第7話


––カランカランッ。



事務所の扉が開く。



「こんばんは。ようこそ夢見屋へ。」



「えと…あの…」



細身の少女が恐る恐る入ってきた。

細身というより、やつれた様子の、目が虚ろの少女だ。



「いらっしゃい。どうぞ、こちらへ。」



女性が少女を来客用の席へ案内する。



「今日はどんなご依頼で?」



「あの…う、噂を聞いて、それで…」



「ここに来れば悩みを解決してくれるっていう噂かい?」



「はい…ほんとにあるとは思わなくて…」



「びっくりしたよね。でも噂はほんと。可能な限り、君を救おう。どんな悩みがあるの?」



「………ぁ、…ぁ、あの、実は…私…高校で…いじめ、られてて……」



少女の目から涙が溢れる。



「そうか…つらかったね。それで、いじめをなくして欲しいってことかな?」




「…はい…もう…私はどうでも…良いんですけど……噂を聞いて…もしかしたらって思って…母子家庭だし…まだ小さい妹がいるので…私がいなくなったら…」




「うん、ここに来れたってことは、相当なダメージを負ってるってこと。君のために僕たち夢見屋が力になろう。でも、お願いと約束がある。お願いは、君の願いを叶えるまで、3日待って欲しいってこと。約束は、ここでの事は、誰にも言わないこと。僕たちのこと、この建物のこと、何をしてもらったかってこと…全て、一切、何も言わないこと。もし口に出したら、すぐわかる。ここは普通じゃないから。約束を破ったら、君と君の大切な人達に不幸を与える。これは絶対。約束しっかり守ってくれるなら、君の願いを叶えよう。どう?」



「…絶対守ります。お願いします…私を、助けてください…」




「交渉成立!これを人目につかないようにして、肌身離さず持っていて。3日後、これを返しにまたここに来て。今日は安心して、ぐっすりお休み。」



少年は少女に、キラキラと、見覚えのある輝きを放つ宝石のようなものが付いたネックレスを渡した。




少女はネックレスをかけて、衣服の中にしまいこみ、事務所を後にした。




「さて。これから彼女が眠るまで待機だよ。」




「眠るタイミングがわかるんですか?」




「うん。さっき渡したネックレスの宝石、俺の懐中時計の一部なんだ。懐中時計は自分と一体のものだから、1つカケラを取るだけでも結構しんどいんだけどね。でもそれで、渡した相手の生命力がわかる。今は輝きが弱いけど、眠ると少し回復して輝きが増す。それに俺の懐中時計が反応して、輝きだす。それが眠った合図。ちなみに、現世の人は、あのカケラ見えてないから、飾りのないただのチェーンだと思ってるよ。」



「へぇ…すごい…」



「よーし、じゃあ暇だし、トランプして遊ぼ!」



「遊ぶ…?」



「休憩時間だよ。特にやることもないし、時間まで自由に過ごすのさ。」



3人でババ抜きをした。

2回、チトセの負け。

3回目の途中で、少年の懐中時計が輝き出した。




「お、よし、それじゃあ向かいますか!」




3人は夜の現世マチへ繰り出した。



−−−−−



とある一軒家の二階のベランダ。

チトセと夢見屋の2人がいる。



「ここだね。お邪魔しまぁす。」



少年は何食わぬ顔で、窓に向かう。

すると、窓をすり抜けて、気付けば部屋の中にいる。



「え!?…え!?」



「静かに。近所迷惑だよ。」



「夢人の特技。すり抜け!」



少年が顔だけ窓から出して言う。



「遊んでないで、行くよ。」



女性がチトセを引っ張って、窓へ向かう。



「ちょ、ちょちょちょちょ!!!」



「静かに!」



思わず目を瞑る。再び目を開けると、部屋の中だった。



「うそぉ…」



「すり抜けができるのは、窓だけだからね。」



「あ!なんで言っちゃうの!チトセが壁に激突するの見たかったのに!」



「声のボリュームを下げな!彼女は聞こえるんだよ!」



女性が小さな声で怒る。



「聞けてよかった…」



3人は、先程の少女の部屋へ向かった。



−–−–−



「うん、寝てるね。よし。」



寝ている少女の頭上に、白いモヤがふよふよと浮いている。



少年が腕を前に出す。



「ギフト。」



懐中時計が輝き出し、少年の手には短剣が握られていた。



そして、モヤ目がけて短剣を勢いよく振り下ろした。


––パリンッ


透明なガラスの様なものが飛び散った。モヤの周りに見えなかった透明のバリアが張ってあったようだ。



チトセは驚くばかりで、何も言うことが出来なかった。



「このモヤ、つまりフィールにはバリアが張ってあって、その強さは人によって違うんだ。自己防衛心が強い人ほどバリアは強い。」




「チトセ、アランの肩に手をのせて。」



女性に言われるがまま、チトセは少年の肩に手を乗せた。



「今から、アランがギア…つまりその短剣を介して彼女のフィールに触れる。私らはアランを介して彼女のフィールを感じとる。フィールに触れたら、彼女の記憶や想いが一気に頭の中へ入ってくるから、1番強い想いを感じ取るんだ。そうすれば、私らが何をしなきゃいけないのか、わかってくる。」



「強い想い…」



「じゃあ、行くよ。」



アランは剣先をモヤへ触れさせた。




すると、モヤと短剣が虹色に光り出した。



そして、触れた少年の肩から、チトセの腕を伝って、チトセの中にぶわっと少女の記憶と想いが入り込んできた。



「わ…ぁ…。」




これが走馬灯というものではなかろうか。

少女の記憶が映画のフィルムのようになって見える。チトセは、その中から1番強い想いを探す。



すると、どす黒いオーラを放つフィルムを見つけた。これに違いない。チトセはギュッと片手を握りしめ、その記憶を覗き込んだ。

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