第2話
「よし、じゃあ、本題に入ろう!」
リヴはパソコンをカタカタと動かし始めた。
「チトセ君のお家だけど、まだ高校生だから働いたことあっても、バイトくらいだよね。だから、家具家電付き6畳ワンルームで管理費光熱費込みの月3万円っていう学生応援アパートがあるんだけど、どうかな?」
リヴはアパートの詳細ページを印刷し、チトセに見せる。
「ここで大丈夫です。お願いします。」
「こだわりがあればなんでも言ってね。2階以上がいいとか、水回りがキレイなとこがいいとか…」
「特にないので大丈夫です。」
「そう…じゃあ、このアパートは今1階と4階が空いてるけど、どっちがいい?ちなみに、エレベーターはないから、4階は体力要るかも」
「…4階でお願いします。」
「いいの?みんな階段大変だからって避けるけど…」
「運動になるし、次の人が1階選べるし、いいんです」
「ふふ、優しいのね。わかった。じゃあ契約書作っちゃうから、ちょっと待っててね。ちなみに、この世界の法律で新規のお客さんは半年間家賃無料だから、その間に職探ししてね。」
そして、契約書にサインし、車で最寄りの駅や近くのスーパー、薬局など生活に必要な施設を教えてもらいながらアパートへ案内してもらい、リヴと別れた。
4階まで息を切らしながら上がり、契約した自分の部屋へ入る。部屋は綺麗で、家具も新品同様だった。カーテンは空いており、白い空から降る光が部屋を優しく照らす。
「ふぅ…」
ドサッとベッドに倒れ込み、深いため息をつく。目覚めてからしばらく経つが、腹は空かない。鳴らない腹をさすりながら、浅井の言ったことを思い返した。
「本当に…本当なんだな……」
これからのことを考えるより、数々の衝撃による疲労が勝り、気付けば眠りについていた。
−–−–−
目が覚めると、眠る前と同じ部屋。
空が白く、外の景色も変わらない。
朝か夜かもわからない。
眠る前に時間を見るのを忘れていた。
窓から白い時計台が見える。
屋根の下に大きな鐘があり、
四面全ての壁に大きな時計がつけられ、
時計の上にはAM・PMの文字と左右に振れる矢印、
時計の下には今日の日付が表示されている。
今は、2×××年3月3日の午後12時らしい。
チトセはしばらくぼんやりとしていたが、ベッドから降り、ぐぐっと背伸びをした。
ふと、昨日リヴに落ち着いたら役所に行って住民登録をするよう言われたのを思い出した。
チトセは顔を洗って髪を手ぐしで整え、昨日教えてもらった役所へ向かった。
役所の中は、現世と同様いくつかの課に分かれており、チトセは住民課の窓口へ向かった。窓口には、黒髪でパッツン前髪の眼鏡をかけた女性が座っている。
「こんにちは。今日はどういったご用件ですか?」
「えっと、住民登録を…」
「かしこまりました。ではあちらの記載台にてこちらの用紙に記入をお願いします。説明や手本は記載台に用意してありますので。」
淡々と無表情で話す女性から紙をもらい、
リヴにもらった契約書にある住所を見ながら
戸惑いつつも記入していった。
「新規の方ですね。初めて幻にいらした方には、生活開始準備金として現金10万円をお渡しすることになっております。そちらの手続きも合わせて行いますので、少々お待ちください。」
手続きが終わると、様々な書類と10万円が入った封筒が渡された。一緒に渡された「学生向け手引き」は必ず読むよう言われたので、役所のベンチでパラパラとめくってみた。困った時の連絡先や頼る施設、10万円の使い道例などが載っている。とりあえず手引きを参考に生活に必要なものを買い揃えに向かった。
家に着くと、慣れないこと続きで
どっと疲れが出たのか、荷物を床に置きベッドに倒れ込んだ。
携帯もゲームも無い。友達もいない。
何もやることがない。ただ眠るだけ。
自分の家族も友も思い出せない。
自分が死んだ理由もわからない。
家族はどうしているだろう。
友は泣いてくれているのだろうか。
どうして独りぼっちでこんなところにいるのか。
どうして自分だけ…
ひとり…ひとり……なぜ………どうして……
行き場のない思いがぐるぐると頭の中を駆け回る。
視界がじわじわと歪んでくる。
気付けば涙がとめどなく流れていた。
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