第5話
ゲートをくぐると、薄灰色の壁と床で薄暗い部屋。中央にカウンターがあり、カウンターの向こうには、本棚が並んでいる。人気は無い。
カウンターへ向かい、すみません、と声をかける。
「はいはい、新規さんだね、よいしょっと。」
下から声が聞こえた。すると、カウンターの向こうにある椅子に女の子がよじ登り、ちょこんと座った。小学校低学年くらいだろうか。
「これまた若いのが来たねー。えっと紹介者は…リヴか。じゃあこの紙、契約書になるからサインしちゃって。」
「えと、あの、俺、夢喰のこと、何にも知らないんですけど…」
「はー?説明はあとあと!遊びで来たわけじゃ無いんでしょ?もう戻れやしないんだし、四の五の言ってないで、書いて書いて!」
「あ、はい…」
たしかに、もう後戻りもできないので、内容もあまり見ずサインをする。
「よし、じゃあそこ入って」
少女が指さす方を見ると、人1人入れる程の筒状の装置がある。そこへ入ると、少女がカウンターに付いているボタンを押した。すると、上から透明なガラスの扉が降りてきて、装置の中に閉じ込められた。チトセに不安が募る。
そして、少女はなんの説明もなく、次のボタンを押すと、装置が光り出した。
チトセは眩しさで何も見えない。
すると、ふわっと、宙に浮いた感覚になった。
光りがおさまり、目を開けると、扉の向こうに少女が立っていた。そして、ガラスの扉が開いた。
「上、見てごらん。」
少女に言われ、上を見ると、今までに見たことのないような虹色の輝きを放つ、ペンダント状の白い懐中時計がふよふよと浮いている。
「それは、君の魂。それが破壊されると、君は消滅する。だから、肌身離さず大事に持っておくんだよ。」
チトセはすぐに話を飲み込むことが出来なかったが、少女の言うことが本当であると肌で感じた。両手で懐中時計を掴み、首にぶら下げ、衣服の中に仕舞い込んだ。
「これで、晴れて夢喰の仲間入り。ようこそ、
コモリから冊子を渡された。パラパラめくってみると、各事務所の紹介が載っている。仕事内容はどれも「ギフト」とあるが、給料や休日など、環境はそれぞれ異なるようだ。
「事務所に入れば、仕事内容詳しく教えてもらえると思うけど、ざっくり言うと、現世の人々に夢を与えるのが仕事。」
「夢を与える?」
「そう。現世の人々は、眠ると自分の記憶や想いが白いモヤになって、頭上に浮かんでくる。このモヤをフィールって言って、普通は見えないんだけど、夢人には見えるの。でも、フィールは夢人でも直接触れないから、自分のギアを介して触れる。触れて、イメージを吹き込むと、フィールが形となって頭に戻り、その人に見せることができる。それが、いわゆる夢。夢を見せて、人々を導き、幸せを与えるのが夢喰の仕事。ちなみに、フィールは朝まで何もしなければそのまま消える。」
「…ギアって、何ですか?」
「あ、ごめんごめん。片方の手を前に突き出して。」
「…こう、ですか?」
「うん、で、ギフトって、言うと、君の武器が出てくるから。この武器のことをギアって言ってる。ギアは個性があって、夢人によって違うよ。」
「…ギフト!」
すると、懐中時計が虹色に光り出し、
突き出した手の前にモヤが現れ、段々と形になっていった。
手に握られたのは、白い打刀だった。
「ほーう、刀か。使い勝手がいいね。ちなみに私はブーメラン。最悪だったよ、もう。で、このギアはフィール以外に、触れるものがある。夢人と、夢人のギア。そして、懐中時計。フィール以外には滅多に使わないけど、たまーに夢人同士の争いがあってね。でも、フツーに良き夢喰として働いていれば、使うことはないね。」
「そうですか…」
「まぁ君は大丈夫だよ。争いとか好きじゃなさそうだし。」
「まぁ、そうですね…」
「さ、これで説明は終了。あとの細かいことは、外の受付さんか、所属先の先輩方に教わってねー。」
先程のロビーへ戻ると、受付に呼び止められ、掲示板の場所や、ここへ来るためのルートを教えてくれた。生活は今までと特に変わらないらしいが、懐中時計は肌身離さず持つよう忠告された。そして、今日はほとんどの事務所が休みの日で、ここへ来る人が少ないらしい。チトセは明日出直すことにした。
夢人界を出ると、リヴの姿はなかった。
チトセは受付でもらった地図を見ながら
歩いて自宅へ向かった。
そして、歩きながら、ふと思い出す。
「そういえば…あの人達、夢喰ってことなのかな…」
あの金髪の少年が、バクという言葉を使っていた。おそらく、夢喰なのであろう。
「…あの人達の事務所に、入りたいな…」
チトセは自宅に着くと、荷物を置いて、またすぐに街へ繰り出した。
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