第4話



チトセは家に着くと、風呂を沸かして湯船の中でこれからのことを考え始めた。



このままここで永遠に暮らすのか。


転移…つまり天国へ行くのか。



こんな究極の2択、考えても、考えても、正解なんてないし、選択できそうにない。


でも、今…決断したいという思いが昂っている今決めないと、何も決められなくなる気がする。金髪の少年の言葉が思った以上に自分の背中を押してくれている。


…しかしこの2択で考えると、やはり堂々巡りになる。



だから、考え方を変えた。



今、自分が一番やりたいことをする。



答えは、出た。




−–−–−



次の日。

チトセは浅井の病院へ来た。



「…おぅ、もうヤンチャしたのか?意外だな。傷はどこだ?」



浅井はチトセをジロジロ見る。



「いえ、怪我じゃなくて、教えてほしいことがあって。」



「んん?どうした?」



「…自分の死んだ理由を知る方法、何か知ってれば、教えてください。」



「……転移を選ぶのか。」



「…天国なんてどっちでも良い。知りたいんです。自分が死んだ理由。理由を知って、本当の自分を、一瞬でも良いから取り戻したい。俺が、俺じゃないままなんて、死んだままと同じ。一瞬でも良いから、俺は俺を生きたい!」



「…ははは!お前、ちゃんと喋れたんだなぁ。」



「なっ…!」



「茶化したわけじゃねぇよ。わかった、俺が知ってることを教えてやる。ついてこい。」



「ありがとうございます!」



−–−–−



「おい、リヴ、いるか?」



チトセは、何故かリヴの不動産屋に連れてこられている。



「はーいー。何、どしたの?…あれ、チトセ君!えっ、もしかしてご近所トラブル…?」



「いや、違う。こいつを、バクの申請所へ連れて行ってやってほしい。」



「えっ…もしかして、チトセ君、転移したいってこと…?」



「…はい。そのために、知ってることを教えてほしくて、先生のところへ来ました。」



「そっか…浅ちゃん、バクのことは説明した?」



「いや、まだしてない。お前から説明してもらった方が良いと思ってな。」



「わかった。…チトセ君。この世界から転移するための1番の方法は、夢喰バクっていう職業に就くことなの。何をするのかは私も良くわかってなくて、もし知っていたとしても、一般人に教えてはいけない規則があって、言えないの。そして、一度夢喰になったら、一般人には戻れない。だから、本当に覚悟がある人じゃないと、連れてはいけない。チトセ君は覚悟がある?」



「…夢喰っていうのが、よくわからなくても、俺は俺を取り戻すために、何にだってなるし、何でもやる覚悟です。」



「俺もこいつなら大丈夫だと思う。ふざけて言ってるわけじゃなさそうだしな。」




「…チトセ君って、正直ずるずるここで生活していくのかなって思ってたけど、意外とアツい男の子だったのね。いいよ、連れて行ってあげる。」



「ありがとうございます!」



リヴはチトセを車に乗せ、どこかへ向かった。



−–−–−



チトセを乗せた車は、30分ほど進むと、少し狭い道へ入った。そして右折左折を繰り返し、気付けば広い庭園と城のような建物がある場所に着いた。



「ここだよ。私は夢喰じゃないけど、この土地を紹介したってのもあって、特別に一般人と夢喰の仲介役として、こうやって案内とかをしてるの。」



「そうだったんですか…」



「でも、あくまで案内人だから、夢喰のことを知ってるわけじゃない。だから、これ以上は何も教えてあげられないわ。ここから先は、チトセ君1人でいってらっしゃい。」



「はい、いってきます。ありがとうございました。」



「うん、頑張ってね。」



チトセは息を大きく深呼吸し、城のような建物へ向かった。



−–−–−



大きな扉を開け、中へ入ると、白い壁に高い天井、そして大理石の床。そこは広いロビーのようで、正面に受付があった。たくさんの人が集まりそうな場所に見えるが、受付以外に人がいないので、チトセは不安になった。




とりあえず受付へ向かう。



「こんにちは。今日はどのようなご用件でしょうか。」


受付の女性がニコニコと伺う。


「あの…夢喰、になりたいんですけど…」


「かしこまりました。紹介者はどなたですか?」



「えと…不動産屋のリヴさんに連れてきてもらいました。」



「リヴ様ですね。リヴ様は正規の紹介者として承認済ですので、申請を承認します。申請手続きを行いますので、あちらのゲートをおくぐりください。」



女性は、受付の左手にある、大きなアーチ状のゲートを開いた。



チトセは、ごくりと唾を飲み込み、ゲートの中へ入っていった。

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