予兆

「今回は余裕があるから、昼飯に一手間かけようか」

「お、賛成やー。余裕がある内に昼飯をガッツリと食うておきたいからなぁ」

「お昼ご飯♪ お昼ご飯であります♪」


 三人は第四階層入り口の聖域までやってきていた。

 今日は残りの午後の時間で第四階層をクリアすればペース的には平気なので、ここで少しだけ時間を贅沢に使っても平気という判断だ。

 実際、冒険者はメンタルも大事なので、こうやって自分たちでケアをしてあげるのも重要なのである。


「さて、取り出しましたるは~……」


 ミースは芝居がかった言い方で注目を集める。

 レドナは子どものように興味津々だ。


「この見慣れた硬い黒パンと、しょっぱい塩漬け肉!」

「当機、ちょっとそれ食べ飽きたであります~」

「なんと、これも一工夫すれば立派なお料理に!」

「えぇ~!? ほんとでありますか~!?」

「……意外とノリがええな、二人とも」


 ゼニガーに突っ込まれつつも、ミースは準備をし始めた。

 まずは大収納からお馴染みの焚き火セットで火を確保する。

 パンの表面をサッと炙って、いつもの黒パンをトースト。

 銀の剣で黒パンに切れ目を入れて、そこに熱して溶かしたレッドスライムグミを塗っていく。


「これ不味いやつでありますよ!?」

「火を通すと即席の油になるんだ」


 パンにバターを塗るような感覚だ。

 それと同時にフライパンで半熟目玉焼きを作っておいたので、魔王城ゼクスェス産の混合スパイスをかけてから、塩漬け肉と一緒にパンに挟む。

 最後に溶かしたチーズで上からフタをすれば完成だ。


「先生直伝、大体の人が美味しいと思ってくれるサンドイッチだ!」

「くっ、確かにこれは美味そうや。……カリカリのパン、半熟プルプルの目玉焼き、とろけるチーズ、味付けは刺激的なスパイスと濃い塩漬け肉……! 食べる前から味がわかってまう!」

「うまそ~~~」


 なぜか解説役のような口調のゼニガーと、語彙がチーズのように溶けているレドナ。


「それじゃあ、お昼にしようか」


 カップにお茶を入れてから、みんなで出来たてサンドイッチを食べることにした。

 まだちょっと熱いかな? と警戒しつつ、ミースは豪快にかぶりつく。

 最初は口の中をヤケドしそうだと思ったが、意外と程よく暖かかった。

 パンの表面はカリッとして、チーズのまろやかさと、スパイスと塩漬け肉の味が絶品である。

 手前の方に入っていた半熟の黄身が垂れそうになるのを、急いで口の中に入れる。

 これも濃厚で美味しい。


「おいし~~~」

「これはいけるでぇ! 商品にもなりそうや。あとで商人メモに書いとこ……」


 どうやら二人も満足だったらしい。

 少しだけ豪華なダンジョンの昼食に舌鼓を打ちながら、PTは英気を養った。





「それじゃあ、第四階層を攻略していこうか」


 第四階層は一気に難易度が高くなると情報にあった。

 下手をすると第五階層のボスよりも苦労するのだとか。

 今まで出てきたモンスターがすべているらしく、聖杯のダンジョンの総決算だ。

 英気を養った分、きちんと気合いを入れてから聖域の外へと進む。


「……は?」


 第四階層の光景を見た瞬間、ミースは目を丸くした。

 後ろから付いてきたゼニガーとレドナも、同じようなリアクションをする。


「霧が晴れているであります」

「いや、ちょい待てや……それだけやない。モンスターもおかしいでぇ……」


 PTを組んだモンスターたちがいるのだが、なぜか棒立ちになっているのだ。

 その場から動かない――ではなく、呼吸すらしていない棒立ち。


「何かの罠……?」

「っちゅうても、真ん中を塞がれてたら倒して行くしかなぁ……」

「では、いつものように――星弓!」


 レドナが開幕、矢で〝釣り〟をした。

 棒立ちしていたリビングデッドの足に命中。

 すぐに戦闘が始まるかと思ったのだが――


「……反応しないであります」

「なんやこれ……ありえへんやろ……?」

「わからないけど、とりあえず警戒しながら倒して行くしかない」

「そうやな。このままスルーしても背後が怖いわけやし」


 ゼニガーが盾を前にしながらゆっくりと近づき、青銅の槍でちょこんと突いてから、ミースたちが攻撃を開始した。

 結果的に棒立ちしている敵PTを呆気なく倒すことに成功した。




 そして、異常は続き――第四階層の中ボスを含めて、すべて棒立ちだった。

 警戒をしながらもすべて倒して行く。

 ミースたちは不気味さを感じつつも、第五階層に到達した。

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