!!」
「俺が六年間見てきたフィリアは魔王なんかに頼らない!!」
「!?」
フィリアの剣技に僅かなほころびが生じる。
「最強目指すの上等!! でも六年間見てきた、六年間好きで尊敬してきたフィリアは努力で最強を目指す最高にカッコイイ奴だ!!」
「嘘を言うな!!」
「嘘じゃねえ!!」
血を吐き出さんばかりの叫びをウィルトは否定する。
「お前はずっと頑張っていた。学園の誰よりもだ! 毎日訓練場に残って、毎晩遅くまで勉強して、お前が頑張らねえ時なんて俺は見た事がねえ!!
確かにお前の悪人は殺してもいいなんていう考えには賛同できねえ、でもそれだって罪も無い人達を守りたい一心で決めた事だ!
お前はいつだって正しくあろうとして、いつだってみんなを救おうとして、その為ならどんな苦しみも乗り越えていた!
俺はそんなお前を尊敬した! こいつが勇者になれば世界も平和になるって! フィリアこそ勇者になるべき人間だって!
そんなお前と仲良くなりたくて、友達になりたくて、だから俺は何度もお前を遊びに誘ったし卒業できるように教師連中に頭も下げた!
強ければみんなが慕ってくれる? フザけんな、俺はお前が強いから好きなんじゃない、お前がすげーカッコイイから好きなんだ!
俺がずっとお前と一緒にいるから!
俺がずっとお前の側にいるから!
だから!!!」
「だまれぇえええええええええええ!!」
「俺は! 一人の勇者としてお前が大好きだぁああああああああああああ!!」
ウィルトの剣撃がフィリアを捉える。
横薙ぎの一撃がフィリアの左腕を斬り裂き、鎧が消し飛ぶ。
「ぐっ……」
鎧の下まで広がった黒い文様に白い肌は隠されているが、それでも彼女の形の良い綺麗な手は魔王に侵されてもなお健在だ。
しかし頑強な魔王の鎧に守られていた腕が晒される事に耐えられず、フィリアは魔王の力が一部失われたショックで悲鳴を上げる。
「私から魔王を奪うなぁー!」
鎧は肩から徐々に再生するが、フィリアは錯乱してウィルトから距離を取る。
涙を流し、怯えるように両肩を抱いて震えるフィリア、不意に、その体をウィルトの腕が優しく抱いた。
「…………なにを」
「ごめんなフィリア、俺がちゃんと言っていればこんな事にならなかったのにな」
「だから何を言って」
「フィリア」
翼とツノを持った、もはや人の姿を成さないフィリアと視線を交わらせて、ウィルトは柔らかく微笑んだ。
「お前俺んとこに来いよ」
「え………………」
言われたのは、あまりに唐突な言葉で、フィリアは混乱して抵抗する事も忘れてしまう。
「本当は入社してすぐ言いたかったんだけど、お前怒るかなって思って、だけどそれが駄目だったんだよな?
だからさ、お前は剣士から勇者に編入したがってるから、ずっととは言わねえけどさ、せめてお前が勇者になる時まではいいだろ?」
「なんで……?」
あまりに温か過ぎる言葉に、自分を抱き締めるウィルトに身を預けたくなってしまう、鎧越しにウィルトの温もりを感じながら、フィリアの目から恐怖からでは無い涙が一筋流れる。
「なんでって、やっぱさ、俺お前と一緒にいたいんだわ、学園時代からずっとクロエがいて、エリカがいて、サーシャがいて、だけどお前がいないと俺の日常じゃないんだよ、なんかいつまでも家族が欠けたみたいでさ、だからよ」
歯を見せて笑うウィルトがフィリアの心を照らす。
「一緒にパーティーやろうぜ」
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