第二章(1) 始まりの英雄は神殺しの団に入る
プロローグ 悪魔公爵、始まりの英雄に興味を持つ
「不味い、この肉は不味すぎるな……」
魔界の大国レートリヒカイトにある屋敷の食卓――向こう側が見えないくらい長いテーブルに座る男は不機嫌そうだ。
ペッ、とマナーも気にせず何か白い球体を吐き出した。
床に転がったそれは、爬虫類独特の縦長瞳孔の眼球だった。
「お気に召しませんでしたか、リュザック様」
ああ、と男――リュザック・
一見、ダークブルーの短く刈り込んだ髪と瞳を持つ青年に見えるのだが、彼には黄金と宝石で飾り付けられた角と羽が生えていた。
人間のようにシャンと貴族服を着こなしているが間違いなく悪魔である。
それもDDという魔界の栄誉賞号を持つということは悪魔公爵の地位にあるということだ。
「強いと評判のハイ・リザードマンの長と決闘してみれば、奴はこちらの姿もマトモに捉えられずに死んで噴飯ものだったわ。余興でハイ・リザードマンの伝承にある『強きモノを身体に取り込む』というのも試してみたが、食えたものではない」
リュザックは大声で笑ったあと――スッと無言になって執事を見つめた。
執事は普段からの彼を知っているために震えている。
「おい、噴飯ものというのと、本当に不味くて吐き出してしまったというのがかかっているのだぞ? なぜ笑わぬ?」
「は、はは! 大変高度なジョーク、お見それ致しました!」
「ふはは、そうかそうか。下賤な者たちにはすぐにはわからぬか。
リュザックは、しばらく前にとあるスジから入ってきた情報を思い出して、上品かつゲスな笑みを浮かべていた。
それは普段から目の敵にしていた毒のゼンメルヴァイツが、人界の新人冒険者風情に片腕を細切れにされたというのだ。
あのポッと出で七大悪魔王の一つを奪っていったすまし顔のゼンメルヴァイツが、余裕も無く逃げ帰ってきた。
最高に胸のすく話ではないか。
「我は人界の彼の者――始まりの英雄とやらに興味を持った」
「ま、まさかリュザック様……人界へ!?」
「七大悪魔王が一人、水のレートリヒカイト――つまり我が父上が宝物庫にしまっていた魔槍ブレンドゥングも、もっと試してみたいしな」
「い、いけません! ただでさえ見つかれば問題になる魔槍ブレンドゥングを人界にまで無許可で持ち出すなどと!?」
リュザックは魔槍を出現させ、執事の鼻先へと突き出した。
ヒッ、と執事が声を漏らす。
「なに、毒のゼンメルヴァイツに手傷を負わせた者を軽く穿ち殺してきたともなれば、この我が水のレートリヒカイトとなるのも時間の問題だ。それとも、我が人間の新人冒険者如きに負けるとでも?」
「い、いえ、滅相もございません……七大悪魔王を除けば、リュザック様の実力は――」
「七大悪魔王を除けば? アレはただの名誉称号よ。実際は我が魔界で一番強い」
リュザックはニヤリと笑うと、執事に向かって魔槍を勢いよく突き出した。
魔槍は執事の身体を貫通して、執事は白目を剥いてしまったが――その魔槍は霧で出来たフェイクだった。
「ふはは! 我は楽しいことが大好きなのでな! しばらくは人界側のワールドクエストとやらで遊ばせてもらおうか!」
いつの間にかリュザックの姿も食卓から消えていたのであった。
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