第一章(2) 失敗者は商人と共に町最強装備を調える

装備適性と新たなる目標

「さて、本格的にダンジョンに潜ったり、クエストをしたりするために――まずはここや! 毎度おなじみ冒険者ギルド!」


 二人は町の中心にある冒険者ギルドにやってきていた。

 石造りの頑強な砦のような建物だ。

 実際、有事の際には司令所となるために町の真ん中に建てられているという理由もある。


「毎度おなじみって……俺の村にはなかったからなぁ……」

「お、そうなんか。それじゃあ早速、冒険者カードを作るんや!」

「冒険者カード?」

「冒険者として登録するとくれるカードや。何か色々と便利な機能が備わっとる」


 この町は初心者からベテランまで多くの冒険者が滞在しているので、今日も冒険者ギルドは賑わっている。

 空いているカウンターに向かい、そこの黒髪ツインテールの受付嬢にゼニガーは話しかけた。

 大きな胸に視線が吸い寄せられているようだが、根性で引き剥がしているように見える。


「よっ、エアーデはん。儲かりまっか?」

「ゼニガー君、いつも思うんですが何です、その挨拶? 受付嬢はお給料制ですよ。冒険者さんたちを捌けど捌けど、貰えるお金は変わりませんよ……」

「なはは、今日はワイの親友を捌いてほしいんや」

「あ、冒険者登録ですか? ようこそ、初めまして。こちらの水晶に手を乗せてください」


 ミースは笑顔を向けられて、少し緊張してしまった。

 仕事の出来る大人のお姉さんという包容力で、村にはいないタイプだからだ。

 深呼吸をしてから、言われた通りに水晶に手を乗せた。


「はい、この状態でしばらくお待ちください。先にご説明をさせて頂きます」

「わかりました、お願いします」

「水晶の力により、冒険者登録と同時にカードが出来上がります。そこには個人情報が記入され、自動的に日々更新されていきます」

「すごいですね……そんなものが……」

「神のご加護の一つとされていますね。身分証としても使われます。そして、これが見本のカードです」


 受付嬢エアーデが見本の冒険者カードを見せてくれた。

 そこには名前、年齢、種族、性別、レベル、職業、スキル、所属パーティー名などが書かれていた。


「大体は自動で書き込まれます。御職業だけは任意のものをお書きください」

「はい、わかりました」

「あまり必要ないかと思いますが、レベルというのはこれまでの人生経験などを参照して、自動的に表記されます。過酷な経験を経ているほど高いと言われています」


 ゼニガーが割って入ってきて『ちなみにワイのレベルは13や!』と自慢してきていた。

 それがどれくらいのものかわからないのでリアクションのしようが無い。


「あ、冒険者カードが出来上がりましたね。拝見致しま――えっ」


 水晶の下に置かれていたカードを見て、受付嬢はギョッとした表情をしていた。

 数秒間固まっていたが、元の営業スマイルに戻る。


「どうかしたんですか?」

「え、ええと……説明し忘れていましたが、昨今は情報保護の観点から、念じながら指でなぞると特定部分を隠すことができます。ぜひ、ご利用ください」


 ミースはカードを受け取った。

 ゼニガーがそれを覗いてくる。


「たぶんワイよりレベルが少し低いくらいか? どれどれ……げっ……レベル56」

「56って高いのか?」

「メッチャ高い……スキルと一緒に隠しときぃ……」

「わ、わかった」


 もしかしたら、レベルとスキルを見て受付嬢のエアーデも驚いてしまったのだろうか。

 チラッと彼女の顔を見てみた。


「しょ、少々お待ち頂けますか? 今、ギルドマスターを呼んできますので……。も、もちろん守秘義務があるので他の方には――」

「あかん! 面倒なパターンや! エアーデはん、ワイへのデートの誘いならいつでもオッケーなんやけど、これから二人でダンジョンに潜る予定なんや! ほな、またー!」

「あっ、ちょっとぉ、ミース君、待ってー!」


 ゼニガーに手を引かれ、ミースはその場をあとにしたのであった。

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