第7話

ターゲットの頭上に…フィールが浮かんでいないのだ。



「つ、椿さん、これって…」



「……あぁ。あいつだ。シバが来たんだ。それも…つい、さっきな。」



椿が急いで外へ出た。



「つ、椿さん!!」



チトセが慌てて椿を追う。



建物の壁やベランダを伝い、屋根へ上る。辺りを見回しながら、屋根から屋根へ物凄い速さで飛び移っていく。



「シバぁ!!何処だ!!出てこい!!!」



椿の呼びかけに返事をする者はいない。



「チトセ!椿!」



夢見屋の他のメンバーが合流した。

チトセと椿は先程の事を話し、全員で手分けしてシバを探す。



しかし、シバを見つけることは出来なかった。



「ハァ…ハァ…やばい、朝になる。」



空は既に明るい紫色を帯びている。



「…クソッ…クソッ!!!」



椿が建物の外壁を殴る。



そして、全員が事務所へと戻っていった。





–−−



翌日。

手分けしてシバを探しつつ、ターゲットのフィールの復活を試みた。しかし、シバは見つからない。さらにターゲットを想う人も見つからず、フィールの復活も叶わなかった。



「アラン。俺、あの刑事さんを追いたい。」



事務所に戻った後、チトセが言った。



「え?昨日の?どうして?」



「あの人、ターゲットのことや、廃人化のこと気にしてた。もしかしたら、何か掴むかもしれない。」



「うん…可能性はあるか。わかった。何かわかったら、報告して。俺も行ける日は一緒に行く。」



「わかった。ありがとう。」



翌日の深夜、チトセは手の空いたアヤメと一緒に刑事のもとへ向かう。

そして、一昨日の記憶から順に確認する。



–−−–−



「廃人化…!?」



医師から話を聞いた時、俺は思わず病院内で大声を出した。

周囲が驚き不審がっていることに気付き、医師を連れてその場を離れる。



「…それで、いつから?」



俺は少し小さな声で医師に問う。



「看護師が今日の朝食を運んだ際、様子がおかしいのに気付いたのが最初です。」



「そうですか…。とりあえず、彼の様子を見させてもらっても?」



「はい、どうぞ。」



医師とともに彼の病室へ向かう。

扉を開けると、彼はベッドにおとなしく寝ている。近くに寄って見てみると、目は開いている。虚ろな目で天井を見つめていた。



「…こんにちは。」



…返事はない。ピクリともしない。

身体を少し揺すってみるが、反応は無く、こちらを見向きもしない。



「これが廃人化…。」



話には聞いていたし、復活した奴は見たことがあるが、実際にこの状態を見たのは初めてだ。ここまで動かなくなってしまうとは…もはや生きているのか死んでいるのかわからない。



「食事にも反応しないので、点滴で必要な栄養を送っています。いずれ復活してくれると良いのですが…。廃人化について、何かわかるかもしれないので、今まで以上に注視しておきます。」



医師が言った。



その後、俺は署に戻り、ひと通りの報告を済ませて資料室へ向かう。過去の廃人化についてのデータを確認するためだ。



これまでの発症人数…28,632人。

男女比…男6:女4

年齢層…30〜40代が若干多い。幼児、高齢者は比較的少ない。

職業…小学校の教師、主婦、美容師、土木作業員、飲食店オーナー等、様々である。

復活した者は、夢に身近な人物が現れたと発言。その後、心身共に異常は見られず。

同じアパート、マンション内や、一家全員の発症も多数見られる。そのため、当時の心理状態、電波、室内の家具家電、宗教等、様々な調査を行ったが、共通点は見られず。



これが調べた結果だ。

これといって共通点やトリガーは見つからない。



「はぁ…。」



思わずため息をつく。



––ガチャ。



「あ、先輩。こんなとこにいたんすか。サボり?」



後輩に声をかけられる。



「ちげぇよ。廃人化について、調べてた。」



「あぁ…。全く、どうなってんすかねぇ。最近じゃあ、悪いことしたら夜中に鬼が魂抜きに来るっていう、子どもの躾で使うような都市伝説になってるみたいですよ。」



「なんだそれ。…鬼に魂を抜かれる、か…。本当にそうだったりしてな。」



「まぁ先輩が抜かれてないから、本当にただの都市伝説なんでしょうけど。」



「どっちかっつったら、抜かれるのはお前の方だと思うが。どうせサボりにここへ来たんだろ?」



「ありゃ、そそそんなことないっす。」



「棒読みやめろ。」



「そんなことより、あと1時間で定時っすよ。ずっとこんなとこいて大丈夫なんです?」



「あ?もうそんな時間か。戻るよ。」



残りの仕事を片付け、調査の続きは明日にすることにした。




–−−–−



朝が近づいて来たため、フィールから離れ、チトセとアヤメは事務所へ戻った。



翌日の昼、ビビと面会が可能と浅井から連絡があり、急いで病院へ向かった。心拍等の数値は安定しているものの、未だ意識が戻らず、懐中時計はボロボロのままである。

それからシロガネは仕事の後、病院へ通い始めた。そして引き続き、夢見屋は仕事の合間にシバの捜索にあたった。



チトセは手の空いたメンバーを連れ、数日かけて刑事の記憶を辿った。




–−−–−



翌日。

新たな廃人化の報告が午前中に2件入ってきた。



今回は、何かが違う。



2件とも、他県の精神科病院で起こった。

片方の病院では入院患者のほぼ全員が廃人化状態になり、もう一方では数名だという。

立て続けに、精神科病院で廃人化が起こった。

しかも、特徴のある人数の偏り。

これは初めてのケースだ。



何故だ?

何か規則性があるのか…?



俺は居ても立っても居られなくなり、上司に調査を許可してもらえるよう頼み込んだ。



なんとか許可を得られたが、傍で話を聞いていた後輩が、一緒に調査をしたいと割り込み、2人で調査をすることになった。



「全く…なんで付いてくんだよ。」



「いやぁ、なんか楽しそうだし。それに、もし解決できたら出世もんじゃないっすか。」



「おい…お前だって、廃人化しないとは限らないんだぞ?下手に関わると、影響受けるかもしれん。」



「それは先輩にだって言えることでしょ。もし先輩がそうなったら、ぶん殴って叩き起こしてあげますよ。」



「…はは。そりゃ頼もしいな。」



俺達は、例の病院を巡り、何か共通点や手がかりが無いか探った。



そして、一つだけ共通点を見つけた。



数名の発症者が出た病院で調査した結果、その発症者は全員最近措置入院となった犯罪者だった。



「最近入院した犯罪者か…。」



「うーん…でももう一方では、入院時期関係なく、ほぼ全員が発症してるし…なんでこっちはこの人達が選ばれたんでしょうねぇ。」



「やはり、何か精神的な何かがトリガーになってるのか…?」



「精神的な何かか…環境が変わった反動…とか?あとはー…罪悪感とか…怒りとか…悲しみとか…」




……選ばれた?

先程の後輩の言葉が引っかかった。



「選ばれた、か…。」



「はい?」



「もし、これが、人による犯行だとしたら、どう思う?」



「えっ?」



「…まぁ、そりゃ無理な話か。」



「どうしたんです?急に。」



「いや、さっきお前が、なんでこの人達が選ばれたのかって言っただろ?もしかしたら、誰かが、人を選んで発症させてる…なんてな。」



「…なんでも人による犯行の可能性を考えるなんて、ほんと刑事の鑑っすね。でも…そうだとしたら、突然精神科病院に絞り出した。今後、出没場所や狙う人物に偏りが現れるかも。」



「…一応、気にしておくか。」



「そうっすね。」



今日の調査はここまでとし、通常の仕事に取りかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る