第10話



「キャアアッ!!!!!」



誰かの悲鳴でハッと意識が戻ると、

自分、つまり佳代江は教室にいた。



何やら、教室が騒がしい。



「みなさん、落ち着いて!!!!教室から出ないように!!!窓から顔を出さないで!!」


教師が大声で生徒たちを注意する。



「な…なんで…」



マヤが動揺している。



「私は悪くない私は悪くない私は悪くない…」



エミリがボソボソと呟いている。



…何があったのか。恐る恐る窓を覗き、生徒達の視線の先に目をやる。



「……ヒッ!」



1人の女子生徒が血まみれで地面に横たわっていた。……自分がいじめていた、あの女子生徒である。



…大丈夫、大丈夫!私が彼女をいじめていたことを知っているのは、ごく少数。その人たちは、私には逆らえないし、いじめに加担している。私に協力するしかない。大丈夫だ!いざとなれば、鈴木グループの力で…



ぐるぐると頭をフル回転させ、冷や汗がダラダラと流れる。ああいう場面は…こういう場面は…もしこれがこうなって……考えろ、考えろ、考えろ



「鈴木さん、大丈夫?」



バッと顔を上げると、クラスメイトが自分の顔を心配そうに覗き込んでいる。



「だ、大丈夫ですわ…」



にへらと、なんとか笑顔を作る。怪しまれちゃいけない。私は無関係だと装わなければ…



パトカーと救急車のサイレンの音が、けたたましく鳴る。しばらくして、生徒は全員完全下校となった。



校門の外には既にマスコミがいる。顔を伏せて、生徒の人混みに紛れるよう隠れながら帰宅した。



−−−−−



ハッと意識が戻ると、

自室にいた。



下校途中から今まで記憶がないのは、気が動転しすぎたのだろうか…



…大丈夫。お父様の耳に入ることは無いわ。だって、誰かに告げ口できるような人はいないし、誰にも見つからないようにしてきた。誰も私に逆らえない。私に逆らったら、一族終わりだもの。大丈夫だわ。そもそも、なんで死ぬのよ。大事な母親と妹を遺して死ぬはずないじゃない…私がいなくなったら困るって思ってたはずでしょ…なんなの…なんでなの……



––ガチャッ!



自室のドアが、ノックも無しに突然開いた。

佳代江は身を強張らせる。



「おい!!!!!!佳代江!!どういうことだ!!!!!」



「旦那様!!おやめください!!落ち着いて!!!」



突然、父親が怒鳴り込んできた。メイドが、自分に手をあげようとしている父親の身体を必死に押さえている。




「お前のクラスメイトが自殺して、その原因がお前のいじめだっただと!?ふざけるな!!!!既にマスコミが家の前まで来ている!!!ネットニュースにもなっているんだぞ!?いったい何をしたんだ!?どうしてくれるんだ!!!!」



「え、そ、そんなのデタラメよ…私がそそんなことすするわわけ…」



目がぐるぐるとまわる。



「何をほざいているんだ!?証拠の写真だってあるんだぞ!?」



父親が一枚の写真を見せてきた。

…旧校舎のトイレでいじめていた時の写真だ。いつ、誰に撮られたのかわからない…

目玉が溢れそうなくらい目を見開き、瞬きすら忘れている。




「ここに写ってる女2人と、自殺した生徒を騙して脅し用の写真を撮った男が全て話したそうだ。お前の指示で仕方なく動いてたってな!鈴木グループの社長令嬢だから、逆らえなかったってなぁ!!」



「ぁ……ぁ…」



涙が溢れるばかりで、言葉が出ない。



「…もう終わりだ。こんな話、一度表に出れば、尾ひれがついてどんどん話が膨らんでいく。おしまいだ。鈴木グループは潰れる。あぁぁあ。今までの努力は何だったんだ…百合華が死んだ時、お前をどこかへやっていればよかった……俺じゃ無理だったんだ……なぁ、百合華…」



父親は天を仰いだ。次の瞬間、ふっと力が抜け、倒れ込んだ。



「旦那様!?旦那様!?だ、誰か来て!!!!救急車を!!!!」



…どうしよう。どうしよう。私のせいで…鈴木グループが…一族が…お父様が…考えても何も解決策が出てこない。何か案を絞り出せ。絞り出せ。絞り出せ絞り出せ無い頭で考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ…



…誰か………助けて…………




「助けテくれる人ナんて、誰モいなイヨ。」




耳元で囁かれ、ハッと顔を上げる。

気付くと、辺りは真っ暗だった。

何も見えない。ただだだ闇である。

どこかで、クスクスと笑う声が聞こえる。




「あなタハ誰にモ手を差し伸ベズ、全てヲ見下シタ。独りにナッタことを周りノセいにしタ。ソしテついに人ノ命を奪ッた。あなタのせイで、アなたハひとりぼっチになっタ。ヒトりぼっチひとリボッちヒヒヒ…」




「いや…いや…もうやめて!!!!」




「こノ家ももう終シマい。父は倒レ会社は倒産。あなタのセイ。アナたが潰しタ。あなタがイジめなんテしたカら。お終イお終いアヒャヒャヒャ!」



「ごめんなさい!ごめんなさい!」



「私が死んだのは、あなたのせいよ。」



自殺した少女の声と自分の声が、耳元ではっきりそう言った。





「嫌ああああああ!!!!!!!」





−−−−−



アランがフィールから剣先を離した。



チトセは酷い悪夢に大量の汗をかき、その汗が床へボタボタと垂れ落ちていた。



佳代江の顔を見ると、寝てはいるが涙を流して苦しそうにしている。次の瞬間、目が覚め、バッと起き上がった。ゼェゼェと息が荒い。



「………夢…?」



佳代江は辺りを見渡す。チトセは気付かれる、と慌てたが、佳代江はこちらを見ても驚きもしない。チトセ達のことは見えていないようだ。




「……どうしよう……ごめんなさいお父様…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」



佳代江はうずくまって泣きながらボソボソと呟き始めた。どうやら夢が相当影響を与えたらしい。



「うん、結構効いたみたいだね。また明日、彼女のフィールを覗いて、行動の変化を確認しよう。」



アランとアヤメは、外へ出て行った。

チトセは、佳代江を心配そうに見つめ、外へ出た。そして、複雑な気持ちで2人の背中を見つめていた。

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