第3話
チトセの稽古終了から3日後、
アランは定期報告のため夢人界へ行った。
そこで聞いてきたのは、
やはり現世の人々の廃人化と、夢喰の失踪は
変わらず相次いでいるということだった。
「しばらく経つけど、犯人が見つかるどころか、手がかりも無いなんて…。」
チトセは悲しい顔をした。
「まぁでも、チトセのおかげで、夢見屋のケアは夢人界でも広まってきたよ。ケアを取り入れようとしてる同業もいるらしい。」
「え!そうなんだ!すごい!チーちゃん先駆者じゃん!」
「少しずつ、ボク達のことが認められてきているっていうのが、嬉しいね。」
「でも、犯人が見つかるまでは、気を緩めちゃいけないよ。」
「うん。アヤメの言う通り。俺達は引き続き、依頼達成とケアの両立を頑張っていこう。…あ、チトセ、今回のケアはどうだった?」
「うん、なんとか大丈夫そうだけど、彼の行動次第のところもあるから、明日、ちょっと確認してくるよ。」
「そっか。じゃあ、明日は俺も一緒に行くよ。」
「ありがとう。」
翌日、チトセとアランは
ケアの結果を確認しに行った。
「…うん、これで大丈夫そうだ。」
「良かった。…また5日もかかっちゃった。」
「人の心を動かすって、なかなか難しいからね。時間は全然気にしなくていいよ。」
「…ありがとう。」
2人は部屋を出て、事務所へ向かう。
その道中、声をかけられた。
「おい、お前ら…夢喰か?」
3人組の男達だ。見たことのない顔ぶれである。
「えと…どちら様?」
アランが聞く。
「俺達は、夢喰だ。仕事の合間に夢魔狩りをしてる。」
「!!?」
2人は目を見開いて驚いた。
「知ってるだろ?最近続いてる、現世の廃人化と夢喰の失踪…。実は、俺らの仲間も1人、突然いなくなったんだ。犯人は夢魔に違いねぇ。あんな得体の知れねぇ奴らだ、何してもおかしくねぇよ。だから見つけ次第、とっ捕まえてボコボコにして、知ってること全部吐かせるんだ。」
「え…でも、犯人が夢魔っていう証拠はないんですよね?それに夢魔狩りって…夢守っていう人達がいるし、勝手にそういうのしたらまずいんじゃ…」
チトセが言う。
「は?お前、夢魔の味方すんの?…まさか、お前ら、夢魔か…?」
「え、いや!違います!ただ、証拠もないのにそんなことしちゃったら、あとで大変なことになるんじゃって…」
チトセが慌てて弁明する。
「いや、怪しい。おい、こいつらとっ捕まえるぞ。」
男3人はそれぞれギアを出す。
「…君達、俺達が夢魔じゃないってわかったら、どうするの?」
アランが冷静に聞く。
「もちろん、解放してやるさ。…告げ口できないようにな。」
「…はぁ。夢喰の質も落ちたもんだね。」
「このガキ…調子乗りやがって!」
「…チトセ、俺が合図するまでギアは出さなくていいよ。あとは、絶対攻撃しないこと。避け続けて。」
アランがチトセに小さな声で指示する。
「う、うん。」
男3人がこちらへ迫ってきた。
アランは合図を出そうとする。
その時、
「おい、何してんだ。」
後方で声が聞こえた。
チトセは振り向くと、絶望した。
後ろにいたのは…アランの元同僚の夢守だった。
挟み撃ちだ…
しかも、あの夢守は俺達の正体を知ってる…
ど、どうする…
チトセは、アランをちらりと見る。
アランも、この状況はまずいという顔をしており、冷や汗をかいている。頭をフル回転させて策を考えているようだった。
「誰だ、お前。」
夢喰の1人が、夢守に向かって言う。
「俺?俺は、夢守だ。」
「なっ…夢守…!?」
「…最近、夢喰の端くれが、エグい夢守ごっこをして遊んでるっつー噂を耳にしてね。パトロールしてんのさ。…で、もしかしてお前らが、それ?」
夢守が、アランとチトセを通り過ぎ、
夢喰達の前に立つ。
「い、いや?俺達は…そ、そいつらが急に突っかかってきて…もしかしたら今騒ぎになってる、夢喰失踪事件の犯人の夢魔じゃないかって…」
「あ?突っかかったって…こいつら、ギア出してねぇけど。」
「えっ…。」
「それに…こいつらは夢魔じゃねぇ。」
アランとチトセは、その言葉に目を見開いた。
「こいつらは、俺の知り合いだ。お前ら、運が悪かったな。何もかも証拠のない勝手な憶測で好き勝手やってんじゃねぇぞ。」
「…す、すみませんでした!あああの、俺達、仲間が失踪してしまって正気じゃなかったんですぅう!」
「うるせぇ。仲間が消えたのは、お前らだけじゃねぇ。自分だけみたいな被害者ヅラすんじゃねぇよ。とっとと失せろ。」
「ひぃ!すみませんでした!」
夢喰の3人は、尻尾を巻いて逃げて行った。
アランが恐る恐る、元同僚の夢守に近づく。
「…椿。おかげで助かったけど…なんで俺達を助けたの?」
「あ?俺以外の奴にお前を潰されてたまるか。」
「…そっか。ありがとう、椿。」
「…フンッ。…次会うときは潰すからな。」
「…わかった。」
男が立ち去ろうとする。
すると、男の目の前に、2人の男女が現れた。
…男と一緒にいた、夢守の2人だ。
「…椿、なんで正直に言わないの。」
少女が言う。
「あ?何のことだ。」
「もー!全然素直にならないんだから!僕達怒っちゃうよ!」
「…?」
アランとチトセは、首を傾げる。
「あのね、この仏頂面男が、君達の仲間になりたいんだって!」
薄紫色の髪の青年がこちらに向かって、そう言った。
「…え?」
アランはぽかんとしている。
「な、何言ってんだシバ!しばくぞお前!」
「えーなに、ダジャレ?寒っ。」
「くっそお前…。」
「…椿!それ、ほんとなの?」
アランが少し前のめりで言う。
アランの目が少し潤んでいる。
「…本当だよ。椿は、貴方達のこと、認めてた。貴方達のすること、応援してた。」
少女が言う。
「ずっと前からしつこく君達を追いかけ回して観察してたんだよぉ。椿ってばネチネチ系男子なんだから。」
男に胸ぐらを掴まれたまま、シバと呼ばれた男が言う。
「お前…絶対しばく!今しばく!」
「こわいい!」
「…椿、嬉しいよ。椿にもちゃんと伝わったんだね…。」
アランが男の近くへ行く。
「…別に、そんなんじゃ…」
「俺達は、歓迎するよ。もし来てくれるのであれば。」
「…椿、どうするの?」
少女が男に聞く。
「……お前らは、どうする。」
男が仲間の2人にたずねる。
「私は、椿についていく。」
「僕もついてくよ!仲間外れ嫌だし、夢魔も面白そうだしね。」
「……一度に3人は、定員オーバーか?」
「…何人でも、大歓迎!」
そして、アランとチトセは、3人を連れて事務所へ戻った。
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