最強の石になる

(……あかんな。密かに練習していたダイヤモンドになれたんやけど、もうヒビが入ってきとる……)


 ゼニガーから後ろは見えないが、気配で恐ろしい数のモンスターが増え続けているのがわかる。

 それらはすし詰め状態で潰れたり、ドラゴンゾンビに踏まれたりしているらしい。

 阿鼻叫喚だ。

 ミースとレドナは無事なのだが、ゼニガーの身体には亀裂が走っていた。


(骨までいっとるな、こりゃ……。崩れ落ちてないのが奇跡みたいなもんや)


 身体がダイヤモンドになっていても、不思議と痛みを感じる。

 激痛と呼べるレベルなのだが、今際いまわきわなのか変に冷静だ。


(ああ、この町に来てから楽しかったなぁ……。ミースはんと冒険して、自動人形っぽくないレドナはんと喧嘩して……そりゃもう楽しかった)


 ピシピシと身体が砕けていく音が聞こえてきた。


(特に昨日、色々と話せたのが良かった。まぁ、最後の思い出の光景になってもうたのは、あのダンジョンの石の天井――……石?)


 ゼニガーは思い出していた。

 ダンジョンの不思議な石の事を。

 ダンジョンと魔力が通じているらしく、ほのかに明るかったりする不思議な石だ。

 そして、その最大の特徴も思い出した。


(試してみる価値は……あるな! どんなゴミスキルを引いたとしても、それをどう使うかはワイ――ゼニガー・エンマルク次第や!)




 ***




 その後、スタンピードとなったモンスターたちは第五階層から上へと移動していなくなっていた。

 残されたのはすし詰めで死んだモンスターの大量のドロップ品と、階段を破壊して押し広げようとしているドラゴンゾンビだ。

 麻痺状態が時間経過で解除されたミースは、ようやく声が出せるようになった。


「ゼニガー!! ゼニガー!!」


 命を張って、砕けかけの石像となって守ってくれた親友の名を叫ぶ。

 ダメージを負って動けなくなっていたレドナも、やっと声を絞り出す。


「マスターミース……。クルーゼニガーはあれだけの長時間、敵の攻撃にさらされていました……もう……」

「そんな! ゼニガー! 一緒に冒険するって約束したじゃないか!!」


 この絶望的な状況の中、レドナはかける言葉もない。

 ただ事実として、どうしようもないということだ。

 残った二人ではどうやっても状況を打開できない。

 しかし――


「おいおい、そないなシケた面すんなや……」

「ぜ、ゼニガー!?」

「クルーゼニガーの声が……」


 その瞬間、ゼニガーの身体は石から生身に戻っていた。

 血が勢いよく噴き出すくらいに重傷だが、たしかに生きていた。


「どうや、不死身のゼニガー様はピンピンしとるでぇ……!」

「よかった! ゼニガー、生きていたんだね!!」

「クルーゼニガー、生きているのが不思議なくらいの瀕死であります」


 倒れかかるようにして、ゼニガーは二人に抱えられた。

 青銅の兜+99はどこかに飛んでいってしまっていて、いつものオールバックはボサボサになっていた。


「しかし、クルーゼニガー。邪霊でないのなら、どうやって生き残ったのでありますか?」

「邪霊ちゃうわ! ええか、ワイはとっさの機転で最強の石になったんや」

「最強の石?」

「そう、どうやっても砕けん〝ダンジョンの石〟や! なんとこれになったら、ダンジョンと繋がってメチャクチャ硬くなったんや」

「なるほど……ダンジョンを構成している石なら、たしかにダンジョン自体を破壊するくらいのパワーがなければ破壊できませんね」


 レドナは頷きつつも、ゼニガーの傷口を指でつついてみた。


「あだぁっ!?」

「だったら、もっと早く思いついてください。傷だらけで結局戦えないじゃないですか。ボスはどうするんですか」

「おまっ!? レドナはん、ワイに厳しないかぁ!?」

「まぁ、命がけで守ってくれたんです。感謝だけは……してやるであります」


 そう言いながら、レドナはナイチンゲールのコアを取り出した。

 そして、それを腹の開閉部に入れてデータを使用する。


「れ、レドナはん!? それは使うと危な――」

「うるさいですね。今使わずに、いつ使うというんですか」


 ナイチンゲールのコアを使用すると、人格を乗っ取られてしまう危険性があるらしい。

 そんなことは気にせずレドナは数秒間、目を閉じて再起動をした。

 ミースとゼニガーはそれを見守る。


「レドナ……?」

「わはは、私はナイチンゲール。身体を乗っ取ったぞ」


 レドナはいつものように無表情で言ってから、二人が笑っていないのを見ると――


「失礼、よくある自動人形ジョークであります。システム正常作動中オールグリーン。当機は、これより習得した【ヒーリング】を実行するであります」


 レドナの手の平が星弓を撃つときのように展開して、そこから優しい光が溢れてくる。

 それをゆっくりとゼニガーの傷付いた身体に当てていく。


「おぉ、すごいでぇ……傷が塞がっていく……」

「傷は治りますが、疲れは残るであります。ご注意を」

「充分や! これでまた戦えるで!」


 ゼニガーとレドナは、ミースを見つめた。

 情熱と冷静さを感じる。

 イシを受け取ったミースはコクリと頷く。


「ここから逆転……いや、大逆転しよう!」


 聖杯のダンジョンボス――ドラゴンゾンビの討伐が開始された。

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