コミカライズ開始記念幕間

「エアーデはん、急に呼び出してきてどないしたん?」

「ようこそ、冒険者ギルドへ」


 ミース、ゼニガー、プラムの三人を迎えてくれたのは、いつものカウンターで笑顔を見せている受付嬢エアーデだった。

 三人は始まりの町での騒動が終わって、少し落ち着いたところで冒険者ギルドに呼び出されたのだ。


 建物の中に入るとちょっとした有名人となっていて、他の冒険者たちが寄ってきたのだが、エアーデさんが『どこかへ行ってください』というジェスチャーで睨みを利かせると蜘蛛の子を散らすようになって普段の冒険者ギルドへと戻った。


「本日お越し頂いたのは、少し確認してほしいことがあってですね……」

「確認ですか?」


 ミースが首を傾げていると、エアーデは数十枚ほどの紙束をカウンターに載せた。


「今回の件の報告書をギルドマスターに提出するのですが、念のためにミースくんたちにチェックしてもらおうと思って……」

「わっ、このイラスト上手い! エアーデさんが描いたんですか?」


 プラムが文章が書かれた紙束をめくってみると、その横には繊細なタッチで描かれたミースたちが描かれていた。


「はい、そうですよ。依頼の説明で簡易的な図が必要になる場合があって、受付嬢は大体が絵も描けるんです。自慢じゃありませんが、その中でも私は上手い方だと思いますよ」


 たしかに依頼書などに対象モンスターの図が描いてあったりするが、あれらが受付嬢たちによって即興で描かれてものだとは知らなかった。

 よく見ると掲示板の絵のタッチに差があったりと、なかなかに味がある。

 その中でもエアーデの絵は繊細だが外連味があり、どこか可愛らしい感じもする。

 流通している本の表紙でも使えそうなレベルだ。


 ――しかし、エアーデの報告書イラストの中に見慣れない者がいた。


「あの……この女の子は誰ですか?」


 黒髪に白メッシュ、布の服にひのきの棒と銀の剣。

 どこかで見たことのある感じなのだが、胸の膨らみがある。


「ミース君ですが?」

「……ん?」


 その答えにミースは逡巡した。

 一瞬で色々なことが頭の中に巡りすぎたのだ。

 もしかしたら自分の見間違いで、胸の膨らみは服のシワか何か……いやかなり膨らんでいる。

 しかもよく見たらズボンではなくスカートになっている。

 髪もどことなく長い。

 まつげも本人よりバシッと決まっている。

 長らく会っていない自分の妹が成長したら、こんな感じなのかもしれないと思うくらいだ。


 思考が宙を舞うように漂っていたが、そこで一つの可能性を思いついた。


「ああ! 俺の知らないミースという同姓同名の女の子がいるんですね!」

「目の前のミース君を描きましたが」

「……」


 ミースは最後の結論を出した。

 きっと自分がおかしくなってしまって、実は元から女だったのでは? と。

 あの聡明なお姉さんのエアーデさんが、こんな変なことをするはずがないのだから。

 自分の胸に手を当てて考え――いや、やっぱり真っ平らで胸はない。

 男だ。


「ミースが女の子として描かれているわね……」

「超絶美少女やな……今すぐお付き合いしたいくらいや……」


 二人もこう言っているので、ミースの頭がおかしくなったのではない。


「あ、すみません。ミース君が可愛すぎるのでつい女の子に描いてしまいました」

「エアーデさんがおかしくなった!?」

「というのは冗談で、今回の事件は色々と表に出せない点もあるので、少し内容をぼかしているんですよ」

「な、なんだ。そういうことだったんですか」


 ミースはホッとしたが、それならここまで気合いを入れた女体化にしなくても、もっと楽なぼかし方があったのでは? と思ったが怖いので口に出さないでおいた。


「ほなら、槍のワイが剣をメインで使ってたり、重装鎧が腰蓑こしみのだけの原始人っぽくなってたりするのもそのためやな! ワイをマスコミから守るため、エアーデさんの愛ってことや!」

「あ、それは普段のゼニガー君にあまり興味がなかったのでテキトーに……」

「なんでや!? ワイにもっと興味をもってーや!!」


 滝のように涙を流すゼニガーは、他のイラストを指差していく。


「ワイと比べてプラムはんは素のままやないか!?」

「プラムミント様は神殺しの団に直接関わっていなかったので、ぼかす必要がありませんので」

「じゃ、じゃあこのハインリヒはんはなんや!? めっちゃアゴの細いイケメンになっていて、しかも背景に花が咲き誇っとるでぇ!?」

「それは……昔からの憧れの人なので……ぽっ」

「ぽっ、てなんや!? ワイの脳が破壊されてまうわ!! 最後にエアーデさん自身のイラストも……えーっと……」


 そこでゼニガーのツッコミが止まってしまった。

 イラストを覗き込んでみると、明らかに十代前半の女の子が描かれていた。

 豊満なオトナの女性のエアーデとは違い、全体的に細身で背が小さく、どことなくプラム寄りだろうか。


「こ、これは……その……私……小さい方が可愛いかなって……」

「あかん! あかんで!! エアーデさんは今のままの大きな方がステキやで!!」

「ゼニガー君……たまには女性を勇気づける良いことを言いますね……」

「今の大きい方が絶対にええでぇ! そう、大きい方が絶対にみんな好きや!!」


 ゼニガーの視線がエアーデの大きな胸にいっていることに気が付いて、プラムは察した。

 そしてゼニガーを黙らせるために鳩尾に拳を叩き込んだ。


「ぐほぁっ!?」


 息ができなくて、口をパクパクさせながら地面に沈んでいった。

 ミースは特に理由も察せず、エアーデに向かって無邪気に話しかける。


「そうですね、今の自分と違った理想の姿というのもありますからね。俺も、もっと身長が伸びて、ムキムキの筋肉を付けて強くなりたいですから」

「いえ、ミース君は一生そのままでいてください」

「えぇ……」


 何か釈然としないものを感じながら、ミースたちは報告書の確認作業をするのだった。



――――――


あとがき

というわけで『dブック』様にてコミカライズが先行配信開始されています!

結城さんの絵はとても綺麗で見入ってしまいますね!


詳細はわからないですが、現時点で一話目は無料なのでそこだけでも是非!

もちろん、ミースが女の子になっていたりはしないのでご安心ください!

オリジナル展開でなってほしい読者さんは、コミカライズ側に要望を送ろう!(おい)


なろうの規約によって直リンができないので、「dブック」「親ガチャ失敗したけど」などで検索して飛んでいただけると助かります。

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