第5話


翌日。

夢守の3人とアランとアヤメは

夢人界に来た。



受付で、夢守解除の旨を伝える。

受付横のゲートが開かれ、コモリがいる部屋へ案内された。



「…これまた珍しい組み合わせだね。喧嘩はやめたの?」



コモリが聞く。



「一応ね。これから、また一緒にやっていくんだ。」



アランが答えた。



「…へぇ、夢魔になるのか。」



「…あぁ。」



椿が答えた。



「あの椿も感化されんだねぇ。まぁでも、アンタ達のことは他の夢魔とは違って、素直に応援できるよ。…全てに平等の立場の私がこんなこと言っちゃいけないね。とりあえず、夢守の契約解除の手続きするから。」



書類にサインをした後、

3人は筒型の装置の中へ入った。

コモリがボタンを押すと扉が閉まり、

装置の内部が白い輝きを放つ。

そして、それぞれの懐中時計がふよふよと浮き上がり、白い盾のマークが消えた。



「よし、これで手続き完了。今は普通の夢喰になってるから。これからは夢喰や夢魔に危害を加えたら、処罰されるからね。」



「わかった。」



「ありがとう。よし、じゃあ、戻ろうか。」



「私はコモリと久しぶりに会えたから、もう少し話してくよ。先に戻ってておくれ。」



アヤメがアランに言う。



「コモリと仲良いもんね。わかった。じゃあ行こう、みんな。」



4人は先に事務所に戻った。







「…何かお願いごとでもあるんでしょ?アヤメ。」



コモリが頬杖をついて言う。



「さすがだね。…正直、私はあの3人を信用できない。だから、協力してほしいんだ。これをアンタに持っててもらいたい。」



アヤメが、懐中時計のカケラをコモリに手渡した。アヤメは人知れず懐中時計を削って、カケラを取り出していたのだ。



「もし、あの3人の誰かに裏切られた時、私がそれを通じてアンタに呼びかける。もしそれが反応したら、徹底的に調査して裏切り者を処罰してほしい。…頼めるかい?」



「…姐御だねえ、アヤメは。いいよ、特別に頼まれてあげる。」



「ありがとう、コモリ。すまないねぇ、全てに平等な立場でなきゃいけないのに…。」



「肩を持つっていうより、取り締まるっていう意味合いが強いし、問題ないさ。それに、私も人だから、残念ながら友人を助けたいっていう感情はあるし、仕方ないよねぇ。」



「持つべきものは友だねぇ。」



「ふふ。…夢魔狩りの話、夢人界にも届いてるよ。調査と取り締まりは強化してるけど…気をつけてね、アヤメ。」



「あぁ。ありがとね。」



夢人界をあとにするアヤメの背中を、コモリは心配そうに見つめていた。




–−−–−



アヤメが事務所に戻ると、ビビと椿が言い争っていた。



「なによ、この無愛想野郎!」



「あ?そんなことしか言えねぇのか。頭悪そうなピンク頭だと思っていたが、本当に馬鹿だったとはな。」



「ムッカぁぁあ!アーくん、やっぱビビは反対だよ、こんな奴ーッ!!」



「待て待て、どうした…。」



「あ!アヤちゃああん!この天パ野郎がぁ…」



「おいチビ!誰が天パ野郎だ!」



「はぁぁ。2人とも馬鹿。」



「誰が馬鹿だ!シバは黙ってろ!」



「…で?何があったんだ?」



「ビビが、あだ名を付けたいってことで、まず椿にあだ名を付けたんだけど…気に入らなかったみたいで。それで段々エスカレートして…。」



アランがアヤメに説明した。



「な、なんだそりゃ…。」



「ちなみに、椿のあだ名はバッキー。」



「バ、バッキー。」



「いいじゃん!バッキー!」



「ボクは賛成だよ、バッキー。」



「僕も僕も!バッキー。」



「俺も、なんだか親しみやすくていいと思う。バッキー。…うーん、でも俺は椿さんかな。」



「俺も、普通によくあるあだ名だと思うよ。椿が似合わないだけで。」



「お前は一言余計だ!アラン!」



「良かったね、椿。」



少女が言う。



「あ?」



「嬉しいんでしょ、椿。顔に出てる。」



「は!?何言って…」



「ほらぁ!嬉しいんじゃん!」



「嬉しくねぇよ!」



「はい、じゃあ、アヤメが帰ってきたし、改めて自己紹介しよ!はい、椿から!」



アランが話題を無理矢理変える。



「…椿だ。よろしく頼む。」



「……以上?」



「以上。」



「…じゃあ、次は僕ね。僕はシバ!見た目は美少年だけど、実はハタチ越えしてます!好きな食べ物は麩菓子!嫌いな食べ物はピーマン!チャームポイントはクリクリおめめ!よろしくね!」



「よろしく。じゃあ、あとは彼女だけだね。」



「……瑠々ルル。」



「瑠々ちゃん!ずっと思ってたんだけど、瑠々ちゃん可愛いぃ!お人形さんみたいだよね!あ、ビビです!よろしくね!」



「あ、チトセです。よろしくお願いします。」



「ボクはシロガネ。よろしくね。」



「アヤメだよ。よろしく。」



「俺はアラン。ここの所長をやってまーす!」



椿は黒髪の癖っ毛で、切れ長の目である。身長は、高身長のシロガネと同じくらいで、見た目は20代である。

シバは薄紫色のマッシュの様な髪型で、どちらかといえば可愛らしい顔立ちをしている。身長はチトセより高く、アヤメより小さい。見た目は若く、声が優しい。

瑠々は、ウェーブのかかった銀髪で、肩くらいまである。ビビよりも小さく、人形のように可愛らしく整った顔をしているが、無表情である。



一通り自己紹介を終え、アランは3人に勤務体制や仕事内容を教えた。



「それで…俺達がやってるケアのことなんだけど、いずれは椿達にも携わってもらおうと思ってる。そもそも夢魔が初めてだし、しばらくはそれぞれ誰かの仕事に一緒について、フォローするっていうのが主になると思うけど。」



「わかった。…1つ頼みがある。」



「何?」



「こいつ…瑠々は俺となるべく一緒にしてもらいたい。瑠々は俺がいねぇと動かねぇんだ。」



「あらあら、いつのまに保護者になったの?椿クン。」



「そんなんじゃねぇよ。こいつは…まぁいろいろあんだ。」



「そっかぁ…わかった。椿と瑠々はセットで動いてもらうよ。シバは単独でも大丈夫?」



「僕は全然大丈夫だよ!いろんな人と仕事できる方がワクワクするし!」



「良かった。みんな個性的だけど、いい人達だから安心して!」



「ビビ個性的じゃないもん!フツーだもん!」



「お前が1番個性的だろ…」



「うるさいバッキー!」



「だからそれやめろ!」



また言い争いが始まった。



「…なんだかまた騒がしくなったねぇ。」



「アヤメ、また大変になっちゃうけど、よろしくお願いします…。」



「慣れっこさ。」



「そういえば、制服はどうする?もう素敵な服を着てるけど…ボクが新しく作ろうか?」



「そうだね。俺達は黒の制服だけど、3人は白だもんね。お願いするよ、シロガネ。」



「お安い御用だよ。」



「え!みんなとお揃いの服作ってくれるの!?嬉しい!」



シバがぴょんぴょんと跳ねる。



「じゃあ、アヤメにオーラを見てもらおうか。」



「え、オーラ!?」



「ああ。私は人のオーラの色が見えるんだ。そのオーラの色を使って、シロガネが制服の裾の内側をデザインしてくれてるんだ。」



「えぇ!?何それ!すごすぎ!…あ、でも、俺達は元夢守で白の制服だったし、3人白で統一じゃダメかなぁ?後から組ってことで!」



「うーん、まぁ、3人がそれで良いならいいけど。」



「俺はなんでもいい。」



「私も。」



「じゃあ決まり!白でお願いしていい?」 



「もちろんだよ。楽しみにしてて。」



「わぁい!ありがとう!」



「よし!じゃあ…歓迎会、する?」



「アラン、飲み会好きだね。」



チトセが笑う。



「親睦を深めるたーめ!アヤメ!シロガネ!お願ーい!」



「冷蔵庫に何が残ってたかねぇ。」



「ちょっと見てみようか。」



アヤメとシロガネはキッチンへ向かった。



「アヤメとシロガネのご飯はちょー美味いんだよ!よく作ってもらってるんだ!」



「そうなんだ!楽しみだなぁ!」



そして、歓迎会が始まった。





数時間後、アランとシバは肩を組んで歌い、瑠々はビビに絡まれ少し困惑し、アヤメがビビを止めている。シロガネはキッチンで追加のつまみを作っている。


酒を飲んでいないチトセは、騒がしい部屋から逃れるため、外へ出てきた。


そこへ、椿がやってきた。



「お前は飲まないのか。」



「あ、椿さん。うん、それでアランとシバさんの絡みがめんどくさくて出てきちゃった。椿さんも飲まないの?」



「昔は飲んでいたが、もうやめた。酒にはいい思い出が無いしな。」


 

「やんちゃしてたんだ。」



「そんなんじゃねぇよ。…それにしても、お前は特別な力があるんだな。」



「特別な力?」



「ああ。ターゲットをも救う夢魔なんて、初めて見た。そんなこと、誰も考えてこなかった。俺は、夢人は人々に幸福を与え、導く存在だと思っている。それに反する夢魔は悪だと思っていたが、全部ひっくるめて救っちまうなんて…すげぇな、お前は。」



「…俺には特別な力なんてないよ。俺の好きなようにやらせてもらってるだけ。俺の好きなようにやらせてもらえてるのは、みんなが俺の気持ちを尊重してくれて、助けてくれてるおかげだし、1人だったら何もできないよ。」



「…そうか。まだ若ぇのに、しっかりしてるな、お前は。」



「そうかなぁ。…椿さん、ちょっと聞いてもいい?」



「何だ?」



「…その、アランと、元々は一緒にやってたんだよね?…昔、何があったのかなって…。」



「…そうだなぁ。…俺とあいつが夢喰だった頃、俺の方が2週間ばかり早かったが、同じところで働いていてな。俺らはまだ夢喰になりたてで、右も左もわからない状態だったが、俺はそれなりにやりがいも感じていた。…アランもそうだったと思っている。あいつは、世界中の人々に幸せを届ける、だとか抜かしてた。そんなあいつが、ある日突然、職場に来なくなった。それから何年かして、あいつに再会した。偶然な。…あいつは夢魔になっていた。幸せを与えるはずが、不幸をばら撒く存在になっていたんだ。俺は、元仲間として、あいつを許してはいけないと思った。俺が、あいつを止めないと、あいつを消さないと…そう思って、いつしか夢守になっていた。…何故夢魔になったのかは知らねぇが、お前を尊重して、ケアを取り入れたってことは、ただ不幸を与えたいわけじゃねぇみてぇだな。お前達に近づいたのは、アランの心うちが知りたかったってのもある。…すまなかったな、急にこんなことになって。」



「…ううん。椿さん、アランを大切に思ってるんだね。」



「まぁ、それなりの時間、一緒に働いてきたからな。まさか、俺が許せなかった夢魔になって、また一緒に働くとは思ってなかったが。」



「でも、夢魔への気持ちが変わってくれて良かった。アランもすごく嬉しそうだし。…いつから気持ちが変わったの?」



「…何度かお前達を見かけることがあって、陰で監視していた。人を苦しめているようなら、すぐ殺そうと思っていた。…でも、お前がターゲットも救っているのを見た。それから、瑠々とシバに協力してもらって、お前達を見つけては様子を見るようになった。…それで

…お前達は、夢喰でも成し得ない、全ての人々へ幸福を与え導くことができるかもしれないと思った。…もしそれができるのであれば、アランが昔言っていた、世界中の人々に幸福を与えるっつー夢が実現するのかもしれないと思った。そうであれば、俺も手伝いたい。そう思ったんだ。…瑠々とシバは巻き込んだ形になっちまったがな。」



「そっか…。ありがとう、俺達のこと、ちゃんと見て、認めてくれて。」



「…最初は聞く耳を持たなかったんだ。お前達に攻撃もした。感謝なんてすんな。もっと怒れ。」



「でも誰も傷付いてないし、こうして仲間になってくれたんだから。…でも、俺達にとって、椿さん達は敵だったから、すぐに信用できないと思う。俺も瑠々さんとシバさんはまだちょっとよくわからない。でも、椿さんは信じるよ。話せてよかった。」



「…ありがとな。」



––カランカランッ。



「あー!チトセと椿、何やってんの!俺も混ぜてよ!」



顔を赤くしたアランが2人の間に割って入ってきた。



「…うるせぇ、酔っ払いが。シバはどうした?」



「シバー?シバならソファで寝ちゃったよぉ!」



「あー…あいつ寝ちまったら、しばらく何しても起きねぇぞ。布団はあるか?」



「お客さん用があるよー!」



「じゃあそれ貸してくれ。俺がシバを運ぶ。」



「俺も手伝うよ!」



3人は中へ入っていった。

歓迎会はその後も賑やかに続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る