ボス、大青銅のゴーレムとの戦い

 ゼニガーがやってきたことにより、一気に流れが変わった。

 驚いたことに、大青銅のゴーレムが攻撃の矛先を一瞬にして移したのだ。


「うおお、いきなりワイが狙われてるんやけど!?」

「ナイス盾役! ゼニガー!」


 大青銅の苛烈な攻撃がゼニガーを襲う。

 しかし、ゼニガーはビクともしなかった。


「ん? なんやこれ、たしかに見た目は派手や。せやけどラクショーで耐えられるやん」

「え……ウソ、なんであの鎧の人、大丈夫なの……!?」

「ゼニガーはタフだからね! それじゃあ、キミはここで動かないで。俺は――大青銅のゴーレムを倒してくる!」


 ヘイトさえコントロールできれば、いくらでも戦い様ははある。

 自由になったミースはひのきの棒+99を二本握りしめて、攻撃重視のスタイルへ変化させた。


「攻撃は任せたでぇ、ミースはん!」

「任された! コイツ、大きさ以外は普通のゴーレムと変わらない!」


 耐えながらも敵を観察していたミースは、大青銅のゴーレムというボスを見抜いていた。

 百体以上倒してきたゴーレムと同じように、冷静に攻略できるかどうかが鍵なのだ。


「無茶よ! あんな大きいゴーレム相手に一人で攻撃するなんて! 普通なら、もう立ち上がる事さえも――」

「心配してくれてありがとう。でも、俺なら平気!」


 止めようとしてくれた貴族の少女に微笑み、ミースはボスへと向かって走り出す。

 ミースはできると感じていた。

 今までダンジョンに入って百体以上のゴーレムを倒し、ボス部屋まで全力疾走して、攻撃を受け続けたのに疲れていないのだ。

 普段からスタミナがあるのに加えて、装備でも強化されている。

 軽装ということもあって、いつものポテンシャルを、いつも通りに引き出せるという強力な持ち味がある。


「ゼニガーが強みを活かしてくれている! だったら、俺も!」


 ミースは身軽さで瞬時に動き、息一つ乱さないで6メートルのボスに向かって行く。

 しかし、巨大さのせいもあり、弱点である胸の宝石に攻撃が届かない。

 届いたとしても空中で的確に狙い、上手く力を伝えるのは難しいだろう。

 足場が必要だ――ならば――


「み、ミースはん!? せっかくワイがヘイトを取っているのに、こっちに来たら!?」

「大青銅のゴーレムの攻撃を利用させてもらう!」


 ゼニガーに向かって振り下ろされた拳、ミースはそれに飛び乗った。


「なんちゅう身軽さや!」

「うおおおおお!!」


 それを伝って走り、高い胸の位置にある弱点へと到達した。


「我流――〝日ノ軌ひのき二刀〟!」


 防御を捨てた二刀流――打撃が交差されて何倍もの衝撃を与える。

 弱点である宝石が砕け、大青銅のゴーレムは天を仰ぐような形になる。

 しばらくしたあと、その巨体はボロボロと崩れ去った。


「やった!」

「ワイとミースはんのコンビネーションの勝利やな!」


 ハイタッチをキメるミースとゼニガー。

 それを見て、貴族の少女は唖然としていた。


「すごい……わたくしたちと同じ歳で……しかもハズレスキルの平民が……」


 ドロップしたのは一つだけで、首に付けるアクセサリー――黒いチョーカーだった。


「なーんだ、これだけか……」


 複数個ドロップするのに慣れていたミースは、たった一つだけの黒いチョーカーを見て落胆してしまう。

 だが、逆に貴族の少女は大声をあげた。


「それ、ドロップ率0.000048%と言われている大収納のチョーカーじゃない!? し、信じられないですわ……本当に実在していたなんて……」


 鑑定してみると――


【大収納のチョーカー 全ステータスアップ 大収納:空間の神インベスタの加護を受けし希少品。生き物以外、ありとあらゆる物を大量に収納できる】


 どうやら本当に貴重な物のようだ。

 ミースは、もしやと思った。

 ドロップ率アップは個数が増えるだけでなく、レアドロップ自体も落ちやすくしてくれるのではないかと。

 ゼニガーも気付いたらしく、ミースの顔を見てニマニマしている。

 売る気はないよ、という意味も込めてジト眼で返す。

 ゼニガーは口笛を吹きながら目を逸らした。




 こうして青銅のダンジョンの攻略は終わった。

 死んだ貴族二人を生き返らせ、ミースとゼニガー――それと生き残った貴族の少女一人が外に出て、背伸びをしながら空気を吸った。


「なんや、どうして付いてきてるん?」

「そ、それは、その……」


 貴族の少女はミースをチラチラと見ている。

 ミース本人はチョーカーを指でいじっていて視線に気が付いていない。


「平民のハズレスキル相手とはいえ、お礼を言わなければと思いまして……! ミースとやら、そ……それなりに感謝していますわ!」

「あ、うん。気にしないで」

「ちょちょちょい、ワイは!? ワイもごっつゴーレムの攻撃を耐えてたで!?」

「そうでしたっけ……そんな気も……」


 貴族の少女はゼニガーに対して上の空だ。

 ゼニガーはポカンとした表情で一つの仮説を考える。

 そして、貴族の少女の次の発言で確信に至ろうとしていた。


「み、ミースとやら! そういえば、スキルガチャの場でプラムミント・アインツェルネ様を気にしていらしたわね……もしかして、ファンか何かかしら……? す、好きだとか……」

「あはは、プラムとは一度会ったことがあるだけだよ。きっと、もう向こうは路傍の石とすら思っていないはず……」

「そ、そうなんですの……! よかっ、じゃなくて、まぁ高嶺の華すぎますわね! もっと身近なところで良い相手を探すといいのですわ!」

「相手? 何の話?」

「な、何でもないですわ!」


 ゼニガーだけは察した。

 この貴族の少女はミースにだと。

 なぜミースだけがモテるのか――そこに納得できず、ミースにチョップをする。


「いたっ!? ゼニガーまで変な行動を!?」

「主人公補正税や!」

「なにそれ!?」


 そんなやりとりをしていたら、そういえば――と貴族の少女が思い出したかのように話し始めた。


「プラムミント様の御父上である、領主のデァルゴ・アインツェルネ様が何か失態をやらかして、近々お家が取り潰しになるかもしれないと噂を聞きましたわ……」

「えっ?」

「だから、手短なわたくしと……って、あれ? ミース、聞いてますの? もしもーし」


 ミースはプラムの窮地に酷く動揺をして、何も耳に入っていなかった。

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