大逆転

 ゼニガーが石から生身に戻ってヘイトアップの効果を発揮したせいか、ドラゴンゾンビがこちらを振り返った。

 外へ出るよりも先に、邪魔な人間たちを排除しようとする意思が見られる。


「来るでぇ!」


 ドラゴンゾンビは巨体に似合わぬ俊敏さで突進をしてきた。

 それをゼニガーが苦悶の表情を見せながらも、ガッシリと盾で受け止めている。


「ゼニガー、注意して! 事前の情報より素早くなってる!」

「こりゃ、長くは持たんでぇ!! なんでこんな強くなってるんや!?」

「分析……状況から察するに、スタンピードによってボスが強化されたのかもしれません」


 スタンピードはダンジョン自体がおかしくなり、そのダンジョンが産み出すモンスターも影響を受ける。

 そうなれば、当然ダンジョンの主であるボスも変化があるということだ。


「そして、スタンピードはボスの討伐により収束すると言われているであります」

「ちゅーことは、この強化されたドラゴンゾンビをはよ倒さないと、町の被害も大きくなるってことか!?」

「そうだね。これ以上ゼニガーにも無理をさせられないし、急いで倒そう」


 ミースは素早く動き、地面に散乱しているドロップ品を避けながらドラゴンゾンビの側面へ向かった。

 ゼニガーに注意が向いている今がチャンスだ。


「我流――〝日ノ軌ひのき十連〟!」


 ミースはひのきの棒+99を凄まじい速度で叩き込んだ。

 事前情報の通りに聖属性が通り、ドラゴンゾンビの表面がさらに溶け出す。


「これならいける!」


 しかし――直後に予想外の出来事が起こった。

 溶け出すのを上回る速度で、ドラゴンゾンビが修復されていくのだ。


「そんな!? スタンピードはここまでボスを強化するのか!?」

「あかん! こっちも隙を見て青銅の槍+99で突いとるが同じように再生されてまう!」

「こちらの星弓もです。動きを止める程度にしか……」


 攻撃力が足りない。

 そもそも、ここまで強化されたドラゴンゾンビは始まりの町の範囲では倒せるように想定されていないのだろう。

 絶対に負けろという神の意思のようなものすら感じる。

 だが、ミースたち三人は諦めない。

 ここまで困難を乗り越え――大逆転してやると言ったのだから。


「ゼニガー、レドナ、試したいことがある」

「任せとき!」

「時間を稼ぐであります」


 ゼニガーが敵の注意を引きつけ、レドナが星弓で目や手足を攻撃して動きを鈍らせる。

 その間にミースは大収納から一つの装備を取り出した。

 それは――


【銀の剣+45 攻撃力20+45 炎属性(未達成) 闇の種族特攻(未達成) 攻撃スキルホーリークルス(未達成):銀で出来た剣。+99まで成長させることによってアンデッドや悪魔に効果的な武器となる】


 +45まで強化された銀の剣だった。

 ミースは持っていたひのきの棒を腰のベルトにぶら下げ、代わりに銀の剣+45を装備した。


「はぁッ!」


 ミースはドラゴンゾンビを斬りつけてみたが、明らかにひのきの棒+99よりダメージが入っていない。

 それを確認しつつ、地面に落ちているノーマルの銀の剣を左手で触れて、+45の方へと合成していく。

 近くにあった10本を走りながら合成――そして、そのままドラゴンゾンビを斬りつける。


「+55――やぁッ!!」


 多少は強くなった気もするが、まだまだ足りない。

 ミースはドロップしている銀の剣を合成で回収しつつ、隙を見つけてはドラゴンゾンビを攻撃して援護をする。


「+70――!」


 一見、ただ拾っていった方が効率がよさそうに見えるのだが、拾うコースにドラゴンゾンビが入るように計算しながら回収しているために無駄は少ない。

 斬りつけて相手を鈍らせなければ盾が持たないというのもある。


「+90――!!」


 そのスタミナで全速力の素早さを維持しつつけている姿は、さながら剣の舞のようだ。


「+98――くっ、足りない!」


 聖域の中にドロップしていた銀の剣をすべて回収したのだが、あと一本が足りなかった。

 これでは銀の剣のスキルが発動しない。

 ゼニガーも耐えきれず壁まで吹き飛ばされ、ターゲットがミースの方へと向いた。

 ドラゴンゾンビの鋭い爪が襲いかかろうとしている。


「マスターミース! これを!!」


 レドナが最後の一本を投げて渡した。

 どうやらそれはボス部屋への回廊に落ちていたものらしい。


「+99――うおおおぉぉッ!!!」


 即座に合成して、ついにミースは完成させた。


【銀の剣+99 攻撃力20+99 炎属性 闇の種族特攻 攻撃スキルホーリークルス:銀で出来た剣。+99まで成長させることによってアンデッドや悪魔に効果的な武器となる】


 与えられた力――攻撃スキルの使い方が手に取るようにわかった。

 渾身の力を込めて放つ。


「ホーリークルス!!」


 縦、横の超高速二連撃。

 それは聖なる輝きを放ちながら、迫り来るドラゴンゾンビの爪を消滅させた。

 信じられないことに、そのままドラゴンゾンビの胴体ごと十字に斬り割く。


「な、なんやそのチート武器は……」

「分析――元の高い攻撃力に、有効とされるスキルが三つ組み合わさって爆発的な効果を生み出したようであります」


 ドラゴンゾンビはズシンと巨体を横たえ、魔素となって消滅していく。

 だが、三人はまだ喜ばずに、ゴクリと息を呑んだ。

 このダンジョンの目標である聖杯は、ドロップ率が非常に低い。

 ドロップ率アップを使っても確実に入手できるかわからないからだ。


「も、もしかして、落ちないんか……!?」

「そんな……ひどいであります……」

「いや……」


 ミースは手をかざした。

 すると、その上に黄金の杯が出現していた。


【イプシロンの聖杯:始まりの二神によって世界は繁栄したが、やがて人間たちの中から邪悪な七人の王が現れる】


「聖杯のダンジョン、踏破だ!!」

「いやったでー!!」

「ハラハラしたであります!」


 苦労を分かち合った三人は抱き締め合って大喜びをした。

 ボスを倒して町へ通じる転移陣も出現していたため、三人はダンジョンから脱出したのであった。

 始まりの町の英雄の帰還だ。

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