第6話
あの少年達の事務所を探そうと、先日歩いた道を辿るが、見つからない。夢人界や事務所は、一般人に見つからないよう、決まった順に路地を曲がらないと辿り着かないようになっているらしい。あの時は、たまたまその順序で歩いたのだ。
「夢人界で会えるのを待つか…」
チトセがボソッと呟く。すると、バサッ…と上から物音がした。チトセはすぐに反応し、音を目で追いかけると、あの少年の姿が見えた。少年は建物の壁やベランダを伝って高く跳びながらどんどん先へ進んでしまう。
「まっ、待って…!」
チトセは少年を追いかけた。夢中で追いかけていると、いつのまにか自分も建物の壁やベランダを伝って跳びながら追いかけていた。
「待って…!」
チトセは大きな声で呼ぶ。少年はビクッと反応し、後ろを振り返る。
「…あれ、チトセ?」
少年は地面へ着地し、チトセはようやく追いついた。
「ハァ…ハァ…あの、俺、実は夢喰に…」
「うん、そうみたいだね。夢喰になった人は、身体能力が格段に上がるからね。」
「そうなんですか…。あ、それで、もし良ければ、俺をあなたの事務所に入れてもらえないかなって、思ったんですけど…」
「え!やった、あ、うーん…でも、うちは普通の夢喰と違うことしてるから…ちょっとチトセには厳しいかも…」
「え?どういうことですか?」
「うーんと…とりあえず、うちの事務所で話そう。ついてきて。」
少年はチトセを事務所まで案内した。
−–−–−
–––カランカランッ。
「ただいま〜」
「おかえり…て、チトセ?」
怪我の手当をしてくれた、あの時の女性だ。
「こ、こんにちは。また来ちゃいました…」
「あのね、チトセ、夢喰になったんだって。それで、ここに入りたいって。」
「……。アランから説明しておくれ。」
「うん。…チトセ、実はね、俺たちはね、夢喰から疎まれるような仕事をしてるんだ。時として、夢喰の敵になる。戦うことだってある。」
「え?どういう、こと?」
「夢喰は人々を導き、幸せにするための夢を見せる仕事なんだけど、俺たちは違う。俺たちは
「…そんなの、許されるの…?」
「それを許さないと思う夢喰はたくさんいる。その想いが強いと、夢喰を取り締まるための夢喰になるヤツがいる。そいつらは、
「でも私らも、ちゃんと考えや想いがあってやってるんだ。生半可な気持ちでこの仕事をやってるわけじゃない。」
「でも、だって、なんでそんなこと、する必要があるの?」
「うぅん…説明するのは難しいんだけど…」
「…俺には…まだ理解できません…」
「まぁ、そうだよね…。そういうことだから、チトセは普通に…」
「口で説明されても理解できないので、実際に見せてください!どういうことをしてるのか。」
「…え?」
「こうして話してても感じるんだけど、見ず知らずの俺を助けてくれた人たちが、悪いことしてるだなんて思えない。きっと、仕事を見れば解ると思うんです。それでも理解できなければ、俺は普通の夢喰に、あるいは夢守としてあなた達に立ち向かう。だから、俺の気持ちをハッキリさせるためにも、お願いします。一度でいいから、見せてください!」
「…どうだい、アラン。職場見学ってことで、一晩仕事を見せてやらないかい?」
「…うん、そうだね。じゃあ、今夜の仕事を見学してチトセの想いを聞かせて。」
「はい、よろしくお願いします!」
−–−–−
深夜1時30分。
少年が自身のジャケットを整えながら、チトセに説明をする。
「深夜2時に、夢人達の各事務所が現世と繋がるんだ。ちなみに、あっちの扉が現世と繋がる。」
少年は、今までチトセが出入りしていない方の出入口ドアを指差す。
「だから出入口が2つあったのか…」
「うん。それで、朝日が上ったら再び切り離される。現世と行き来ができて、全ての現世の人々と直接接触できるのは、夢人だけ。現世に直接関わることが、自分を思い出すのに1番の方法って思われてるから、転移を望んでる人はとりあえず夢喰になるんだよねぇ。」
「時間限定で現世に行けるってことなんですね。…でも、自分の家族の顔すらわからないし、自分を思い出すって、そんな簡単じゃないですよね?」
「うん。だから、俺の周りで転移した人は未だいない。俺ももうここにきて10年くらいだと思うけど、ヒントすら見つかってないよ。もう半分諦めてるもん…」
「こら、アラン。新人の前でそんなネガティブ発言するんじゃないよ。」
「でも可能性が0じゃない限り、俺は頑張ってみたいです。」
「チトセって、意外とポジティブだよね。ナヨナヨ君だと思ってたのに。」
「ナヨナヨ君て…」
「ほら、そろそろ仕事の時間だ。チトセは後ろの方にいな。よく見てるんだよ。」
「あ、はいっ!」
「あ、さっき1つ言い忘れてた。現世の人は、普通俺たちのこと見えないんだけど、特別な人は、俺たちが見えて会話もできるんだ。」
「特別な人?」
「そう。死期が近い人。」
––ゴーン…ゴーン…ゴーン…
深夜2時の鐘が鳴った。
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