青銅ゴーレムのダンジョン

 冒険者ギルドのあとにやってきたのは、青銅ゴーレムのダンジョンだ。

 二人はここで試したいことがあった。


「よし、ゼニガーの装備を作ろう!」

「おー! やったるでー!」


 なぜ、この青銅ゴーレムのダンジョンにやってきたか――それには理由があった。

 遡ること少し前。

 ひのきの棒の鑑定結果で装備スキルが付いていないと指摘されたことについてだ。

 二人はそれを疑問に思い、別の鑑定士にも見てもらった。

 やはり何も付いてないと言われたし、+99に関する表記や説明文も見えていないようだった。

 これに関しては全て見えるミースの鑑定スキルが特殊なのだろう。


 それと、ミースの鑑定でも別人所有となった状態では、SSRスキルが効果を発揮していないように見えた。

 なぜかミースかゼニガーが持つと装備スキルが三つ発揮される。

 これについて、一つの仮説を立てた。

 ――装備スキルは所有者によって引き出せる力が違うのでは? と。

 それを確かめるためにミースは材料だけは揃っていた布の装備シリーズを合成し、+99を作ってみた。


【布の服+99 防御力1+99 スタミナアップ極大 毒完全無効:布製の質素な服。本来は装備してなくても変わらないくらいの弱さだが、+99まで成長させたことによりスタミナが強化されて毒も防げるようになった】


 布の帽子、布の手袋、布のズボン、布の靴は同じような性能なので割愛する。

 さて、見ての通り付いたスキルは〝スタミナアップ極大〟と〝毒完全無効〟だ。

 ミースが装備すると全装備スキルが発揮されるのだが、ゼニガーが装備すると片方の〝スタミナアップ極大〟だけ発動する。

 こういう検証から、この青銅ゴーレムのダンジョンへ行こうとミースが提案したのだ。


「けど、ミースはん。なんで青銅ゴーレムのダンジョンなん? 前回の初心者ダンジョンから、一気に難易度が上がっとるでぇ?」

「んー、装備の系統はいくつかあって、布の装備シリーズは軽装だった。だから、逆に重装である青銅装備ならゼニガーにも完全な適性があるかなって」

「重装かぁ~……主に盾役が装備するやつやろ? ワイに勤まるんやろか……」

「もしかしたら、スキル〝石になる〟が大活躍するかもしれないよ!」

「大活躍するかっちゅうねん!」


 ゼニガーがツッコミを入れながら、二人は青銅ゴーレムのダンジョンを進んで行く。

 内部はだいぶ広く、壁は青銅でできている。

 ちなみにダンジョンの壁は特殊な魔力らしきものが流されていて、どんな攻撃でも崩れないらしい。

 理論的にはダンジョン全てを破壊するような威力の攻撃を放てば穴が空くらしいのだが、そのようなことをやったという情報は公式には流れてきていない。


「あ、おったで。青銅のゴーレム……って、デカい」

「うん、デカい……」


 二人は見上げる。

 三メートルはあるだろう、ずんぐりむっくりとした青銅のゴーレムを。

 横に肩幅が広く、胸の中央に宝石がハマっている。


「初心者ダンジョンの敵が小さかったから、ギャップがヤバいやつや……」

「い、一応、情報屋さんから聞いた話では打撃属性が有利で、胸にハマっている宝石を壊せば倒せるらしい……」


 一定距離に近付くと、ミースたちを視覚で捉えて戦闘態勢を取ってきた。


「くっ、やるしかないやん! 二人の連係攻撃や!」

「わかっ――……あたっ」


 ノリで連係攻撃をしかけようとしたところ、ミースとゼニガーは頭をぶつけてしまった。

 フラついているところを――


「ぐっほぁぁぁあ!?」


 ゼニガーがゴーレムのパンチを食らい、吹き飛んでいった。


「たしか、ダンジョンの中なら死んでも蘇生できる特殊結界が張ってあるって話だよね……。ゼニガーの犠牲は無駄にしない」


 ミースは冥界の神に祈りを捧げつつ、腕を振り切って隙の出来たゴーレムへと走る。

 動きの遅いゴーレムの懐に入り込み、胸の宝石をひのきの棒+99で強打。

 宝石ごと青銅のゴーレムは砕けた。


「よし、ドロップは――青銅の鎧が5個か。ドロップ量は装備によって違うのかな? さすがに重くて持ち運びが大変だから、+4までまとめてっと……よし。ゼニガーを蘇生してから次かな!」


 微かに後ろから『勝手に殺すんやないでぇ~……』と聞こえてきていた。




 それから青銅のゴーレムを倒し続けて、ついに青銅の鎧+99が完成した。


「やったね! ゼニガー!」

「……ワイが死ぬ前に完成して嬉しいでぇ」


 青銅のゴーレムと戦う度、なぜかボッコボコに攻撃を食らっていたゼニガーはハイライトの消えた眼をしていた。

 それでも耐え抜いたタフさは、盾役として素質があるのかもしれない。


「それじゃあ、装備してみて。鑑定するから」

「オッケー……。お、普通の鎧と違って、簡単に装備できるんやな」


 普通、鎧というのは着脱するだけでもかなりの手間がかかるものなのだ。

 そのため、鎧を着る機会が多い騎士などは従者に頼んでいたりする。

 一方、ダンジョン産の装備は人が作ったものではないので、簡単に装備できるし、着る物の性別やサイズなども関係ない。

 さすがにビキニアーマーを着ている男冒険者はいないが。


「どれどれ……」


 鑑定で装備を見てみる。

【青銅の鎧+99 防御力10+99 ヘイトアップ 防御力アップ極大:青銅で作られた鎧。本来は心もとない防御力だが、+99まで成長させたことによりパーティーを守る盾役の心強い装備となる】


「発動してる! 装備スキルが全部発動してるよ!」

「ほんまか!?」

「うん、ヘイトアップと防御力アップ極大!」

「ほぉぉおお? 重装適性すごいやん、ワイ! これでもう痛くない大丈夫――って、ちょい待ちぃや。ヘイトアップって、たしか敵の恨みを買って殴られやすくなるスキ――ウボァッ!?」


 突然、ゼニガーはタックルされて吹っ飛んだ。

 どうやら、興奮した二人の大声を聞きつけた青銅のゴーレムがやってきていたらしい。

 ゼニガーは壁とキスをしながら締めの一言を呟く。


「トホホ、盾役はもう懲り懲りや」

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