第7話

翌日深夜。

アランとチトセと椿と瑠々が、まりの家へ来た。



しかし、誰もいない。



「…あれ?なんで誰もいないの?」



「靴が無かった。どこかへ行ってるんだ。」



「あんな身体で出かけるか?」



「うーん…あ、もしかして、病院とか?」



「可能性はあるね。近くの病院を探してみようか。」



外へ出て屋根の上から辺りを見ると、まりの家の付近に大学病院があった。

その病院の中を探してみると、とある個室タイプの病室に親子がいた。



親子は同じベッドで、抱き合って眠っている。

まりの母親のフィールは、昨日より僅かに大きくなっていた。



4人は、まりの母親のフィールを覗いた。




–−–−–




目が覚める。

なんだか、久しぶりに目覚めた気がする。



ベッドから起き上がろうとしたが、うまく身体が動かない。

身体が重く、固まっているかのように感じる。



なんとか上半身を起こし、壁にもたれかかる。

ふぅ、と一息ついた。



すると、パタパタと走る音が聞こえ、

私のいる部屋の前で止まった。



扉がゆっくり開き、ひょこっと、まりが顔を出す。



「ま…まり…!?」



まりの姿に驚愕した。

やつれて髪はボサボサ、少し虚ろな目をしている。



「…ママ?」



「ま、まり…ど、どうしたの!?何があったの…?」



まりのもとへ駆け寄ろうとするが、身体が言うことをきかない。



「…ママ、起きたの?」



「う、うん、起きたよ。まり…」



「ママ……ママ…!」



まりが大泣きしながら駆け寄り、私の腕の中に飛び込んできた。



「ご、ごめんね…まり…。ママ、どうしちゃったのかな…。」



「…あのね、ママね、ずっどね、起ぎながったんだよ!まり、まり、嫌われちゃっだど思っだ……うわぁぁあん!」



「…ごめんね。ごめんね。まりのこと、嫌いになるわけないよ。まりが1番大好きだよ。ごめんね…。」



…何が起きているのだろう。携帯を見ると…まりと一緒に眠った日から数日経っている。記憶が抜けている。なぜ抜けているのか…。病気にかかった…?とにかく、まりがこのままでは危険だ。病院に連絡しよう。




しばらくして、救急車が到着し、私とまりは病院へと運ばれた。




私とまりの診断結果は、栄養失調だった。

2人とも点滴を打ち、暫く入院することになった。



私の脳や心臓は特に異常がなく、

記憶が無いことについては、原因不明らしい。

ただ、最近、突然寝たきりになってしまったり、全く何にも反応しなくなってしまったりする人が増えているらしい。私もその1人かもしれない、とのことだった。その症状から復活した事例が無いため、私はしばらく病院で様々な検査を受けることになった。その間、父親のいないまりは1人で家にいることになるため、特別に個室に私とまりを入れてもらえることになった。



夜、まりが私のベッドに潜り込む。私はまりを抱きしめた。



「1人じゃ寝れなかったから、いつもママのお布団に入ってたんだけど、ママ、ぎゅってしてくれなかったの。それでね、まり、お布団から落ちちゃうから、床で寝てたの。」



「まり…本当にごめんね…。」



「ううん。あのね、黒い服のお兄ちゃんとお姉ちゃんが助けてくれたんだよ。」



「え…?」



「あのね、ゆみこ先生にママを起こしてもらおうと思って、夜ね、お家を出たの。そしたら、お家の横に見たことないドアがあってね、入ったら、お姉ちゃん達がいたの。でも、朝になったらお姉ちゃん達はいなくて、ドアもなくなってたの。そしたら、ママが起きたの!」



––夢でも見ていたのかな?



「そう…。じゃあお兄ちゃんとお姉ちゃんにママからありがとうって言っておくね。でも、今度は夜遅くにお外に出ちゃダメだよ。お家に帰ったら、電話の使い方、一緒に覚えようね。」



「うん!…ママ、もう大丈夫?」



「大丈夫だよ。…よく頑張ったね、まり。もうひとりぼっちにしないから…。」



「…うん。約束だよ。」



「うん。約束。」




この子には、私しかいない…。

私がしっかりしなければ。

私の1番の宝物、愛おしいこの子を、

絶対守っていくんだ。

そう心に強く誓い、眠りについた。




−–−–−




「まりちゃんを想う気持ちが、フィールを大きくさせてくれてるね。このままいけば、フィールも元に戻るかも。」



「そうだね。俺、時折様子を見に来るよ。」



「うん、お願いチトセ。…椿、今回は椿のおかげだよ、ありがとう。」



「…俺達にもできることがあるようで、良かった。ただでさえ信用ねぇのに、ずっとお荷物状態だったら面目ねぇからな。」



「うん。でも、もし今回のことが無くっても、椿達は大事な仲間だからね。一緒にみんなを助けたいって思いがあれば、特別な力なんて必要ないよ。」



「…お前は変わったんだか、変わってねぇんだか、わからねぇな。」



「うーん、大人になったのかな?」



「なんだそれ。」



「…ふふ、椿さん、楽しそうだね。」



「た、楽しくねぇ!」



「…今回みたいな人々に遭遇することがあるかもしれない。その時は、お願いね、椿。瑠々やシバにもお願いすると思うけど。」



「…わかった。椿からいろいろ教えてもらう。」



「…お前が積極的になるなんて、珍しいな。」



「…これが私達にできる仕事だから。」



「そう、か…。」



「うん、ありがとう。よし、じゃあ今日は帰ろう。まりちゃんの依頼は達成ってことで!」




4人は幻へ戻っていった。







それから、椿達とともに多くの依頼をこなし、同時にケアを行っていった。時折、廃人化してしまった人々と遭遇することもあり、椿達が主体となってフィールを復活させた。

どの依頼やケア、フィールの復活も、皆で協力しながら進め、椿達への信頼度は日に日に高まっていった。




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