第6話
事務所に全員が集合し、アランが夢人界での事を報告する。
「内容的には、シバが夢見屋に入った時期から始まって、仕事内容とかその成果とか、ギアの使い方だとか…諸々聞かれた。あとは、何か不審な行動があったかどうか。些細な事でもいいからなんでも話せって感じだったかな。俺は、これまで不審な行動は無かったって答えたけど…みんなは何か気づいたことある?」
「うーん…俺達の前では、ゆるいっていうか、陽気な性格だったから、影があるって感じでもなかったんだよな…。」
「そうだね…ここでは常に誰かと一緒に行動してたし、ボクもこれといって無いな…。」
「…そういえば。」
瑠々が口を開いた。
「瑠々、何か引っかかることあった?」
アランが聞く。
「…私達の制服を作ってもらう時、アヤメにオーラを見てもらわなかった。」
「そういえば確かに…本性を隠したかったから、見せなかったのかも。」
「そうだね…どこかで黙って見ときゃ良かった…」
「…ちなみに、瑠々と椿の色は?」
アランに言われ、アヤメが意識を集中させる。
「……椿は白だね。良い色だよ。」
「白ぉ!?椿が!?」
「てめぇ…ぶちのめすぞ。」
「にゃはは…つい。悪い悪い。」
「瑠々は…霞?白に近いね。ただ…微かに見える程度だ。」
「私は…私が無いから。」
瑠々は少し下を向く。
「でも、微かでも見えるってことは、少しずつ心が動いてて、自分が芽生えてきてるんじゃない?」
チトセが言う。
「そう…なのかな…。」
「うん。きっとそうだよ。瑠々さんは、きっと大丈夫。心がわかるようになるよ。」
「…うん。」
「…よし、じゃあ、シバのことについては、これから夢人界で色々聞かれると思うけど、よろしくね。」
翌日の昼過ぎに夢人界から連絡があり、アラン以外の全員が呼ばれた。全員、ノーマルスーツに着替え、夢人界へ向かう。夢人界へ着くと、それぞれ別の部屋に通される。そして一斉に聴取が始まった。
–−–
チトセの部屋にて。
チトセの正面には、初めて会う夢人界の職員がいる。
「では、シバとの関係性についてお伺いします。職場では、彼はどういった立場でしたか?」
「えっと…普通の平社員です。俺もそうです。だから、同じ立ち位置?です。」
「そうですか。では、彼は普段の仕事ぶりは?」
「ええと…ちょっと怠け癖があったけど、ちゃんと仕事やってましたよ。一緒にいる時は、おかしな行動もなかったです。」
「怠け癖とは?」
「えっと…掃除とか書類整理をサボったり、いつも時間ギリギリに出社したり…ですかね。」
「なるほど。では次に、普段はどういった会話をしてましたか?」
「どういった…普通の、とりとめのない会話ですけど…。」
「会話の中で、気になったり、違和感のあった内容はありましたか?些細なことでもいいです。」
「いやぁ…特には……すみません。」
「お休みの日に、一緒に出かけたりすることは?」
「そういえば、なかったですね…。…休みの日は何してるのか…どこに住んでたかも知らないです。…俺…シバさんのこと…全然知らないんだな…。」
「…そうですか。他に、シバのことで気になったことがあれば教えてください。」
「…すみません…特にないです…。全然、疑いもしてなくて…。」
「…そうですよね。…では次に、椿さんと瑠々さんとの関係をお伺いします。」
「え?」
「椿さんと瑠々さんは、元々夢守でシバを含めた3人で行動し、夢見屋を敵対視していたと聞いています。どうして夢見屋に仲間入りしたのですか?しかも夢魔になってまで。」
「えっと…椿さんとアランがまだ夢喰の時、2人は同じ職場で、良いライバルで友人だったそうです。だから、アランが、その時悪だと思っていた夢魔になったことが許せなくて、友達が悪いことをする前に、自分が止めようと思って…。でも、俺達はケアを取り入れていて、みんなを助けようと努力してるのを知って、協力してくれるようになったんです。」
「なるほど。お詳しいんですね。」
「はい…前に、俺が聞いたんです。椿さんは、隠さず話してくれました。確かに椿さんと瑠々さんは、ずっとシバさんと一緒でした。でも、シバさんとは違う。信頼できる人達です。シバさんと裏で繋がってたりしない。絶対に。」
「…あの戦いの場に、多くの夢人界の者がいました。その多くの者が、椿さん達が必死に戦っている様子、シバの裏切りに困惑している様子を目撃しています。大丈夫、目の敵にしたり、取って食ったりはしません。ただ、こちらも困惑しているんです。色々な確証や手がかりが欲しい。そこは、わかっていただきたい。」
「…はい…。」
–−–
取り調べが終わり、チトセは部屋の外へ出る。
シロガネとアヤメは、既に終わっていたようで、皆を待っていた。
「大丈夫かい?」
シロガネがチトセに声をかける。
「うん。…椿さんと瑠々さんは…。」
「まだだね。」
「ま、予想はしてたけどねぇ。元々はうちらを目の敵にしてたんだ。ちゃんと敵意がないか、あっち側じゃないか、情報を持ってないか、諸々聞かれてんだろうさ。」
「大丈夫かなぁ…。」
「椿は良い性格してるし、瑠々は自分のことを話すの苦手だし…心配だね。」
「おい、誰が良い性格だ。」
3人が振り返ると、椿と瑠々がいる。
「ふふ、そのまんまの意味さ。終わったのかい?」
「ああ。さっきな。一応、俺らはシバ側じゃねぇことはわかってもらえた。だが、おそらく取り調べは続きそうだ。また呼び出しがあるらしい。」
「そっか…。瑠々さんも?」
「うん。でも平気。私達が、貴方達の味方なのは事実だから。正直に話せばいいだけ。」
「…頼もしくなったねぇ、瑠々。」
アヤメが瑠々の頭を撫でる。
瑠々はほんの少し顔を赤らめた。
その様子を見た椿は、わずかに微笑み、安心したような顔をした。
その後、全員事務所へと戻り、アランへ報告した。
そして、そのまま事務所に残り、身支度を整え、深夜2時を迎える。
今日は、客がまだ来ない。
「今日の店番は…シロガネと俺か。じゃあ、みんなは残った仕事が無ければ、シバの情報収集とパトロールをお願い。絶対に単独行動しないこと。あと…椿と瑠々には俺のカケラ渡せてないから、それぞれ他の誰かと組んで欲しいんだけど…」
アランが瑠々をチラリと見る。
「…わかった。大丈夫。」
瑠々が返事をした。
「こいつはもう誰と組んでも大丈夫だ。我儘も言ってられねぇ状況だしな。」
「うん、ありがとう。じゃあ、今日はチトセと椿、アヤメと瑠々でお願い。」
「わかった。」
椿が返事をした。
「あの…俺、昨日の刑事さんのところに、もう一度行きたいんです。もしかしたら、ターゲットと面会とかしてるかもって思って…」
チトセが言う。
「まぁ、可能性はあるな。この案件はシバも関わっていたし、行ってみる価値はある。」
椿が言った。
「じゃあ、チトセと椿はそっちをお願い。アヤメと瑠々はパトロールと情報収集を。何かあったら、すぐ知らせて。」
「はいよ。じゃあ行こうかね、瑠々。」
「うん。」
アヤメと瑠々は現世へ繋がる扉を開け、出て行った。
その後すぐに、チトセと椿が出て行く。
「椿さん、疲れてない?色々、聞かれたでしょ…」
「平気だ。あいつへの情はとうに捨てた。」
「…そっか。」
「俺のことは気にしなくていい。その代わり…瑠々を頼む。あいつはまだ心が発達途中だ。自分が思っている以上に、負担がデカいだろう。気にかけてやってくれ。」
「…ふふ、椿さん保護者だね。」
「…まぁな。」
刑事の家へ着くと、すぐにフィールを覗く。
–−–−−
「精神科病棟に入院?」
後輩から話を聞いて、俺は唖然とした。
「はい…。部屋に入れてしばらくしたら、留置所の警備が甘いと騒ぎ始めて、それからずっと奥さんが復讐しに来ると怯えていまして…。それは絶対無いと説得しましたが、全く聞く耳を持たないんです。加えて初めて会う人がいると震え出して…まともに話ができる状態じゃないんです。薬の検査をしましたが、そういった類のものはやってないみたいで…。結果、精神異常の疑いが認められたので、病院で様子を見ることになったんです。」
「そうか…。最初に会ったのは俺だ。一応顔見知りだから、多少は話すかもしれん。時間が空いたら、俺も様子を見に行く。」
「安定剤を投与しているようなので、薬が効いて、ちゃんと話せれば良いのですが…」
「そうだな。それも確認してくる。」
そして、病院へ赴き、
医師の付き添いのもと、病室へと向かう。
––コンコン。
…返事がない。
扉を開ける。
彼は、布団に包まり震えていた。
「…こんにちは。」
すると、布団の隙間からチラリとこちらを見た。
俺だとわかると、布団から出てきた。
「…お、お前…!ぜ、全然違ったじゃないか!」
「…?」
「何が安全だ!見張りが全然いないし、セキュリティも全然なってない!これじゃあいつアイツが来てもおかしくない!…ぁぁああ!も、もしかして、お前もグルか!?そうなんだな!?ここから出せ!!出せええええ!!!」
暴れるが、両手足が鎖でベッドフレームの四隅へ繋がれており、ベッドから降りることができない。
「お、落ち着け…!俺はただの警察だ!奥さんとは何の関係もない!」
「嘘だ!信じない!誰かぁ!助けて!!こわい!こわいよ!ぅわあぁぁあん!!!」
彼は赤ん坊のように泣き出した。
「…そのうち、泣き疲れて眠るでしょう。先程と同じ流れです。」
医師が言う。
「なんでこんな…。」
「わかりません。まるで一度被害に遭ったような口ぶりと恐怖心です。しかし麻薬もやっていなければ、過去に被害もない。なんらかの影響によるストレス性のものとも考えられますが…しばらくは投薬と経過観察ですね。」
「…そうですか。奥さんにまた詳しく話を聞いてみます。」
しばらくすると彼は眠り、
俺は警察署へ戻った。
奥さんに話を聞くとは言ったものの、彼女もまだ傷が癒えておらず、深く話を聞ける精神状態ではない。とりあえず、彼女は様子見で、まずは彼の会社関係者を当たってみるか…。
そして彼の会社関係者複数人から話を聞いた。
彼は誰にでも優しく、とても優れた人で、暴力を振るったり貶したりする人物には見えなかったと、口を揃えて言った。また、常に冷静に物事を判断し、怒鳴ったことは一度も無いという。暴力を振るった証拠がある以上、彼は犯罪者で間違いないが…疑いたくはないがやはり被害者にも話を聞く必要がある。
突然の変化…
これも、例の廃人化や精神異常と関係があるのか?…少しデータを漁ってみるか。
俺は資料室へと向かった。
−–−–−
チトセと椿は、フィールから離れた。
「俺らの夢が、思った以上に効いてるみたいだな。」
「そう、だね…。彼は病院にいるのか…じゃあ、フィールが確認できるかも。」
「行ってみるか。」
「うん。」
2人は、病院へと向かう。
病院は大きな窓が複数あり、病室へと辿り着くことができた。
そして、病室へ入る。
ターゲットは眠っている。
近くへ歩み寄る。
「…!!」
チトセと椿は驚愕した。
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