第8話
翌日。
また別の精神科病院で廃人化が起こった。
「今回は、最近入院した一般患者と犯罪者…。」
「選ばれた、んですかね…。」
「しかも、狙われた病院はどこも警察署が近い。措置入院となった犯罪者が多いところなんだ。多く狙われたのは犯罪者…。神になって制裁でもしてるつもりなのか…?」
「悪いことをしたら鬼に魂を抜かれるっていう都市伝説、あながち間違いじゃないかもっすね。…あぁでも、今まではランダムだったし、なんで急にそういった人達ばかり…。」
「さぁな。もしかしたら、また標的が変わるかもしれん。尻尾を掴むなら、今のうちだ。病室の監視カメラをもう一度よく確認しよう。」
しかし、監視カメラをじっくり確認したが、侵入した者や機械等は見つけられなかった。
発症者も、眠ったまま廃人化状態になり、少しも苦しんだ様子が無い。
「くそっ…一歩前進したと思ったのに。」
「…復活した人達からも、もう一度話を聞いてみるか。」
「新しく何かわかるかもっすね。」
「先月復活した元発症者が住むマンションがこの近くにある。少し寄ってみよう。」
俺達は病院を後にし、とあるマンションへ向かう。
––ピンポーン。
「…はい。」
「あ、突然申し訳ございません。私…」
インターホン越しに自己紹介をし、近くの病院で廃人化が起こったので、参考にもう一度話が聞きたいと依頼をする。
「…ごめんなさい、彼はもうここにはいなくて…。」
「…え?」
「別れたんです。だから…すみません。」
「…あの、もし差し支えなければ、少しだけお話を伺っても…?」
「…とくにお役に立つような話はないですけど…どうぞ。」
玄関のドアが開き、女性が俺達を招き入れた。
「原因は何だったんですか…?」
「…発症した後、彼は入院となって、私は仕事の合間に病院へ通っていました。それからしばらく経って、彼の病室へ向かっている時、病室から彼の職場の同期の人達が出てきて…。私が恋人だとは知らず、廊下で立ち話をしていました。それで、話を聞いてしまったんです。彼は自分が高い地位に就く為に、あらゆる手を使って仲間を蹴落とし裏切ってきたから、きっとバチが当たったんだって…。かなり酷いことをされた人もいたみたいで…私は彼を信じられなくなりました。意識を取り戻した後、何故か私に全てを打ち明けて謝ってきましたが…もう彼を信じられないし、許せないので別れました。…すみません、こんな話…。」
「いえ。…ありがとうございます。ごめんなさい、辛い話をさせてしまって…。」
「いえ、いいんです。何かヒントになれば良いんですが…。」
「はい、発症者に恨みを持つ者がいた、ということは非常に参考になります。ありがとうございました。」
俺達はマンションを後にし、警察署へ戻った。
そして、2人で手分けをして発症者の近辺調査を始めた。
–−–
数日後。
資料室で調査結果をまとめる。
「最初の頃はバラバラだったけど、ここ最近だと、何かしらの強い恨みを買っていた発症者の割合は7割強…。まぁ、人は誰でも何かしら恨まれているだろうけど…発症者に関してはエグい恨みが多い。これは選ばれているとも考えられますよね。」
「そうだな。今まではそういう奴をあちこちから探し歩いていたが、精神科病院で探す方が手っ取り早いと気付いたのか…。わからんが、そういうことも考えられる。」
「でも、そういう奴を狙うなら、刑務所から探せばいいのに…何故でしょう?」
「そう、そこが引っかかる。何故だ…?」
「でも、一歩前進ですね。」
「そうだな。」
––♪
携帯が鳴った。
上司からだ。
「はい。」
「今、何処にいる?話がある。」
すぐに上司のもとへ行く。
「…実は明後日、蛇が海外のマフィアとデカい闇取引をする情報を入手した。時間は深夜3時。場所も特定済みだ。だが、規模や人数はわからない。そこで当日、お前も応援として現場に向かってほしい。他にも、連れて行けそうな奴がいたら、連れて行け。」
『蛇』とは、今この国で最も勢力のある暴力団の名前だ。突然現れた組織で、ボスの名前や規模は謎に包まれており、団員は身体の何処かに蛇の刺青を入れている。警察は、なんとしてでも奴らの手掛かりを掴もうと躍起になっている状態だ。
「…わかりました。行ける奴も探してみます。」
行ける奴は1人すぐに見つかった。
「行くに決まってるでしょ。」
後輩が目をキラキラさせながら言った。
「お前なら、そう言うと思ったよ。それに…恨みの飛び交う集まりでもある。廃人化の件、何か動くかもしれない。」
「確かに。そっちも追いかけたいっすね。」
「あぁ。余裕があれば、両方注視しよう。」
その後、当日の動きについての打合せに参加した。当日以外、倉庫周辺へ行くことは禁止されているため、シミュレーションを念入りに行った。
明後日の深夜3時、とある港の第三倉庫。
何かがわかるかもしれない。
そう考えると、自然と拳に力が入る。
「気張りすぎも良くないっすよ。」
後輩の言葉にハッとする。
「…よく見てるな、お前。」
「先輩が好きだからかなぁ。」
「やめろ、気持ち悪い。…でも、そうだな。気をつける。」
俺は肩をぐるぐると回し、肩の力を抜いた。
そして、喫煙所へと向かった。
−−−–−
チトセはフィールから離れた。
「…シバは、恨まれてる人のフィールを奪ってるのかな…?」
一緒に来ていたアランがチトセに言う。
「可能性はあるね。…もしそうだとして、シバさんも蛇の闇取引のこと、知ってたとしたら…様子を見に来るかもしれない。取引が終わった後、団員の後をついていけば、家がわかるし、アジトもわかるかもしれないし…。」
「俺達も行ってみる価値はあるね。これは昨日の記憶だから…明日の深夜3時か。早速、みんなに報告しよう。」
2人は事務所へ戻り、情報を共有した。
「精神科病院を襲ったのは、きっとシバだね。やっと尻尾を掴めた…!ありがとう、チトセ。」
シロガネが言った。
「いや、刑事さんのおかげだよ。でも…なんで恨まれてる人を襲ってるんだろう…。」
チトセが言った。
「うーん…悪を潰してる夢見屋の仕業に見せかけるため…とか?」
アランが腕を組みながら言った。
「夢人界で、シバのことは周知されている。今更そんなことしても意味ねぇと思うが…」
椿が言った。
「まぁ、シバをとっ捕まえれば、わかることさね。」
アヤメが言った。
「…刑務所と留置所には被害が無いってことは、やっぱりシバも入れなかったんだね。」
瑠々が言った。
「うん。そのようだね。もし明日、シバが現れなかったら、刑事の記憶を追いつつ精神科病院を張るのも良いかもしれない。」
アランが言った。
「一応、コモリにも明日の件、連絡しておくよ。アイツの力は、さらにデカくなってるはずだからね。シバに勘付かれないように動いてもらう。」
アヤメが言った。
「うん。お願い。みんな、明日は今まで以上の戦いになるかもしれない。怪我をしないっていう保証もない。苦しかったら逃げても良い。絶対に1人で抱え込まずに、周りを頼ってね。みんなで戦おう。全員無事で帰って、ビビが起きた時に、全員の笑顔で迎えよう。約束。」
そうアランが言い、皆は大きく頷いた。
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