第7話

翌日の深夜2時30分。



アランとシロガネとチトセは、

例の部長の部屋へ来ている。



シロガネがフィールのバリアを割り、ギアを向ける。



–−−–−



朝。もう家を出る時間だが、

ベッドから降りられずにいた。



怖い。人と会うのが、怖い。

いつ、どこで仕返しをされるかわからない。

私の噂をしているところなど、見たくない。

あぁ、でも、今日、私が会社に行かなかったら、話題になってしまうのか…。

そして、憐れだと笑いものにするのだろう。

あぁでも、行けば誰かに襲われるかも…。

どうしよう、行かねば。でも、怖い…。



どうしよう…どうすれば…。



–−–−–



「あー…今日は家から出てないね。」



アランが腕を組みながら言う。



「じゃあ、依頼者のフィールも覗いてみるかい?」



シロガネがギアを拭きながら言う。



「その前に、彼の弟さんのフィールを覗きたいです。」



チトセが小さく手を挙げて言う。



「それもいいね。ちょっと見てみようか。」



「所長も賛成でーす!」



3人は弟のもとへ向かった。



–−–−–



弟の部屋へ来た。

いびきをかいて、ぐっすり眠っている。



「よし、じゃあチトセ、お願いね!」



「はい!」



チトセのギアがフィールに触れた。



–−–−–



とある応接室。



「やぁ、ご無沙汰だね。元気だったかい?」



男性が嬉しそうに出迎えてくれている。



「あぁ、元気だよ。君の活躍ぶりはテレビや新聞でよく目にしているよ。本当にすごいな。」



「いやいや。俺は何もしてないさ。社員が頑張ってくれたおかげで、ここまで大きくなったんだ。」



「ふふ。変わってないな。安心したよ。」



「君こそ、変わってない。良い意味でな。…ところで、急にどうしたんだ?」



「前に、会社に俺のドッペルゲンガーがいるって言っていただろう?それが少し気になってな。」



「ああ!ちょうど良かった。先日の社員旅行の写真を見ていたところなんだ。ええと…あぁいた、この人だ。」



…兄だ。もうずっと会っていないが、すぐにわかった。



「………。」




「どうした?」



「彼は、どんな人なんだ?」



「彼はとても評判が良いよ。人当たりは良いし、発想力もトーク力も長けている。ただ、1人教育が大変な部下がいる、と頭を悩ませているようだがな。」



「…それは、どんな部下なんだ?」



「なんでも、少々怠慢な社員で、何度も同じミスをしてしまったり、言われたことを忘れてしまったりするんだとか。俺が知っている彼は、そのようなことはなかった気がするんだがなぁ。まぁでも、教育はもう少し任せて欲しいと言われているから、俺はまだ見守っているところだよ。」



「…この彼の役職は?」



写真の中の兄を指差しながら聞く。



「彼は今、部長だよ。」



「どういう経緯で部長に就任したんだ?」



「…何故そこまで聞くんだ?そんなに気になるのか?」



「いや…答えられないような内容なら、別にいいんだ。」



「…いや、君になら話そう。彼は、元々別の会社で課長として勤めていたんだが、うちの人事部長と面識があったようでね。その人事部長の推薦もあって、半ば引き抜きのような形で入社してもらったんだ。ちょうどその時、会社内で新企画の募集をしててね。そこで、まだ日も浅いのに、面白い企画を出してくれたんだ。素晴らしい発想力と、この会社を一生懸命勉強したんだろうという熱心さをとても評価されたんだよ。彼には人を惹きつける話術もあるし、部長への昇格は想像に難くなかったよ。」



「……そうか。……すまん。実は…。」



「どうした?」



「彼は……その…俺の兄なんだ。」



「え!?」



「実は、俺には双子の兄がいるんだ。」



「そうなのか!?初めて聞いたぞ!?」



「ずっと昔に、あまり良くない別れ方をしたものだから、言わなかったんだ。もう10年以上会っていない。」



「何か…あったんだな?」



「あぁ…。それで、もしかしたら、その企画は、その…もし、あの時の兄と変わっていないのであれば…誰かの企画を盗んだのかもしれない。」



「なっ…!?」



「俺の知っている兄は、ずっとそうして生きてきた。幼少期から、俺の作品や努力を盗んで先に提示し、言葉巧みに自分のものであると周囲に信じ込ませた。俺は、兄がそれで喜ぶなら、と何も言わなかったんだ…。口で勝てる自信が無かったというのもある。それが、いつしか俺以外の人のものにも手を出し、彼は怪物になってしまった…。そして彼は出て行った。彼は、こんな古ぼけた工場の経営など自分にふさわしくない、と言ってね。俺は何も言えなかった。怪物を世に放ってしまったんだ…。俺の責任だ。本当に申し訳ない…。」



「そ、そうだったのか…。そういう人物なら、入社後すぐに企画を提出できたのも合点がいくな…。」



「もしそのままの兄なら、君の会社で、今、兄にものすごく苦しめられている社員がいる。おそらく、本当の企画発案者だろう。心当たりはないか?」



「…もしかしたら、彼が頭を悩ませているという、部下かもしれないな。自分にとって都合の悪い存在だから、目の敵にしているのやもしれん。どれ、早速少し話を聞いてみよう。苦しんでいるのなら、早い方が良い。」



「部長の兄と同じ顔がいたら緊張するだろうから、俺は席を外すよ。」



「わかった。その前に、人事部長にもこの話を共有したい。もう少し残っていてくれ。」



–その後、人事部長が呼び出され、部屋で先程の話をした。彼は、驚きを隠せないでいたが、俺の嘘偽りなく話す様子を見て、理解してくれた。



「じゃあ、話が終わったら連絡してくれ。時間をとらせてしまって、本当に申し訳ない。」



「いや、正直に話してくれてありがとう、助かったよ。気付けなかった私達にも責任がある。あとは任せてくれ。」



俺は別室へ移動した。



–−–−–



チトセがフィールからギアを離す。



「弟さん、動いてくれてたね。」



「うん、よかった。」



「依頼者の様子も見に行ってみるかい?」



「はい、そうします。」



3人は依頼者のもとへ向かった。

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