第4話


部長の部屋に来た。

よく眠っている。


シロガネはギアを出し、フィールに向かって勢いよく突き刺した。



––キンッ。…パリッ。


もう一度。


––パンッ!


バリアが割れた。



「さてさて、お邪魔しますよ。」



シロガネのレイピア型のギアがフィールに触れた。



–−−−−




「とても字が上手ねぇ。」



これが、全ての始まりだったように思う。

私には、双子の弟がいる。

小学校の初めての習字の授業で、私はどうも上手く書けなかった。

一方、隣の席の弟は綺麗に整った字を書いた。

羨ましかった。

きっと、弟が褒められるのだろう。

小さいながら、未来に起こることを予測していた。

そして、閃いた。



「なぁ、俺書くの遅いから、練習した紙、俺の方にも広げといていいよ。」



「え、いいの?兄ちゃんありがとう!」



弟が私のスペースに自分の練習用紙を置く。

そして、弟の目を盗んで、自分の練習用紙の下に、弟の練習用紙を何枚か隠した。

その中から、1番綺麗な字の紙を、弟よりも先に教師に提出した。



「あら、とても字が上手ねぇ。」



褒められた。弟ではなく、自分が。

弟が後から提出すると、教師は



「あら、あなたも字が上手なのねぇ。」



と言っていた。



それから、似顔絵を描く授業があり、弟と何枚か描きあった。顔がそっくりなので、私を描いたのか、弟を描いたのかわからない。私は、弟が描いた絵を1枚こっそり盗み、弟より先に提出した。



「あら、絵も上手なのねぇ。」



その後、弟も提出する。教師は、弟を少し不審な目で見ていた。私ではなく、弟が不正をしていると疑われたのだ。



なんだ。大人を騙すなんて簡単なのか。




そして、あることを試した。


Aの鞄からお気に入りのキーホルダーを外し、Aのロッカーに入れる。そして同じキーホルダーをBの鞄のポケットへ、見つかりやすいようはみ出して入れる。案の定、周囲はBが盗んだと騒ぎ立てるが、私がBの味方をする。結果的にAのロッカーでキーホルダーが見つかる。


このおかげで、私は弱者を助けた英雄となった。



私の株はどんどん上がり、中学、高校は推薦で生徒会長を務め、話術もぐんぐん上達した。

入試は全て推薦合格、社会人になってからも、あの手この手で株を上げ、時に人を欺き、時に人を蹴落とした。気付けば何も努力せずとも、役職がまわってくるようになった。



人間は本当に簡単に騙せる。一度好印象を与えてしまえば、造作もない。



そろそろ、次は取締役に…。

私にとって、より良い職場にしなくては。

まだ部長になって日が浅い。あと数年はこの席で我慢して、次はどんな方法を使おうか、ゆっくり考えよう…。




–−−−−



「人の心が無いのかな、この男は。」



シロガネがフィールからギアを離し、ギアをブンッと振る。そして剣先をクロスで拭いた。



「どう攻める?」



アランがシロガネに聞く。



「そうだねぇ…。人を自分の為の道具だと思い込んでいるその愚かな心を、とことん抉ってみようか。」



シロガネは剣先にフッと息を吹きかけ、

もう一度フィールに剣先を向けた。

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