ひのきの棒+99を試す
二人は一本ずつひのきの棒+99を持って、初心者用のダンジョンへとやってきていた。
なぜ二本になっているかというと、材料が余ったので追加で作ってみたのだ。
「よーし、ミースはん。本当にこれで〝ドロップ率アップ〟が付いとるんやな?」
「うん、〝聖属性〟と〝成長率アップ〟も見えるかな」
「どれもSSR級のスキルやな……さすがにミースはんのことは信じていても、半信半疑になってしまうでぇ……」
「自分自身でもちょっと疑わしい」
二人は顔を見合わせて同じように苦笑いをした。
そして、装備のスキルを試すために初心者用ダンジョンにいる、とある有名モンスターを使うことにしたのだ。
「あ、いたでぇ。アレが初心者御用達のグーミスライムや」
「グーミスライム?」
「そうや、普通のスライムは粘液状の手強いモンスターなんやけどな、このグーミスライムはグミ程度の堅さで素手でも簡単に倒せるくらい弱い。ちょっと見とき、試しに
スタンダードな洞窟型ダンジョンの一階に生息している、青い水滴型のグーミスライム。
ゼニガーは普通の強化してないひのきの棒を使って、ポコポコと殴る。
すると、グーミスライムは三発目くらいで目をバッテンにして、霧のようにボワンと消えてしまった。
ドロップしたのはひのきの棒が一本だ。
「えっ!? モンスターが消えて、ひのきの棒が出てきた!?」
「ダンジョンっちゅうのは特殊な空間でな。モンスターは死ぬと死骸を残す代わりに運が良ければアイテムを落として消滅するんや」
「なるほど……それで同じようなひのきの棒を冒険者がいっぱい持ってたのか……」
「ドロップする場合は、決まったアイテムの種類と個数や。つまり……ミースはんが〝装備成長〟で作ったひのきの棒+99のスキルが機能しているかはすぐわかるはずや。やってみ」
ミースはコクリと頷いた。
自作したひのきの棒+99を手に持つ。
力が強い方ではないので、たぶんゼニガーと同じく数発で倒せる感じだろうと思っていたのだが――
「え?」
ひのきの棒+99をコツンと当てた。
グーミスライムがビシャアッと派手に飛び散った。
青い内臓らしき器官がミースの身体にへばりついている。
グロい。
「……ゼニガーぁぁぁ……」
「そ、そんな悲しそうな目でこっちを見んといてや! いや、というかなんちゅう威力や! 未強化のひのきの棒と見た目変わらんっちゅうのに……」
ミースとしては気持ち悪さと、洗濯どうしよう……ということで悲嘆に暮れていたのだが、どうやらモンスターが死んだ事により汚物は霧となって消滅して無事に済んだようだ。
ドロップアイテムが姿を現す。
「き、キタアアアアアアアア! ひのきの棒が10本ドロップしとるで!? アホか!! なんや、この馬鹿げたスキルは!!!」
「お、落ち着いてゼニガー……興奮して血管がビキビキ浮き出ているよ……きんもい……」
「こんなん落ち着けるかぁぁあああ!! ワイもひのきの棒+99で狩るでぇぇえええ!! うおおおお!! 10倍ドロップ!!」
ゼニガーの目はイッちゃっていたのだが、一階層のグーミスライムを狩り尽くしたところでバテてしまっていた。
ミースはまだ疲れていなかったので、とりあえず先の階層に進みつつモンスターを狩ってみることにした。
村育ちのミースはモンスターでさえ興味の対象で、何もかも新鮮に映る。
「ふわふわと浮いてる小さなモンスターがいる! あれはなに?」
「タンポポクラゲやな、布系の装備をドロップするでぇ」
「可愛いなぁ……!」
グシャア!
そんな音が響き渡って肉片の付いたフワフワ毛が飛び散った。
「今度はコロコロと転がる石っぽいのがいる! あれは?」
「石モンスターのゴロストンや。石つぶてをドロップするでぇ」
「動きがコミカル!」
ドグシャア!
そんな砕け散る重低音が反響し、モンスターだったモノがコロコロと転がっていった。
「た、楽しい! ダンジョン楽しいよォ!」
「……天然バーサーカーにワイの方はドン引きやでぇ」
ミースはひたすらにモンスターを狩っていく。
気が付けば奥に潜りつつ、数時間は経っていた。
「み、ミースはん……お楽しみのところ申し訳ないんやけど、さすがに疲れへんか……?」
「そう? 俺、村の水売りで鍛えてるからまだまだいける。具体的にはあと10時間くらいは」
「ウソやろぉ……!?」
ミースは笑顔で初心者ダンジョンの最下層ボスを撲殺して、疲れた様子も見せずに宿屋へ戻った。
付き添っていたゼニガーはゲッソリしていたという。
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