使ってみて初めて気付くこと
「アハハ……俺のこれまでの人生は何だったのだろうか……」
親ガチャに失敗してろくでもない時間を十歳まで過ごして、そこから変わる事のできるチャンスを掴めたと思った。
チケットをくれた恩人――プラム。
しかし、チケットでも低いランクのスキルを引いてしまい、プラムからも見放されたのだ。
辛かったり頑張った年月が多ければ多いほど、ましてやそれが濃ければ――今のミースのように深く絶望してしまうだろう。
フラフラと足は酒場へと向かう。
「お酒……初めて飲んでみようかな……」
父親を見て酒は大嫌いだった。
多すぎる酒は人をおかしくする。
しかし、酒でおかしくならなければ、本当に耐えられないときというものもあるのだ。
「俺は自分を軽蔑する……いいさ……もうそれでも……」
酒場に入り、空いていたカウンター席に座った。
慣れない仕草で酒を頼もうとしたのだが――
「ちょい待ちぃや。ワイらはまだ15歳やで? 酒なんか止めとくんや」
「ゼニガー……?」
いつの間にか居たゼニガーが止めに入ってきた。
「それに酔い潰れたらワイの愚痴を聞いてもらわれへん! 今日の所はちょっとだけ良い料理を頼んで、愚痴でも言い合おうや!」
「……うん、そうだね」
疲れた顔で溜め息を吐くゼニガーを見て、ミースは何か安堵してしまった。
自分以外にも悩みを抱えている人間がいるのだと。
そこでホッとしてしまうことに少しだけ『ダメだな……』と感じつつも、今だけは流れに身を任せることにした。
「それじゃあ、ワイのオススメを頼んだるでぇ」
横に座ったゼニガーが頼んだのは、氷魔術が入った果実水、ブルホーンチーズの盛り合わせ、マンドラゴラのシーザーサラダ、魔物肉のパリパリソーセージだ。
作り置きがあったのかすぐに料理を出された。
それらを食べながら会話が進む。
「ミースはん、その様子だとハズレスキルを引いたんやろ?」
「うん……」
「ワイもなぁ……同じなんや……」
魔物肉のパリパリソーセージを一口。
その名の通りパリッと小気味良い音を響かせながら口の中で弾け、濃厚な肉汁がとんでもなく溢れだしてくる。
村では食べた事の無い美味しさだ。
ちなみにメニューには『日替わりで肉の種類は変わります』と書いてあったので、何の魔物肉かは深く考えないようにした。
「ワイのスキルはなぁ……〝石になる〟や」
「石になる?」
ミースとゼニガーは同じタイミングでブルホーンチーズの盛り合わせに手を付ける。
ダンジョンに多く生息するブルホーンという牛モンスター。それがドロップする乳を使ったチーズで、ダンジョンがある地域では比較的安価に手に入る。
味は普通のチーズと比べて少しさっぱりしている感じだろうか、いくらでも口に入る。
「石になるは、石になるや……。使うと短時間石になるんやけどな……ふっつーに石の強度で動けなくなるだけでなぁ……」
「あ~……」
「そこらの冒険者に頼んで効果中に伸びてた爪を切ってもらったら、それはもうポロリと爪が剥がれて痛いのなんのって……指ごといってたらシャレにならんかったでぇ……」
果実水で口の中を爽やかにしてから、定番のマンドラゴラのシーザーサラダをモシャモシャと食べる。
何か不思議と健康になった気分だ。
「はぁ~……商売に役立つSSRスキル〝ドロップ率アップ〟でも手に入れて、大商人になる夢が……。アレさえあればウハウハやったのに……、まぁ数千人に一人らしいけど」
「それはきついね……」
「ところで、ミースはんはどんなハズレスキルを引いたん?」
「すごい低いランクの〝装備成長〟ってスキルで――」
「ほー、聞いたことあらへんな。どんな効果のスキルなんや?」
そこでミースは気が付いた。
まだ実際に〝装備成長〟の効果を知らなかったのだ。
「っと、ちょっとお花摘みに行ってくるわ」
「お花摘み?」
「おしっこの上品な言い方や、ミースはんはデリカシーがないんやなぁ! もう!」
ゼニガーは冗談を言いつつ席を立った。
それを待つ間、ミースの思考は〝装備成長〟の効果へと引っ張られていく。
頭の中で知りたいと念じる――すると強制的に焼き付けられたであろう
【装備成長(レア度Fスキル):ダンジョンドロップ品を同種合成させて強化する】
「うーん、ダンジョンドロップ品というのは、文字通りダンジョンで手に入る品物か。それを同種――つまり同じ物同士を組み合わせる? ……どんな感じなんだ、これ……」
何となく文章としてはわかるのだが、実際にイメージ通りのことが起きるのかというのが怪しい。
何かで試せれば――と考えていたところ、丁度タイミングよく別テーブルの会話が聞こえてきた。
「まーたダンジョンでひのきの棒を手に入れちまったぜ」
「オレもだ。武器としては攻撃力1で薪くらいにしかならないから、すっげぇ邪魔なんだよなぁ……」
「俺は攻撃力20もある町最強の銀の剣を手に入れたし――ひのきの棒なんて捨てちまうか、ポイッと」
「それを捨てるなんてとんでもない、けど、お~れも、っと!」
酔っ払った冒険者たちが、二本のひのきの棒を捨てていた。
普段なら褒められたことではないが、ミースにとっては渡りに船だ。
丁度、ダンジョンでドロップしたひのきの棒が二本ということは、スキルを試すことができる。
こっそりとひのきの棒を拾ってから、カウンター席に戻って〝装備成長〟を使ってみる。
「
ミースは何故か同情してしまう。
スキルの使い方は勝手に覚えているようで、左右の手に一本ずつ持って近づけるだけだ。
二本のひのきの棒が、一本へと合成される。
「おぉ……」
物理法則を超えた現象を目にして少し感動してしまう。
しかし、見た目的にはただのひのきの棒だ。
ミースは落胆――しかけていたのだが、目をこらすと不思議な文字が浮かび上がっていた。
【ひのきの棒+1 攻撃力1+1 聖属性(未達成) 成長率アップ(未達成) ドロップ率アップ(未達成):ただの木の棒。+99まで強化すればオリハルコンのように硬くなり、武器スキルが解放される】
「えっ?」
ミースは目を疑った。
自分が失意からの幻覚でも見ているのでなければ、このゴミのような扱いをされたひのきの棒にSSRスキルと言われていた〝ドロップ率アップ〟が付くのだ。
他のスキルはわからないが、今はまだそれだけで頭がいっぱいになる。
「これって……もしかして凄いスキルなのか……?」
ミースは震えが止まらなかった。
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