第2話
2週間後。
チトセは毎日身体を鍛えて訓練をしたが、
まだアランに攻撃を当てることができない。
そんなある日、チトセが出勤すると、既に全員集合していた。
アランがいつもとは違う黒のノーマルなスーツを着ている。ハットもミニハットではなく、しっかりと被るものだ。
「あれ、アラン、どこかいくの?」
「うん、ちょっと夢人界に行ってくる。」
「夢人界に?」
「うん、ちょっと緊急集合みたい。みんな、今日は頼んだよ。」
アランは事務所を出て行った。
「緊急集合って…何かあったのかな…。」
「いつも定期的に夢人界へ行ってはいるけど…今回のケースは初めてだね。」
シロガネが心配そうに言う。
「ビビめちゃくちゃ不安だよぉ!アーくん早く帰ってきてぇ〜」
「…夢人界に行く時って、夢守と鉢合わせとかしないの?」
「可能性はなくはないが…夢人界もそこには細心の注意を払ってくれているからね。日程や集合場所を分けたりしているらしい。夢人界は、あくまで夢喰にも夢魔にも夢守にも平等なのさ。待遇も給与もね。」
アヤメがチトセの問いに答えた。
「そうなんだ…。…アラン、大丈夫かな…。」
「まぁ、ここで色々言ってても仕方ない。しっかり仕事をして、アランを待とうじゃないか。」
アヤメが全員の肩をぽんと叩いた。
「そうだね。アヤメの言う通り、いつも通り仕事をしよう。」
「わかった。チーちゃん、今日はケアの予定だよね?ビビ、フォローするよ!」
「うん、ありがと。」
「私とシロガネは、店番だね。」
「うん。コーヒーを淹れてくるよ。アヤメはブラックだね。」
4人はそれぞれ、自分の業務を遂行し、
アランの帰りを待った。
––カランカランッ。
「あ、アラン!」
「ただいまぁ。」
「アラン、お疲れ様。」
「アーくん、大丈夫だった?」
「うん…ちょっと厄介なことになった。」
「厄介なこと…?」
アランがソファに座り、話を続ける。
「…最近、現世の人々の廃人化と、夢喰の失踪が相次いでいるらしい。」
「え!?」
アランの言葉に、全員が驚いた。
「いくつかの報告によると、現世の廃人化した人は、眠ってもフィールが現れないらしいんだ。」
「フィールが現れない…?」
「うん。夢喰の失踪については、何の前触れもなく突然いなくなってしまうらしい。それで、原因はまだ調査中だけど…犯人は夢魔なんじゃないかっていう憶測があちこちで飛び交ってるって…。」
「そんな…!証拠もないのに!」
「うん…でも、夢喰、特に夢守からしたら、俺たちは悪だから…。帰り道、いろいろ考えたんだけど、とにかく今は、チトセのケアの力を借りて、実績と信頼を積んでいくしかないと思う。」
「そうだね…。下手に反抗すると、さらに反感を買いかねないからね…。」
「ゔー!ムカつく!コツコツ実績積み重ねて、絶対ビビ達は悪くないって証明してやるー!」
「みんなごめんね…。俺が信用も力もないばっかりに…。」
「すぅぐアーくんは自分のせいにするんだから!悪い癖だぞ!」
「そうだぞ、アラン。こればっかりは仕方ない。犯人が出てくるまで、私達はおとなしく仕事を続けよう。ケアの実績が広まれば、きっと風向きも変わる。」
「俺、頑張るから。アランの心配も不安も飛ばせるように。だから、引き続き稽古もお願い。」
「…わかった。ありがとう。」
そして、不安を抱えながらも、
いつも通り依頼をこなし、チトセは稽古と訓練を続けた。
チトセは仕事において日々成長していたが、
ケアが難しい場面も少なくなかった。
ケアが完了するのに1週間以上かかることもあり、なかなか変化が生まれないこともあった。
しかし、アラン達がそれを支えた。
繋がりがある人々のフィールを覗いて
ケアのヒントや適任者を探したり、
どうすれば変化が生まれるか、皆で考えたりもした。
そうやって、一人ひとりケアをしていき、
実績を積んでいった。
その間、廃人化した人に出会うことは無かった。
一方、実戦においては、
毎日身体を鍛え、刀を振った。
アヤメ、シロガネ、ビビに
何度も練習相手になってもらい、
確実に強くなっていった。
日々、アランに着実に近付いていき、アランが全力で短剣を使って攻撃を防がなければいけないところまできた。
そして、8ヶ月後。
「…!そこだっ!!!」
––パァンッ!
チトセがアランの短剣を木刀で弾き飛ばした。
そして、ポンッと、アランの肩を木刀で軽く叩いた。
「ハァ…ハァ…か…勝った…よね…。」
「ハァ…ハァ……。うん、短い時間ですごく強くなったね!…これで稽古は終了だ!」
「や、やったあぁぁぁ…」
チトセはその場でバタンと倒れ込んだ。
アランは倒れ込んだチトセのそばに座る。
「ふぅ…。チトセ、あとはね、心の強さも大事なんだよ。強い想いが、自分の身体を何倍も速く、強く動かすんだ。強い心は、痛みもはね返すような強靭な身体を作ることにも繋がる。自分の魂を震わせられれば、きっとギアだって反応して強くなる。とにかく、心で負けちゃいけない。…まぁ、チトセはほぼ合格してると思うけどね!」
「心、か…。」
「よし、じゃあ、今日はみんなでお祝いしよう!稽古終了祝いだ!!…あ、その前に!チトセ、これ!」
アランはチトセにリングを渡した。
「これ…」
リングの中央には、懐中時計のカケラが埋め込まれている。カケラは、アランのものだ。
「うん、遅くなってごめんね。」
「アランは…大丈夫なの?」
「うん!まぁ、さすがにこれ以上はヤバそうだから、チトセで最後かな、とは思うけど!」
「…ありがとう、アラン。俺に出来ることがあれば、何でも言ってね。」
「うん!ありがとう!じゃあ早速、お願いしようかな!」
「うん!なになに?」
「今日のお祝いの買い出しよろしく〜!」
「えっ、俺主役じゃないの?」
「主役兼パシリ〜!」
「えぇ…」
アランは早速皆に報告し、宴を開いた。
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