馬鹿貴族たち、無謀にもダンジョンボスに挑んでしまう
青銅のダンジョンで勝手に締めに入ろうとしていたゼニガーだったが、まだまだスタミナが有り余っていたミースによって狩りは続行された。
ゼニガーも青銅の鎧の防御力が異常に高かったので、青銅のゴーレムに吹っ飛ばされたが傷一つない。
何だかんだ息の合ってきたコンビは次々と青銅のゴーレムを倒して行く。
そして、ドロップした他の青銅シリーズも+99にしていき、ゼニガーは全身が青銅装備+99になった。
【青銅の兜+99 防御力10+99 ヘイトアップ 防御力アップ極大 兜透明化:青銅で作られた兜。本来はダサいと評判の頭装備だが、+99まで成長させたことによって透明化を選択できる】
【青銅の籠手+99 防御力10+99 ヘイトアップ 防御力アップ極大:青銅で作られた籠手。本来は繊細な手を守るためだが、+99まで成長させたことによって敵を殴っても指が痛くない】
【青銅の足鎧+99 防御力10+99 ヘイトアップ 防御力アップ極大:青銅で作られた足鎧。本来は足を守るためだが、+99まで成長させたことによって蹴り技にも使える】
【青銅の盾+99 防御力10+99 魔耐性大 防御力アップ極大:青銅で作られた盾。本来は魔術に対して弱かったのだが、+99まで成長させたことにより魔術にも耐えられる】
【青銅の槍+99 攻撃力10+99 ドレイン:青銅で作られた槍。本来は心もとない攻撃力だが、+99まで成長させたことによりドレイン効果で継続的に攻撃が可能となった】
ミースとゼニガーはハイタッチをした。
「「イェーイ!」」
パシンと心地良い音が響く。
「フルーアーマーワイ、完成や! すっごい強くなった気がするでぇ!」
「防御方面に対してはすごい……はず! もうすぐ最下層のボス部屋だから、そこで試すのはどう?」
「お、賛成や! ガンガン攻撃を受け止めてやるさかい!」
機嫌の良いゼニガーは、わざと青銅装備をガチャリガチャリと鳴らしながら歩く。
まるで新しい靴を買ってもらった子どものような仕草だ。
「人を笑顔にできるスキル……なのかな」
「ん? 何か言うたか?」
「な、何でもない!」
こうしていると、誰かのためになるスキルというのは悪くない気がした。
ミースは照れ隠しで笑う。
「あ、ミースはんは青銅シリーズも適性があるん?」
「うん、スキルは全部使えた。けど、俺は動きやすさとスタミナ増える方が嬉しいから布装備シリーズのままでいいかな」
「ん~……なるほどなぁ。もしかして、ミースはんだけ全ての装備スキルを――」
ゼニガーが何かを言おうとしたその瞬間――
「ひぃぃぃぃいい!! 大青銅のゴーレムに殺されるうぅぅぅ!!」
ダンジョンの奥から悲鳴が聞こえてきた。
何やら緊急事態のようだ。
ミースとゼニガーは視線を交わしてから全力疾走する。
「先に行ってるよ」
「おう、ワイが到着するまで死ぬのは禁止や」
軽装で動きが速いミースが先行する。
一本道で迷うことはなく、その先は――ボス部屋だった。
『ギギ……ギギギギギ……』
金属が擦れる音が響き、身長6メートルほどもあるボスゴーレム――大青銅のゴーレムが巨大な拳を振り上げているところだった。
身体に小さな教会のような彫金が施されていて、大聖堂とかけているのかもしれない。
その真下にいたのは、ミースも見覚えがある者たちだ。
「ひぃ!? そ、そこの平民! 貴族であるボクたちのために命を投げ打ってぇ、アイツを足止めしろぉおおおお!!」
無茶な要求をしてきたのは、スキルガチャの神殿にいた貴族たちだった。
あのときはミースをバカにしていただけだったのだが、今は自分を助けろと要求してきている。
普通なら見捨ててしまうだろうが、ミースはそんなことは考えずに助けようとしたのだが――
「くっ、距離が!」
ミースの素早さを持ってしても瞬間移動のようなことはできない。
「つ、潰され――プギャッ」
貴族の男は拳の下敷きとなり潰された。
死体は光の粒子となって留まる。
ミースは初めてダンジョンの死というやつを見た。
「いやあああああああ! わたくしは死にたくないわあああああああ!!」
「お、お前の親はこっちより爵位低いだろう……だったら身代わりに死ねよぉ……!」
残っていた貴族の女二人が、何やら揉めているようだ。
叫んで混乱している一人を、後ろの一人が盾のようにしている。
まるで醜いゴブリンだ。
「あ、アハハハハ! 最高じゃない、肉盾! これで安し――ギョバッ」
大青銅のゴーレムは、肉盾ではなく、なぜか後ろにいた方の女を潰した。
もしかしたら、ヘイトの溜まり方というものがあったのかもしれない。
三度目だ、とばかりに巨大な拳を振り上げる。
狙いはもちろん、最後に残った貴族の少女だ。
「あ……」
迫ってくる巨大な拳を見て無様に失禁してしまった。
腰が抜けて、ベシャリと座り込んでしまう。
生き返れるとわかっていても、死への恐怖は抗えない。
頭上からの圧死なら、背骨が折れるのだろうか、内臓が破裂するのだろうか、頭蓋骨と一緒に脳が潰れるのだろうか。
絶望で目の輝きが消え、圧殺されようとした瞬間――
「死なせないッ!!」
巨大な拳を受け止めた。
その場に似つかわしくない布の服と、ひのきの棒のミースが――だ。
貴族の少女は呆然として、呟く。
「な、なんで助けてくれますの……」
「俺は誰かに悪意を向ける人間より、善意を向ける人間になりたい!!」
貴族の少女は、純粋すぎるミースの言葉に何も言えなかった。
口だけなら貴族たちでも似たようなことを言う輩は大勢いた。
しかし、ミースは何度も拳を打ち付けてくる大青銅のゴーレムから、その場を動かずにひたすら耐えて守ってくれているのだ。
「う、ぐぅっ!!」
杭打ち機と化した大青銅のゴーレム。
ミースは何度も何度も何度も――無情に拳を叩き付けられる。
それでも弱音を吐かず、バカにしてきたはずの貴族の少女を守っているのだ。
「わ、わたくし腰が抜けて動けないの!」
「大……丈夫!! 耐えてみせる!」
凄まじい攻撃の音が鼓膜を揺らし、線の細い少年が耐えられているのは気力のせいだと推測された。
貴族の少女は叫ばずにはいられない。
「どうして、どうして耐えられますの!? 待っていても二人とも死ぬだけ――」
「俺は! 友達を信じているから!」
今、友達に見捨てられたばかりの貴族の少女には、その言葉は信じられなかった。
だが――
「ミースはんのベストフレンド、ゼニガー・エンマルク! 遅れて参上やぁ!」
ミースの友達は本当にやってきた。
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