第11話



翌日。アランとアヤメとチトセは

佳代江の部屋に来た。



そして、彼女のフィールを覗き、

今日の出来事を確認した。




−−−−−




「その…今まで本当にごめんなさい…」



旧校舎の女子トイレ。

自分、つまり佳代江は

依頼者の少女へ謝っていた。

少女は震えながらも、目を丸くして驚いている。

今は彼女と佳代江の2人だけらしい。



「私が間違っていたわ…他の人達にも、もうやめるよう私から言っておくわ。あの写真も削除させる。それで許していただけるかしら…?」



「………これも、何かの…遊びですか……?」



少女が、誰か隠れていないかキョロキョロと見回す。




「…遊びじゃないわ。本気よ。私が間違っていたことに気付いたの。貴方には今後一切関わらない。申し訳なかったわ…」




少女はまだ震えが止まらない。信用しきれていないようだ。




「これ…受け取って。」



佳代江が少女に紙袋を渡した。

中には、新しい制服と教科書、数冊のノートが入っている。



「…なんで…急に…」



「未来の自分について考える時間があったの。このままの私じゃ、未来なんて無い。私は変わらなくてはならないの。そのためには、貴方に許していただく必要があるわ。お願いよ、許して頂戴。」



佳代江は焦っているようだった。

そして少女は、佳代江の瞼が泣いた後のように腫れ、目のクマがはっきりわかり、ふらふらと衰弱していることに気が付いた。



「…もう絶対しないって、証明して。」



と、少女は佳代江を睨む。



「…何をすれば証明になるかしら…。あぁそうだわ、私の淫らな写真を渡せば、証明になるかしら。」



突然、佳代江が服を脱ぎ出したので、

慌てて少女が止める。



「やめて!そんなのいらない!もう私を痛めつけないでいてくれたら、それでいい!」



「…許してくださるの?」



「…許せないよ。そもそも、許すとか、許さないとか、そんな問題じゃない。でも、もう何もしないでいてくれるんだったら、私も何もしないから…」



「…ありがとう。その言葉を聞けて、少しホッとしたわ。これからは何もなかったあの時のように、お互い干渉せずに普通の生活をしていきましょう。」



「…わかった。」



…少女はトイレを出て行った。



「良かったわ…これで大丈夫なはずよ…」



佳代江は胸を撫で下ろした。





−−−−−




「うん、もう大丈夫そうだね。」



フィールを覗き終え、アランが笑顔で言う。



「ああ。あとはあの子が事務所に来るのを待つだけだね。」



「そうだね。じゃあ、事務所に戻ろう。」



「………。」



チトセは、佳代江の顔を見ながら悲しそうな顔をしている。



「…どうしたんだい?チトセ。」



「…これでいじめはなくなったとしても、この子の心は変わっていないと思うんです。未来の自分の可能性に怯えていじめをやめた。自分のためにやめたんです。謝ってたけど、本当に申し訳ないって思ってるようには思えなかった。これじゃあ、またいつか同じことをするかもしれない。その時はもっと大人になっていて、知識も出来ることも増えていて、もっと酷くて賢いいじめをするかもしれない。これじゃあダメだと思うんです。」




「…じゃあ、どうするの?俺たちの仕事は、いじめをやめさせることだけど。この先は仕事の範疇外だよ。」



「…わがまま言ってごめんなさい。でも、まだあと1日ありますよね?…俺に、その1日くれませんか…?」



「え?」



「まだ入社して数日しか経ってない分際で何言ってるんだ、ですよね…でも、この子も闇を抱えてる。この子も救わないと、根本的な解決にはならない。」



「……失敗したら、最悪またいじめが始まるよ?もっと酷いことになるかもしれない。それでもやるの?」



「……やらせてください。」



「…チトセはアツい男だねー。仕方ない!今回だけ許可しよう!アヤメも良い?」



「所長が言うなら、良いさ。」



「ありがとうございます!」



「でも、仕事ぶりはしっかり見させてもらうからね。ヤバそうだったら引き上げるよ。」



「はい!よろしくお願いします!」



「それで、どういう作戦でいくの?」



「えと…まずは、彼女のお父さんのところへ行きます。」



−−−−−




父親の寝室に来た。

父親は疲れた顔をして眠っている。

念のため顔の前で手を振ってみるが、起きる気配は無い。



チトセは呼吸を整え、腕を前に出す。



「…ギフト!」



チトセの懐中時計が輝き、刀が現れた。



「へぇー、チトセは刀なんだ!かっこいいね!」



「へへ…ありがとうございます。」




もう一度呼吸を整え、フィール目がけて刀を振り下ろした。


––ガキィィンッ!!!!



バリアは、びくともしない。

もう一度、振り下ろす。



「…ぐぅッ!」


––ガキィィンッ!!!!



ヒビも入らない。



「チトセ、私に任せな。…ギフト。」



アヤメの手に薙刀が握られた。



「アヤメはね、事務所で一番の怪力なんだ。」



アランがチトセに教える。



「……はぁぁああッ!!!」



–––パァン!


アヤメの一振りで、バリアはボロボロに砕け散った。



「す…すごい……」



チトセは呆気にとられた。

アランとアヤメがチトセの後ろに立ち、チトセの肩に手を置く。



「じゃあ、頑張ってね、新人クン。」



「はい…いきます。」



チトセは意識を集中させ、刃先をフィールへ向けた。

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