第11話 瘴気事件
「というわけで、昨日、国から正式に瘴気事件解決の依頼が下りて来たわ」
あれから一週間後、夕方の勇者会議でリレイがウィルト達勇者に告げる。
どうやら瘴気で発生した狂人達は警察の手に負えるものではないようだ。
国が民間企業に事件解決の仕事を依頼するのは奇妙な気もする。
だが、勇者が世界を救ったという歴史的背景を持つこの世界において勇者の信頼は非常に厚い。
そして勇者派遣会社に所属する勇者パーティー達は戦闘能力重視で選出され、公務員ではないため国に縛られず迅速かつ積極的な行動で多くの成果を上げ、国からの強力要請も多々あるのだ。
「これからみんなには瘴気関連の仕事に就いてもらう機会が増えるし、術師達には瘴気に関する特別講習を受けてもらう事になると思うから、仲間の術師よく言っておいて、じゃあ質問のある人は?」
勇者達が誰も挙手しないのを確認して、リレイは資料を挟んだクリップボードを小脇に抱える。
「じゃあこれで会議を終わるわ」
「っで、クロエとサーシャって瘴気には詳しいのか?」
自分で作った晩御飯を食べながらウィルトが尋ねると二人は頷きながらトンカツにタレをかける。
「アタシ達は研修で瘴気の発生地に行ったわよ」
「瘴気の気配を探る訓練とかしたな」
「クロエ、あんたそれソースじゃなくて醤油だぞ」
「な、ボクはちゃんとマイソースにシールを張ったぞ」
エリカのツッコミにクロエは眼を丸くするが。
「バカねえ牛魔女、アンタ、ネームシール張った瓶に醤油入れたじゃない」
ガーン!
と音が聞こえそうな顔で固まるクロエ。
「ったく、しょうがねーな、ほら俺のトンカツやるから」
と、ウィルトがソースがかかっているはずのトンカツを差しだすが。
「すまんウィルト」
途端に眼を伏せ、
「君のソースが減っていたから……ボクのソース瓶を作る時に足して……」
自分のトンカツを一口食べる。
ソースと醤油の混ざった味がした。
「…………」
「す、すまん、ボクは気を利かせたつもりだったんだ! だけどまさかアレが醤油だったなんて」
「あんたら夫婦(めおと)漫才なら他でやれよな」
「め、夫婦……」ぽっ
エリカのツッコミにクロエが赤面する。
「おいおい俺なんかと一緒にしたらクロエが可哀相だろ、見て見ろ、目に涙溜めてるじゃないか」
って泣くほど嫌なのかマイ幼馴染!
へっ、わかってますよ! 幼馴染とは一生の友達、永遠に恋人にはなれないのさ!
「エロ勇者死ねばいいのに」
「なんだよサーシャ、俺は何も悪い事してねーだろ」
「ウィルト、お前モテないだろ」
「エリカまでどうした!? なんで俺挟みうちに遭ってるんだよ! 助けてクロエマーン!」
「ウィルトなんて知るもんか」
フォークを口に当ててぷいっと横を向くクロエ、だが唯一の味方に見放されてもクロエの爆乳をチラ見せずにはいられないウィルトだった。
「ちくしょう! グレて実家に帰ってやる!」
ぴんぽーん
反抗期の息子と夫婦喧嘩中の妻の間を宙ぶらりんな勇者が立ち上がるが、突然のチャイムに全員が玄関の方を見る。
「こんな時間に誰だ?」
ウィルト以外がイスに座っている時点で出るのはウィルトで決定。
とはいえ来客の対応はいつもウィルトの役目だ。
勇者ウィルト、主夫コンテストがあれば確実に優勝する逸材である。
やがて小包を持ってきたウィルトが食卓テーブルに戻ってきて、床の上で箱を開くと白い包みとメッセージカードが入っている。
「なんだこれ?」
自分宛てのそれを読み上げると。
ウィルトへ
エデンガルドで勇者業頑張ってるかい? お父さんとお母さんいつアンタがテレビに出てもいいようにビデオレコーダー新しいの買ってテレビも五〇インチの買ったよ
「おいおいプレッシャーだな」
本当は一〇万ゴールドのテレビだけど五万ゴールドでいいって
連絡先を黙秘した黒スーツの人が言うから買ったよ
「母さん騙されてる!!」
お近所さん達も期待してるよ、それと早く孫の顔が見たいから
モタモタしてないで早くクロエちゃんと結婚しなさい
読み上げられてクロエの顔が耳まで赤くなる。
口はパクパクと開閉するばかりで出る言葉もないようだ。
「ってあんたらそういう関係かぁあああああ!」
エリカの右ストレートがウィルトの顔面を打ち抜く。
「ぐぼっ! ちげーよ、俺の親が勝手に決めてるだけだよ」
「なんだ、あたしゃてっきりパーティー内でデキ婚が起こるかと思ったぜ」
「ったく勘違いしやがって」
追伸
うちの新商品送ったよ
「新商品?」
「これあんたの顔?」
勝手に白い包みを開けるエリカが差しだすパンにはデフォルメされているが、ウィルトの顔と分かるソレが焼印されている。
原価二ゴールド売値二〇ゴールドのパンがあんたの顔焼印して
勇者パンて名前つけるだけで五〇ゴールドで売れるんだから、本当
紙幣作ってる気分だわ、じゃあ早く名を上げてね
両親より
「って、勝手に俺で商売すんな!」
「でもこれおいしいよ」
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