第4話


チトセは目を覚ました。

辺りを見渡すと、広い広い草原であり、川が流れている。



「戻ってきたのか…。」



チトセは呟いた。



「おかえりなさい、チトセくん。」



振り返ると、幻の神と、茶色い短髪の小さな男の子がいる。



「幻を救ってくれて、本当にありがとう。」



「いえ…俺は、大切な人達を守りたかっただけで…」



「僕からも、お礼を言うよ。僕は天国を司る神。シバに囚われていた夢喰達は、無事に天国に渡ることができたよ。ありがとうね。」



「い、いえ…俺1人の力じゃなくて…みんながいたから倒せたので…俺は別に…」



「ふふ、どこまでも謙虚なのね。…さて、本題に入るわね。貴方はこれから、彼の導きにより天国へ渡るわ。その前に、お礼として貴方の願いを叶えてあげる。もちろん、私ができる範囲でね!」



「願い…ですか…。…!じゃ、じゃあ、ビビと椿さんを、元に戻してください!椿さんは!?椿さんは天国にいるんですか!?」



「実は、幻で殺されてしまった人達は、ここから天国へ行くシステムなんだ。殺されるのは稀なハズなんだけどね…。ちなみに、椿はまだあそこにいるよ。まだ目覚めてない。」



天国の神が指を差した方を見ると、遠くの方で椿が倒れている。



「…!椿さん!」



チトセが駆け寄ろうとするが、足が動かない。



「無理矢理起こすと、彼の心や存在が不安定になる。我慢して。」



天国の神が言った。



「じゃあ、ビビちゃんと椿くんを元に戻すことが、チトセくんの願いでいいかな?」



幻の神が聞く。



「はい!お願いします!」



「…でも、彼等はそれを望んでいないかもしれないよ?それでもいいの?」



「…はい。自分の人生は、自分で決めてほしい。誰かの手によって終わってほしくない。それに…仲間が待ってるんです。2人の帰りを、しつこく。2人も、自分の命を懸けてまで守りたかった、大切な仲間のもとに帰れることを願ってると思う。」



「…チトセくんが戻るっていう選択肢もあるんだよ?」



「俺は…いいんです。本音は戻りたいけど…本当の自分を取り戻したいっていう1番最初の願いが叶ったので…。」



「…そっか。わかった。じゃあ、責任を持って2人を戻すよ。約束する。」



「ありがとうございます!」



「…じゃあ、これからのことだけど、君は僕と一緒に天国へ行くよ。そこで、普通は記憶をリセットして別の人間に生まれ変わるか、天国で暮らすか選ぶんだけど、僕もお礼として、僕のできる範囲でお願いを叶えてあげる。幻に戻すとかは無理だけど…。」



「えと…それじゃあ…」



チトセは願いを伝えた。



天国の神は、それを了承し、チトセを送った。



「…最後まで自分のことは後回しだったね、彼。」



天国の神が言った。



「うん。…そんな彼のために、もうひと肌脱ぎますかね。」



幻の神が言い、2人は何処かへ歩いていった。





–−–




チトセが消え、しばらくした後、シロガネはそのまま病院へ救急搬送され、他のメンバーは軽い手当を受けた後、俯いたまま事務所へ戻る。



そして、アランは事務所の扉を開けた。



「…え?」



アランはドアノブを握ったまま固まる。



「……お、おう。」



何故か椿が立っている。



「ゆ、夢…?」



「俺も、そう思ってたとこだ…。」



「つ、椿…!!!」



瑠々が椿に飛びついた。

そして、声を上げて大粒の涙を流す。

椿はポンと瑠々の頭を撫でた。



「こりゃ…どういうことかね…」



アヤメも混乱している。



「…チトセ、かな…?」



アランが涙目で言う。



––カランカランッ。



入口のドアが開いた。コモリだ。



「…び、ビビが…目を覚ました!!!」





全員は急いで病院へ向かった。



ビビの病室へ到着すると、ボロボロのシロガネがビビの手を握りながら泣いていた。その近くには、浅井がいる。



「…アーくん…。みんな…。」



「ビビ…!!」



全員がビビの近くへ駆け寄る。



「原因はわからんが、突然こいつの懐中時計が直ったんだ。こりゃどういうことだ?」



「きっと、チトセだよ。チトセがなんとかしてくれたんだ…!そのうち、チトセも戻ってくる…!」



アランは目を輝かせた。




しかし、いくら待ってもチトセは帰ってこなかった。



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