第12話
気がつくと、自宅の庭であった。
自分、つまり父親は、庭にあるベンチに座っている。
「おとーさま!」
声の方へ目をやると、小さな女の子がこちらへ駆け寄ってくる。幼少期の娘だ。
「みてみて!おかーさまと、お花のわっかを作ったの!」
「ふふ、佳代江ってば手先が器用なのよ。」
懐かしい声。顔上げると…優しく微笑みながら、こちらへ歩いていた。
「あぁ…
涙が止まらない。これは夢なのだろうか…
気付けば、妻の百合華を抱きしめていた。
「ちょっ…あなた、どうしたの?」
百合華が背中をさする。
「…おとーさん、かなしいの?」
「…悲しくないよ。こうして、お母様と佳代江といられるのが嬉しいんだ。」
父は娘の佳代江を抱き上げる。
佳代江は楽しそうにキャッキャとはしゃいでいる。
「あのね、お花のわっか、おとーさまにぷれぜんと!」
佳代江が父の頭に、花の冠を乗せる。
「ありがとう佳代江。」
「あのね、かよえ、おとーさま大すき!おこるとこわいけど、ちゃんとかよえのお話きいてくれるもん!だから大すき!」
「佳代江はよくわかっているのね。あなたがちゃんと佳代江を大事にしていること。」
「………そうだな…」
「おかーさまも、おとーさますき?」
「ええ。大好きよ。佳代江とおんなじくらい大好き。」
百合華が、夫と娘を優しく包み込む。
佳代江は幸せそうな笑顔を見せる。
「ねぇ、あなた。私達にどんなことがあっても、佳代江だけは、大切に守っていきましょうね。約束よ。佳代江は私達の宝物。佳代江は、私であり、あなたなの。」
「……なんでこんな大切な約束、忘れてしまっていたんだろうなぁ。お前を失ってから、何もかもどうでも良くなってしまった。お前の気持ちを踏みにじってしまったんだ…どうか赦しておくれ…」
「あなた?私はここにいますよ?…よくわからないけど、間違えてしまったことに気付けたのなら、あとはもうやるべきことは一つなんじゃないですか?」
「…あぁ。そうだな。すまなかった。ちゃんと今と向き合うよ。…伝えに来てくれて、ありがとう。」
「…ふふ。ずっと愛しているわ。あなたも、佳代江も。」
−−−−−
チトセがフィールから刃先を離す。
父親は涙を流すも、幸せそうな顔で眠っている。
夢見屋の3人は、何も言わずに部屋をあとにした。
−−−−−
翌日の深夜2時。
–––カランカランッ。
「すみません。」
依頼者の女子高生が、ネックレスを返しに事務所へやって来た。
「こんばんは。少し顔色が良くなったね。何か変化があったかな?」
「はい…すごく、変わりました。いじめがなくなるだけじゃなくて、相手の心も知ることができました。…そのおかげで、彼女に歩み寄れそうな気がしたんです。されたことは思い出すと震えてしまうけど、彼女自身は恐くなくなりました。時間はかかるかもしれないけど、やっと、心から、笑えそうです。本当にありがとうございました!」
「…そっか。僕達も力になれて嬉しいよ。これで依頼は終了だね。」
「はい、ありがとうございました。…お金は…」
「あ、うちは代金はもらってないよ。その代わり、ここでのコトは絶対誰にも言わないこと。」
「…すみません、ありがとうございました!」
「うん、ご利用ありがとうございました。良い夢を。」
––カランカランッ。
少女は事務所を出た。
アランはチトセを軽く小突いて
「やるじゃん。今日何があったのか、見に行こうよ。」
と提案した。
アランとアヤメとチトセは、事務所を出て
どこかへ向かった。
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