第2話


一方、チトセとシロガネは、2体の赤い夢喰と戦っていた。鎖のついた棘のある鉄球をギアとする夢喰と、3本の鋭い爪のついたギアを両手に持つ夢喰である。一体は鎖をぶんぶんと振り回し、鉄球を投げつける。そして鉄球はすぐに引っ込み、また鎖をぶんぶんと振る。もう一体は、鉄球を持つ夢喰の傍にいる。シロガネが物凄いスピードで、チトセは隙を見て何度も迫るが、爪を持つ夢喰がシロガネに劣らない速さで攻撃をガードし、その間に鉄球を持つ夢喰の攻撃で吹き飛ばされる。既に、2人とも傷だらけになっている。



「…くそっ…早く…行かなきゃいけないのに…!」



「落ち着こう、チトセ。まずは…あの2体を引き離さないと…。」



「私も加勢します!攻撃力は低いですが、距離を離すことはできるはずです!」



夢人界の女性が、クロスボウのようなギアで2体に次々と矢を打ち込む。ビビと同じくらいの背丈で、シロガネは一瞬彼女がビビに見えた。



「ありがとうございます!」



チトセが返事をした。



そして、2体の間に少しずつ距離ができ始める。

隙を見て、シロガネが爪を持つ夢喰の方へ向かい、チトセが鉄球を持つ夢喰の方へ向かう。そして、大きく距離を離した。



––これで有利になった!このままいけば…!



誰もがそう思った。



しかし、鉄球を持つ夢喰は、チトセの刀を素手で掴んで自らの片手を犠牲にし、もう片方の手で、クロスボウを持つ女性へ物凄い速さで鉄球を投げた。



女性はなんとか鉄球をかわした。チトセは隙だらけになった敵を素早く倒し、女性のもとへ行こうとする。女性は体勢を整えようと顔を上げる。



女性は目を見開く。



目の前で爪を持つ夢喰が、ギアを振りかぶっていた。






––やばい…!死…



女性は思わず目を瞑る。

しかし、夢喰の攻撃は当たらなかった。



シロガネが彼女を守ったのだ。

自身のレイピアで1発目の攻撃は防いだが、2発目の攻撃は防げず、腹部に3つの爪痕が残り、血が流れている。



反撃をしようと素早くレイピアを突くが、敵は大きく後ろに跳ね、距離をとった。



「ぐっ……ハァ…ハァ…」



「シロガネさん!!!!!」



チトセが大声で叫び、シロガネのもとへ駆け寄る。



「わ…私の…せいで……」



女性は涙目になりながら、自身の衣服を破き、止血しようとしている。



「…ふふ…君の…せいじゃないよ……もう……誰…も……傷付け…させない……」



シロガネが言った。汗がダラダラと流れている。



「…………」



チトセは黙って立ち上がる。



「……許せない…人を傷付けるお前らも……何も守れない…自分自身も…!」



チトセがそう叫んだと同時に、爪を持つ夢喰が大きく飛び跳ね、チトセに向かって爪を振りかぶった。



チトセは顔を上げた。

チトセの左目の瞳が、いつもの紫色ではなく、金色に輝いている。



そして、チトセは左腕を敵の方へ伸ばした。

すると、左手から金色に輝く鎖が現れた。鎖は物凄いスピードで敵に向かって伸びていく。



鎖はそのまま敵に絡み付いた。そして、勢いよくチトセの方へ引き寄せられる。



チトセは右手で刀を構えて、引き寄せられた敵を突き刺した。敵は抵抗する間もなく、キラキラと消えていった。



「……チ…トセ…」



シロガネは驚いている。



「……ガハッ…ゴホッ……ハッ…ハッ…」



チトセは少量の血を吐き、倒れ込んだ。瞳の色は元に戻っている。



「チトセ…!…ぐっ…」



シロガネが身体を動かそうとするが、ズキッと痛みが走り、腹部を押さえる。女性は咄嗟にシロガネの身体を支える。



「チトセ!シロガネ!」



敵を倒したアヤメとコモリが駆けつけた。



「…!2人ともすぐに手当を…!」



アヤメがチトセを起こそうとする。



「…お、俺は大丈夫。シロガネさんの…手当を…。」



チトセはアヤメに支えられながら起き上がる。



「シロガネは安全なところへ運んで手当する。あとは大丈夫。こっちは任せて、シバを追いな。」



コモリが言った。



「わかった、任せたよ。…チトセ、いけるかい?」



アヤメが言う。



「もちろん…!すぐに向かおう!」



チトセとアヤメは、アラン達のもとへ急いで向かった。





−−–



アラン達は、シバに追いついたものの、彼に近づけないでいた。

シバが放つ銃弾を避けながら、太刀を持った2体の赤い夢喰と戦っていたのである。



そこへ、チトセとアヤメが合流した。



「アラン!遅くなってごめん!」



チトセが言う。

アラン達は、ボロボロの2人を見てギョッとした。



「…!?2人とも大丈夫なの!?…シ…シロガネは…?」



アランが恐る恐る聞く。



「大丈夫さ。ちょいと深傷を負ったが、手当してもらってる。」



アヤメがそう言うと、アランは少しだけ胸を撫で下ろした。



「…また人が増えちゃった。面倒くさいなぁ、もう!!」



シバが腹を立てている。



「シバさん…俺は…アンタを許さない…!」



チトセはそう言うと、左目を金色に輝かせ、左手から鎖を放ち、2体の赤い夢喰を捕らえた。



「チトセ…!?」



全員が驚いた。



「…は、はぁ?なにそれ。聞いてないんだけど。…お前ばっか、何なの?ほんと。ほんとに嫌い。…僕ね、お前がお嬢様の女学生をケアした時から、お前のこと知ってたよ。なんか余計なこと始めた奴が現れたなって思ったんだよね。そのうち、邪魔になりそうって思ったんだ。ビンゴだったよ。しばらくして僕の大好物は負の欲望だってわかった。でもお前はそれをどんどん薄めちゃう。何度殺そうと思ったか。でもアランが隙を与えてくれなかった。はぁ、もう、何もかもムカつく。」



シバが頭をガシガシと掻いて、下を向く。

そして、ニヤリと笑った。



「…でもね、残念。チトセはここで終わり。僕、知ってるんだ、チトセの秘密。」



「秘密…?」




「うん。…この間のDV旦那。フィールを奪った時に知ったんだ。」






シバは笑顔でチトセに言い放った。















「お前は、アイツに殺されたんだよ。」











「…え?」




––俺は、あの人に、あの男の人に、殺された…?





記憶が、少しずつ甦る。





––俺は、あの日…卒業式で…




––1人で、学校に向かっていた…




––その時、背中に衝撃が走って…




––意識が朦朧とする中、後ろを振り返った…




––最後に見たのは…あの男の笑顔…




––そうか、俺は…






チトセの身体がキラキラと輝きだし、透け始めた。



「チトセ!!!!!」



アランがチトセの身体に触れようとするが、すり抜けてしまう。



「バイバイ、チトセ。」



シバの笑顔を最後に、辺りが真っ白になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る