悪魔の魔石で装備カスタム

「そして、こちらが悪魔から摘出された魔石です。特別報酬として渡すように指示されています」

「魔石……?」


 エアーデが手渡してきた、こぶし大の石をマジマジと観察する。

 夜の闇を集めたような色をしていて、少し透けている。


「なんや、ミースはん。魔石を知らんのか? 意外と村の先生とやらも役に立たんな~」

「うーん、魔石のことを先生に聞こうとしたら『それは面白そうなので自分の目で確かめてください』とか言われたんだよ」

「よし、ワイが教えたるさかい! 魔石とは――」


 魔石とは、モンスターの体内から摘出される物体である。

 大きさや色はそれぞれ違い、魔力の源となる魔素で構成されているらしい。

 用途としては、砕いて魔道具などの触媒にする。

 値段はそれほどでもないが、取り出しやすく、劣化しにくいので安定した換金部位としては有名である。

 ちなみにダンジョン由来のモンスターは倒した瞬間に霧散してしまうので、魔石は手に入らない。

 魔石が手に入るのはフィールドのモンスターだけだ。


「なるほど、つまり魔力電池みたいなものでありますな?」

「デンチってなんや? レドナはたまにわけのわからんことを言うなぁ」

「あれ、これって……魔石に何かが見える」


 ミースは気が付いた。

 魔石に、普通の鑑定では見えない文字が見えてきたのだ。


【悪魔の魔石 音感知付与:悪魔から摘出された魔石。装備に合成するとスキルを付与することができる。自由に分離可能】


「……これって、砕くんじゃなくて、装備に合成するとスキルが付与されるみたい」

「な、なんやて!? ただでさえ成長させた強い装備を、カスタマイズまで出来るっちゅうことか!?」

「オプションスロットのパーツということでありますね」


 さっそく、ミースは試してみることにした。

 分離可能と書いてあるので気軽にだ。


「それじゃあ、この大収納のチョーカーに悪魔の魔石を――」


 大収納のチョーカーに悪魔の魔石を当てると、スキルが追加されたことが表示された。


【大収納のチョーカー 全ステータスアップ 大収納 New→音感知(悪魔の魔石):空間の神インベスタの加護を受けし希少品。生き物以外、ありとあらゆる物を大量に収納できる】


「おぉー、すごい」


 念のため取り外したり、付けたりを繰り返してみた。

 悪魔の魔石が出てきたり、消えたりして、見た目的にはちょっと目立つかもしれない。

 ――というところで、三人は気が付いた。

 目の前にエアーデがいることに。


「「「あっ」」」

「うふふ、何も見ていません。見ていませんよ~」


 信じられない程の強力スキルを目の前で解説されてしまったエアーデは、必死に守秘義務を守るために白目で心を殺していた。


「え、エアーデはん……受付嬢の鏡や……」

「ウフフ、オホホ、アハハ……はぁ~…………。これは私――エアーデの個人的な忠告ですが、あまり知られないようにすることをオススメします。もし、安易にそれで作った装備を売ったとしましょう。悪い人に見つかったら拉致されて一生飼い殺されてしまいますよ? それくらい価値があるスキルです」

「は、はい……以後、気を付けます……」

「大体、私が悪い人だったらどうするんですか? そりゃもう、ミース君は大変なことになりますよ」


 それに対してミースは間髪入れずに答えた。


「エアーデさん、とっても良い人だから大丈夫ですよ」

「うっ、そんな純粋な瞳で見つめられると……何も言えない……。とにかく、あまり迂闊すぎることはしないように! あと、冒険者ギルドは冒険者の味方なので、何かご相談があったらどんなことでも迷わず話してください」

「はい! ありがとうございます!」

「そうです、まだまだミース君は小さいんだから、大人にドーンと任せておけばいいんです」


 エアーデは胸を張って、フフンと自慢げな表情を見せている。

 どうやら包容力あるお姉さんのようだ。

 ミースはそれに甘えて、相談をしてみた。


「あの、エアーデさん。さっそく相談が……」

「はいはい、何でもパパッと答えてあげましょう」

「聖杯のダンジョンを攻略したいんですが……!」

「せ、聖杯のダンジョンんんんんんん!? むりむりむりむりむりですよ!? どんだけヤバいところか知っているんですか!?」

「いえ、名前と、何か聖騎士なら攻略できたというくらいしか……」

「これは無謀すぎる若者に現実を教える必要があるか……ちょっと待っててください」


 とエアーデは席を立ち、しばらくしたら古い紙束を持って戻ってきた。


「これがギルドにある聖杯のダンジョンの資料です」

「おぉ~! さすがエアーデさん!」

「前人たちが記した攻略情報もある程度は載っていますが、知ってもどうにもならないことがあります」


 エアーデは資料の一部をビシッと指差した。


「まずは前提として、敵の多くが聖属性以外はほぼ効かないということです。聖騎士のスキル【聖属性化】でもなければ、突破は厳しいでしょう」

「あ、聖属性の武器持っています」

「は?」


 エアーデは信じられないという顔をしていた。


「聖属性の武器って、聖剣や聖槍の類よ……? そんな貴重なもの、ダンジョンまで持ち出せるはずが……」


 ミースは、スッとひのきの棒を差し出す。

 エアーデはそれが何を意味するのか理解できない。

 眼をぱちくりさせていると、ミースが笑顔で言った。


「ひのきの棒に聖属性を宿らせました!」

「はぁ~~~~~!? ただのひのきの棒に!? 伝説級の装備にしかない聖属性を!? ……さ、さすがに冗談ですよね……? ねぇ、ゼニガー君?」


 ゼニガーはサッと目を逸らした。

 ここでそうだと言ってしまえば、またエアーデのメンタルが崩壊する可能性があるためだ。

 しかし――その横には何でも答えそうな自動人形が一人。


「れ、レドナさん? どうなんですか?」

「聖属性〝も〟付いているであります。それでいて何本でも作成可能」

「あばばばばばばば」


 機械的に答えてしまったレドナによって、エアーデは再び倒れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る