第3話
チトセは意識を取り戻し、目を開けた。
しかし、そこは戦場ではなく、草原が広がっていた。
少し離れた所に、川が流れている。
「…ここは…?…アラン!みんな!」
呼びかけるが、誰もいない。
––もしかして…俺は…死んでしまったのか…?
「おーい。こっちこっち。」
突然、声が聞こえた。
振り返ると、遠くに女性が立っている。
チトセは女性の方へ歩いていった。
女性はサラサラの長い金髪で、女神のような出立ちである。
「こんにちは〜!はじめまして〜、そ…じゃなかった、チトセくん。」
「な、なんで俺の名前…」
「幻のことは、なんでも知ってるよ〜。幻の神様だからね!」
「幻の…神様…?」
「うん!現世と天国と地獄、そして幻には、それぞれその世界を司る神がいて、私は幻の神なの!」
「そ、そうなんですか…。親しみやすい神様ですね…。」
「え、そう?ありがとう〜!」
「…あのっ!俺、みんなのところに戻らなきゃ…」
「あ〜、うん。ほんとは、チトセくんは、この後天国に送らないといけないんだよね…。自分の死んだ理由を知っちゃったから…。」
「…え…そんな…。」
「でも、天国の神様にお願いして、もうちょっと先延ばしにしてもらった!だからチトセくんは今ここにいるの。ここには滅多に人は来ないし、普通は私にも会わない。そのままあの世に送られるから。…それで、貴方にまだ幻に残ってほしい理由は、幻を救ってほしいから。これは、全世界の神からのお願いでもあるの。シバって子が、思った以上に世界を狂わせちゃってるからね。廃人化で現世の神も困ってる。あの子に吸収された子達は、あの子を倒さない限り天国にも地獄にも行けないから、あの世の神々も困ってる。秩序が乱されちゃってるんだよね。私達神は、直接介入ができなくて…できる最大のことは、誰かを支援すること。それには全世界の神の同意が要る。神々の総意で、チトセくんに幻に留まってもらうことに決まったのよ。だから…お願い、シバを倒して。」
「…ありがとうございます。俺…必ずシバを倒します!」
「ありがとう。ちなみに、あの鎖は私と現世の神からのプレゼントよ。チトセくんは、現世の人達も救ってくれたから。チトセくんなら、上手に使いこなせると思うわ。」
「そうだったんだ…ありがとうございます!」
「でも、チトセくんに残された時間は、夜明けまで。それまでに、シバを倒して。」
「はい…!」
チトセの身体がキラキラと輝き、少しずつ消えていく。
「…ここでのことは、絶対誰にも言わないようにね。言ったら、消えちゃうから。」
「わかりました。」
「…それと…いつも息子と一緒にいてくれて、ありがとね。」
「…?」
そして、チトセは消えていった。
–−–
「チトセ!!!!」
アランの声で、チトセは目を覚ました。
いつのまにか、元の場所へ戻っていた。
透けていた身体も元通りになっている。
「な、な、ななななんで!?」
シバは動揺している。
「…俺は、アンタを倒すまで死ねない!」
「……あー。あーあーあぁ!!!なんでカなぁなんデかなア!?…もウ、いいヨ。お前ラ、全員、もう、死ネ。」
シバが銃を上に上げる。
すると、鎖で捕らえられていた赤い夢喰が銃に勢いよく吸い込まれていった。
そして、あちこちに散らばっていた夢喰も次々と吸い込まれていく。
椿と瑠々が銃を撃ち、チトセが鎖をシバへ放つが、銃から黒い電撃のようなものが放たれ、弾き返されてしまう。
アヤメは意識せずとも、黒く巨大なオーラを感じ取った。
「デカい…やばいのが来るよ…!」
シバが全エネルギーを銃に注ぎ、引き金を引く。
すると、シバの背後に巨大な黒いモヤが現れた。
大きな翼を持ち、チェスの駒のキングのような形をしている。そして中央に、ぽっかりと穴が空いている。
シバが銃を上に向ける。
すると、ぽっかり空いた穴に即座に巨大なエネルギーが溜まっていく。
「まずい!離れろ!」
アランが叫ぶ。
「
シバが引き金を引くと、レーザービームのようなものが放たれた。
エネルギーが強大すぎて、避けきることが出来ないのは、言うまでもなかった。
––このままでは、全滅…
誰もがそう思ったその時、
椿がビームに突っ込んでいき、銃を構えた。
「椿!!!!!!」
アランが叫ぶ。
「椿!!!!ダメぇえええ!!!!!」
瑠々が叫んで、駆け寄ろうとする。
しかし、アヤメがそれを引き止めた。
「うおおおおおおおおおおッ!!!!!」
椿は叫びながら、ビームのエネルギーを自身の銃で吸収しようとした。
椿の銃に、どんどんエネルギーが吸い込まれていく。しかし、吸収が追いつかず、椿はエネルギーに飲み込まれていった。
「椿いいいいいいい!!!!!!」
「椿さあああああんッ!!!!!!」
爆発が起こり、黒い爆風が吹き荒れる。
風がおさまり、静けさが戻る。
視界が晴れると、椿が倒れているのが見えた。
「椿!!!」
瑠々が急いで駆け寄り、椿を抱き抱える。
他のメンバーも、椿の周りに急いで集まる。
椿の右腕はなくなり、身体はキラキラと輝き、少しずつ透け始めている。
「そ…そん…な…」
チトセが膝をつく。
「いや…嫌!椿、ダメ、死なないで!」
瑠々が叫ぶ。
「……瑠々。お前は…もう、俺がいなくても…やっていける。アイツを倒して…胸張って、しっかり…生きろ。」
「無理だよ!椿、ねぇ、椿、一緒にいてよ。一緒にいてほしい。…違う、一緒にいたいの。椿、やっとわかった…私は、椿が大切。大切なの。」
「…悪ぃな。俺は…お前のそばに…いてやれねぇが…他の…大切な仲間達が…そば…に…」
椿の身体がどんどん消えていく。
「…おい、おい!椿、瑠々を置いていくなよ。皆を置いていくなよ!勝手に消えるのは卑怯だぞ!椿ぃ!」
アランが椿に顔を近づけ、泣きながら言う。
「…すまん…。アラン…瑠々を……頼…む…」
椿の身体は消えてしまった。
「椿が死んダ!椿ガ!」
シバが狂ったように笑う。
「いや……いや………いやああああああああッ!!!!!!!」
瑠々が叫んだ瞬間、瑠々から凄まじい光と衝撃が放たれ、周囲にいたメンバーは吹き飛んだ。
「瑠々!!!」
アランが叫ぶ。
瑠々は白いオーラを放ちながら、ゆっくりと立ち上がった。普段淡いブルーの瑠々の左目の瞳が、金色に輝いている。
「…私は、貴方を、許さない。」
瑠々は銃を上に向けて撃った。
すると、白いエネルギーが集まり、形を作っていく。そして、巨大な白い天使のようなものが現れた。巨大なマシンガンを抱えている。
「…瑠々まデ、卑怯だナンて。…許セない。許せナイ!!!!うわあああああアアアアアアッ!!!!!!」
また穴に黒いエネルギーが溜まっていく。
「
シバが引き金を引くと、ビームが放たれた。
そして、瑠々も引き金を引く。すると、天使がマシンガンを撃ち始めた。白いエネルギーが無数に飛んでいく。
黒と白のエネルギーがぶつかり合い、中間地点で爆発した。
「すごい…。」
チトセが言う。
「でも、これじゃ互角だ。俺達は、シバに勝たないといけない…!何か方法は…」
アランが案を考え始める。
「…チトセ。力を貸して。」
瑠々がそう言い、手を差し伸べた。
「…わかった。」
チトセが、瑠々の手を握る。
そして、チトセの力が瑠々へ渡っていく。
すると、天使が輝き出し、マシンガンが大きな剣と鎖に変化した。右手に剣、左手に鎖を持っている。
「みんなも、力を貸して。」
瑠々がアランとアヤメに呼びかける。
2人は、瑠々の肩に手を置いた。そして、2人の力も瑠々へ渡っていく。
「みんナ、死ネ、シね!!!
シバが再びビームを放った。
すると、天使が鎖を放つ。鎖は強い輝きを放ちながら、ビームを四方八方へ跳ね返していった。鎖はそのまま突き進み、巨大な黒いモヤを捕らえた。
「なッ…」
シバが狼狽える。
「
天使が剣を黒いモヤ目がけて突き刺した。
強く白い光が放たれ、辺りを包み込む。
光が収まると、黒いモヤは消え、シバの身体は消えかかっていた。
「なン…で…なんで…なんでよぉ…なんで僕の思い通りにならないんだよぉ…。」
シバはしくしくと泣いている。
「…それは、お前が間違っているからだよ。」
アランがシバの近くに歩み寄り、言った。
「…どこが間違ってたんだよぉ。思想の自由は誰しも平等にあるだろぉ。」
「…どこが間違ってたか、あの世で考えて、反省しな。」
「うぅぅう…くそぉ…悔しい……悔しいよぉ……うぅ…うぇぇええん…」
シバは泣きながら消えていった。
「………終わった…ね…。」
チトセが言う。
「……うん。」
アランが言う。
「…アヤメ!」
振り返ると、コモリと応急処置を終えたシロガネがこちらへ向かってきている。
「突然モヤが全部消えたから、もしかして、と思って来たんだ。」
コモリが言う。
「…終わった、の?」
シロガネが聞いた。
「…うん。終わったよ。」
アランが答えた。
「…椿、は?」
シロガネが再び聞く。
「……。」
返事は無かった。
だんだんと空が明るくなってきた。
それと同時に、チトセの身体が少しずつ消え始めた。
「…チトセ!?身体が…!」
アランが慌てる。
「…ごめん、俺もここまでみたい。」
「こ、ここまでって…」
「俺、全部思い出した。俺の本当の名前は、
「チトセ…そんな…」
シロガネは動揺している。
「…すごく短い間だったけど、皆と一緒にいられて、本当に楽しかった。本当にありがとう。」
「ちょ、ちょっと待ってよ…!」
「…最後までいられなくて…本当にごめん。」
「チトセ…チトセまで…置いてくのかよ…!…チトセぇ…嫌だよぉ…。」
アランが泣きながらチトセを抱きしめる。
チトセもアランを強く抱きしめ返す。
「…チトセ…私…どうしたら…」
瑠々が泣きながら聞く。
「瑠々さんは大丈夫。椿さんの言葉を信じて、前向いて生きて。」
「…全く、どいつもこいつもかっこいいことばっか言ってんじゃないよ。」
アヤメも泣いている。
「…ごめん。俺、みんなのこと、忘れないよ。どこへ行っても。…元気でね。本当に、ありがとう。」
チトセの身体は消え、彼の涙だけが、地面に残った。
地上では、警察が暴力団を全員捕らえ、
署に戻り始めていた。
「あー、つら。徹夜っすよ、これ。しかも、廃人化の手がかりは掴めなかったし。」
後輩があくびをする。
「そうだな。まぁ、メインの業務は無事クリアしたんだ。廃人化の件は、また地道に追うさ。それに…なんだか清々しい朝で、すぐに解決しそうな気さえする。」
「あ、俺もそれ思いました。テレパシーっすか。」
「何言ってんだ。よし、帰って飯食おう。腹減った。」
「賛成〜ッ。」
2人は車に乗り込み、署へ戻っていった。
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