第3章
第1話
翌日、チトセは新ポジションの『ケア』に事務所内で正式に任命された。
そして、稽古をするための場所を借りるため、アランとリヴのもとへ行った。
「リヴ〜いる〜?」
「きゃー!アラン!久しぶりね!今日も可愛いわぁ!」
リヴが駆け寄りアランに抱きつく。
アランは面倒くさそうな顔をしている。
どうやら、店にはリヴ1人のようだ。
「リ、リヴさん、アラン知ってるんですか?」
「もちろん!アランのお家?事務所?も私が紹介したんだもん!」
「リヴは表の土地も裏の土地も、なんでも取り扱ってるからね。夢人は結構お世話になってるんじゃないかな。」
「そ、そうなんだ…」
「それで?私に会いにきたの?」
「いや、道場みたいのを借りたくて。」
「いやって…」
「チトセに稽古をつけたいんだ。」
「なるほど!任せて!やっぱり一般用じゃなくて、夢喰用の土地がいいよね?調べてみるね!」
そういうと、リヴは奥の部屋へ行った。
「…リヴさんは、夢魔のこと、知らないんだよね?」
チトセが小さな声でアランに問う。
「うん。夢喰のことも、イマイチわかってないと思うよ。だから、リヴを巻き込まない為にも、仕事のこと、あまり喋らないようにね。」
「わかった。」
––リヴが戻ってくる。
「良い場所あったよぉ。今は空き家状態の道場だけど、設備はそのままみたい。道場の裏に開けた土地があって、雑草だらけかもしれないけど、良かったらそこも使っていいよ!」
「とってもいいね!…それで……結構…高いのかな…?」
アランがきゅるるんとした目でリヴを見る。
「ゔッ!…もちろん、特別価格よ♡」
「やったぁ!リヴ大好き!」
「私も〜っ!!」
リヴのハートを撃ち抜いたらしい。
…策士だ…。
そして、稽古が始まった。
「よろしくお願いします、アヤメさん!」
「はいよ。私は…そうだね、最初の稽古だし、基本を教えよう。」
「はい!ありがとうございます!」
チトセは木刀、アヤメは先が丸い練習用の薙刀だ。だが、アヤメは薙刀を木刀に持ち替えた。
「刀の一般的な構えはこうだが、流派によって構えは変わる。チトセが刀を使っていく中で、自分の力が出しやすい構えを見つければいいさ。」
「はい!」
アヤメは実際に動きを見せながら、型の例や呼吸の仕方、足の動き等をチトセに教える。慣れてきたところで、アヤメと試合をしてみる。アヤメは子どもの相手をしているかのように、ひらりと身を躱す。時に木刀で攻撃を防がれるが、その木刀はびくともしない。
チトセはゼェゼェと息が荒くなるが、アヤメは息が上がるどころか、汗ひとつかいていない。
「まぁ、初日はこんなもんさ。これから少しずつ強くなればいい。ただ、体力と筋力作りのためにも、毎日刀を振ること。」
「ハァ…ハァ…はい!わかりました!…アヤメさん、木刀でもそんなに強いんですね…。」
「薙刀を勉強した時に、ついでに刀の勉強もしてたからね。ある程度知識はあるし、練習相手にはなると思うよ。わからないことがあったら、いつでも聞きな。」
「ありがとうございます!」
「…あと…敬語、いらないよ。」
アヤメが少し照れ臭そうに言った。
「あ、えと、ありがとう!」
そして、アヤメの一週間の稽古は終わった。
結局、アヤメから一本も取れなかった。
–−–−–
次の週。シロガネが稽古をつけてくれた。
「よろしくお願いします、シロガネさん!」
「うん、よろしく。アヤメからは、基本を教わったんだよね?じゃあボクは、速さを鍛えてあげよう。ボクの得意分野は突きだから、斬るとはちょっと違うけど、教えてあげられないわけじゃないから安心して。」
「ありがとうございます!」
そして、シロガネから早技のコツや目の動き、身体の使い方、身の躱し方等を教わった。
「スピードを出すには、脚の筋力や身体の柔軟性も大事なんだ。毎日、ストレッチと脚周りの筋力強化も欠かさずにね。メニューを考えてきたから、参考にして。」
「ありがとうございます!頑張ります!」
「あ、そうだ。前の稽古が終わった後、随分アヤメと仲良くなってたじゃないか。羨ましいな。ボクとも仲良くなってよ。」
「えと…シロガネさんとも、もう仲良いと思ってたんだけど…。」
「あれ?そうなの?」
「うん…。敬語、やめるね。」
そして、シロガネとの稽古が終わった。
やはり、シロガネから一本も取れなかった。
–−−–−
次の週。ビビとの稽古だ。
「よろしく!ビビ!」
「よろしくね!…でもチーちゃん、大丈夫…?毎日仕事終わりに稽古して、その後ずっと自主トレしてるでしょ?」
たしかに、稽古週間が始まってからも、依頼があればケアとして様々なことを学びながら仕事をしており、その後稽古をつけてもらっている。稽古が終わればギリギリまで刀を振り、筋トレとストレッチも毎日欠かさず行っている。
「最初は筋肉痛が酷かったけど…いや、今も痛いけど、大丈夫!早く強くなりたいんだ。」
「あんまり焦っちゃうと、身体壊しちゃうよ?懐中時計が壊れない限り死ぬことはない世界だけど、痛みはあるし、しばらく動けなくなっちゃうことだってあるんだよ?」
「うん…。でも、ちゃんと自分の中で境界線は決めてるし、どこまでがセーフなのか、わかってるつもりだから、大丈夫だよ!心配してくれて、ありがとう。」
「…ふふ、なんだかアーくんに似てきたね。元々似てたのかな?」
「そうかな…?」
「うん!…よし、じゃあ無理のない範囲でお稽古始めよう!ビビのギアは、この前見せたけど、大きな扇子なの。風を起こして、みんなを守る盾を作ったり、相手を遠ざけたりするのが得意。扇子の先が刃になってて、一応これで斬ったりできるけど、攻撃も風を使うことが多いかな。だからチーちゃんとは、攻撃も防御もまるで違うから…何教えようかなぁ…。身の守り方とか、範囲攻撃の避け方とか?」
「うん!教えてほしい!あとは…受け身とかも身につけたいな。」
「わかった!じゃあ、痛くない風を使って、いろいろ練習してみよう!」
「うん!お願いします!」
そして、ビビの風を受けながら、受け身や範囲攻撃の回避、その場で飛ばされず持ち堪える耐久力等を身につけるための特訓をした。
そして、ビビとの稽古が終わった。
ビビが軽く作った風でも
何度も飛ばされてしまった。
「きっと筋力と柔軟性が上がれば、もっといい動きができると思うよ!ビビ、速い風も作れるから、瞬発力とか目を鍛えたい時も相談してね!」
「わかった!ありがとう!…それと、もう一つお礼を言いたいことがあって。」
「ん?なになに?」
「俺がここでこうしていられるのは、ビビがあの時アラン達に、やってみないとわからないって言ってくれたからだ。本当にありがとう。」
「え!照れちゃう!…チーちゃんは、ここで本当に良かった?」
「もちろん!だから、ビビに感謝してる。」
「えへへ!良かった!これからもよろしくね!チーちゃん!」
「うん!よろしくね。」
–−–−–
次の週。
最後はアランの稽古だ。
アランは練習用の短剣を持っている。
「よろしくね、チトセ。」
「うん!よろしくお願いします!」
「ひと通り、みんなから教えてもらったよね。あとは日々の積み重ねを大切にして、本番でどのくらいそれを発揮できるか。俺との稽古はひたすら実戦。まだ始まったばかりだから、すぐには難しいと思うけど、ちゃんと積み重ねていけば、いずれ俺に攻撃が当たる時が来るよ。俺に攻撃が当てられれば、稽古は終了!だから、当てられなければ、何ヶ月も何年も続くよ。覚悟は良い?」
「うん!もちろんさ!必ず当てる!」
「その意気だ!じゃあ、始めるよ!」
「はい!」
初日、アランに指一本触れることが出来なかった。
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