トップギア

「レドナ、今って何時?」

「ピッ、ピッ、ピッ、ポーン。当機が10時11分をお知らせするであります! ……まだお昼ご飯はお預けの時間……ションボリ……」

「ありがとう。それじゃあ、昼飯前までに第三階層をクリアしようか」

「お昼ご飯前までに!?」


 いつものツッコミ役のゼニガーは『おいおい、それは無茶やで』と言おうとしたのだが、今の超火力重視のトップギアが入った三人なら行けると思ってしまった。

 そして、その通りで――


「おわっ!? 道中にもリビングデッドナイトが混じったPTが出るようになっとる!?」

「落ち着いて! 大丈夫! 我流――〝日ノ軌ひのき八連〟!」

「星弓!」

「二人がすごい勢いで仕留めていっとる!? くっ、ワイも何か技が欲しい!」


 第二階層の中ボスを倒したやり方で、楽々と道中を攻略していく。

 もはや戦いの疲れよりも、ダンジョンの移動の方が大変だと感じるほどだ。

 ほぼ一時間半、走りっぱなしで中ボスまで到着してしまった。


「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」

「ゼニガー、水飲む?」

「のっ、飲むぅ……おおきにぅぃぃぃ……」


 ケロッと平気な顔をしているミースとレドナに対して、重装のゼニガーは相変わらずスタミナが足りなかった。

 中ボスPTから感知されない距離でへたり込んで、水筒の水をゴクゴクと飲む。


「第一階層と違って、敵PTだと遠くからわかりやすくなりよるから……ダッシュでの移動が可能で……ワイだけまたメッチャ疲れとるやないか……ふへぇ~」

「あはは、青銅ゴーレムのダンジョンを思い出すね」

「む、当機の知らない思い出話。あとで聞かせるであります」


 そうして小休憩して息を整えた後、中ボスPTに少しずつ近付いてモンスターの種類を確認する。


「お馴染みのナイチンゲールとリビングデッドナイト……あとは初遭遇となるオークとワームゾンビだね」


 オークは緑色の肌をした巨体を持つ豚頭である。

 比較的メジャーなモンスターだ。

 フィールドにいるオークは知性を持つものもいるのだが、ダンジョンのモンスターたちは魔素で作られた特殊なものだ。

 対話は不可能だと思われる。


「オークの特徴としては、かなり腕力が強いらしいかな。ゼニガーは注意して」

「おう!」

「それとワームゾンビは――」


 ワームゾンビとは、巨大ミミズのような種族であるワーム――それがアンデッド化したものである。

 ウネウネと地面から生えているのだが、どうやってダンジョンの床を透過しているのかは諸説あって研究中らしい。

 ちなみに実際に穴を開けているわけではないので、いきなり下の階層へショートカットはできない。


「うーん……ワームゾンビは長い身体で纏わり付いて動きを封じ込めるのが得意と書いてあったかな。伸縮性ある身体で、打撃属性のひのきの棒+99は効きにくいかも。レドナに任せていいかな?」

「任されました。お昼ご飯はワームの串焼きであります」

「あ、ちなみにドロップアイテムは釣り餌となる小っちゃいワームらしいよ」

「……小さいのは、ちょっと食欲が湧かないであります」


 レドナはドロップアイテムは不味いと刷り込まれたのか、珍しく嫌そうな顔を晒していた。


「それじゃあ、戦闘開始で!」

「了解――星弓!」


 レドナはワームゾンビに向かって矢を放つ。

 見事に命中したが、さすがに一撃では倒すことができない。

 反応したリビングデッドナイト、オーク、ナイチンゲールが一直線で向かってくる。

 それと同時にワームの姿が消えていた。

 即座に気が付いたミースが耳を澄ませる。


「震動……レドナ、狙われてる! 足元から来る!」

「っ!? 回避!」


 ミースに指摘され、間一髪でレドナはバックジャンプをして大きく飛ぶ。

 直後、大口を開けたワームゾンビがダンジョンの床から出現していた。

 ミースが気付かなければ、今頃レドナの下半身はワームゾンビに飲み込まれて、地面に引きずり込まれていただろう。


「星弓!!」


 まだバックジャンプで空中にいたレドナは、華麗に矢を複数放つ。

 距離が近いだけに急所らしき頭部に全命中。

 ワームゾンビの身体から邪霊が浮き上がり、それをミースが狙ってトドメを刺す。

 魔素として拡散、残ったドロップ品は釣り餌ワームだ。


「ピンチかと思いきや、うまくワームゾンビだけ先に倒せたであります」

「うん、これで一体減らせたから有利になるね。次は防御の柔らかいオークを狙う! レドナは援護と、後方のナイチンゲールへのけん制を頼む!」

「了解!」


 ミースは後衛の位置から、前衛のゼニガーの位置へ走った。

 そちらもゼニガーが上手く盾として抑えてくれていたようだ。


「お待たせ、ゼニガー」

「うふ~ん、今来たところや、ダーリン~」

「……そ、そうなんだ」

「突っ込めや!?」


 そんなくだらないやり取りをしつつも、ゼニガーは的確に敵を抑えている。

 盾捌きはもちろん、槍での攻撃も織り交ぜて。もう慣れたものだ。


「我流――〝日ノ軌ひのき十連〟!」

「ミースはん!? ついに二桁にいきおったか!?」


 風切り音から音速に達したと思われるひのきの棒+99の切っ先は、凄まじい衝撃をオークに――いや、同時にリビングデッドナイトまで攻撃して瞬殺だった。

 もはや人間離れしている。


「星弓」


 忘れずに後方で何も出来ずにいたナイチンゲールを矢で倒せば、第三階層の中ボスPTも撃破完了だ。


「あ、オークからはこれが落ちた」


 それは加工済みの木材だった。

 なぜオークからこれが落ちるのだろうと、関連性を考えるミースだったが――


「ほぉ、これはオーク材やな。オークだけに! オークだけに!!」

「「……」」


 ドロップ品を回収してから、ミースとレドナは無言で第四階層への階段を下りていった。

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