第20話 勇者と剣士
「ライトニングエッジ!」
「エアロエッジ!」
エリカが剣を振るって放つ電撃の刃が三体のキマイラを、ウィルトが放った風の刃が五体のコボルトを倒す。
「ちっ、キリがねーな」
「ギガフレイム! この辺は人がいないけどこの先がどうなっているかまだ分からないから……」
そこへ、背後から迫る車の駆動音に三人が振り返ると、国の軍用車が次々に停車し、中から軍服に身を包んだ武装兵士が次々に下りて来る。
「勇者殿、我々も加勢します!」
明らかに年下のウィルトに敬語を使う部隊長の指示で魔銃を持った兵士達が横一列に並び、前列の兵士がしゃがみ低い姿勢で、一列後ろの兵士は立ったまま、エリカやウィルトのいない場所へ向かって狙いを定める。
「撃てぇええええええええええ!」
兵士達の銃口から一斉にファイアボールが放たれる。
一発一発が弱くても、上下二列に放たれる数十発の火球はモンスターを焼き殺し、それなりの数を減らすが、ウィルトやエリカの剣のほうが同じ時間で倍以上のモンスターを駆逐できるだろう。
言ってしまえば、兵士は弱いのだ。
勇者に遥かに劣る。
そもそもモンスターとは人間よりも遥かに強い存在であり、常人がどうこうできる相手ではない。
勇者達が一騎当千の活躍ができるのは子供の頃から養成学校で魔術か法術の訓練をして、魔力の使い方と戦い方を学んだ戦いのエキスパートだからである。
魔術や法術の素養や才能が無く、勇者になれなかった人達の集まりで、未発達な魔銃に頼る兵隊の実力ではこれが精いっぱいだろう。
自分の持つ力を振るえない事にクロエが歯がみして、エリカとウィルトも表情を曇らせる。
「クロエさー、人間には効かない攻撃呪文とかないのー?」
「そんな都合のいい呪文は――」
「クロエ!」
上空からの声に見上げると、背後の空に、白い魔法陣を足場に浮かぶサーシャが宙を滑るようにしてこちらへ飛んでくる。
「ここから先の道路、人間の反応は全部車の中からするわ」
「わかった、それなら」
「え? あんたの呪文なら車ごとオシャカじゃない? ってうわぁ!」
モンスターを斬りながら頭上に疑問符を浮かべるエリカをウィルトが抱きあげ飛び下がる。
「サーシャも下がれ、デカイのくるぞ」
「そうみたいね」営業スマイルで「兵士のみなさーん、ちょっと下がって頂けますか?」
三人と兵士達がモンスター達と距離を取りクロエの背後に下がり、そしてクロエは魔力を両腕に集中させる。
「魔力を調整して威力より範囲重視で……」
クロエの両手の指話から青白い光が溢れ、両手を突き出す。
「テラブリザードォー!」
目の前まで迫っていたモンスターの軍団が一瞬にして白い光に飲み込まれる。
問答無用で対象から熱エネルギーを奪う冷気は高速道路を包み延長上の全てを凍てつかせ、一〇〇メートル、二〇〇メートルと氷の世界を作り出してなおも止まらず、カーブでは高速道路の壁に当たり同じくカーブして、綺麗に高速道路上の全てを凍りつかせてしまった。
「すげ……」
兵士達は絶句し、ぽかん、と開けたエリカの口はそれ以外の言葉が言えなかった。
「ふぅ、これで車も全部凍りついたけど中の人は無事のはずだよ、ちょっと寒いだろうけど、そこは我慢かな」
「相変わらずバカげた魔力量ね、牛魔女、アンタ魔王の末裔か何かじゃないの?」
「うちは代々黒魔術師だけどそれは無いよ」
「あれ? そういえばウィルトの奴どこ行ったのさ?」
きょろきょろと見回すエリカに、クロエはさも当然と言った具合に、
「ああ、ウィルトならとっくに」
クロエの見た方向へ視線を投げると、そこには一直線に砕かれた氷像の列があった。
「「え?」」
学生時代を共にしたはずのエリカとサーシャの目が点になった。
エデンガルド、第五研究所。
モンスター研究を主とするその施設は地下に数千に及ぶモンスターを飼育し、同時にモンスター達が逃げ出さないよう、万全のセキュリティが完備されている。
しかし今研究所の扉は全て開き、廊下に下りる隔壁はごく僅か。
おかげで研究所全体がモンスターに溢れ、ノーパスで外に出る始末だ。
しかし、一本の廊下には走るモンスターの姿は無く、モンスターの死体が埋め尽くしていた。
床一面にモンスターの血が溜まり、その奥で全身を赤く染まった勇者が別の廊下から躍り出したモンスターに肉迫する。
「ちっ、こいつはまずいな」
立ちふさがるのは八頭の人面ライオン(マンティコア)。
ドラゴンには及ばないが、その強さは間違いなく一級であり、学生時代の実習でもマンティコアに会ったらまず逃げるよう言われている。
それでも……
「ちょいと属性でも使うか」
ここまで肉体強化だけで突き進んだウィルトが魔力を集中させると剣が燃え上がる。
近くの部屋に人の気配がしない事を確認して、振り上げた剣をマンティコアの顔面に叩きつける。
爆ぜる空間。
廊下が熱気に包まれ、周囲の壁もろとも巨大な爆発で消し飛び、一級の強さを持つマンティコアは一頭残らず骨も残せなかった。
「くそ、アーレイさんどこにいるんだよ、まさかもう食われたなんて事ねーだろうな」
ここに来るまで随分と喰い殺された研究員の死体を見てきた。
上手く非難してくれていればいいのだが、あくまで研究者であり非戦闘員であるアーレイにそこまでの期待は無理だろう。
だがやみくもにモンスターを殺し研究所の壁をブチ抜きながら探したところで数と広さを考えればただの魔力の無駄遣い。
なんとかしてアーレイの居所を直接知りたい所である。
ギシ
「ん?」
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