石のボス

「さて、ボス部屋だ。二人とも、準備はいい?」

「やったるでー!」

「対迷宮主戦闘モード、起動します」


 ゼニガーとレドナもやる気十分だ。

 ミースはボス部屋の扉を見つめる。

 五メートルほどもある巨大な扉で、ダンジョンの壁と同じ素材でできている。

 性質的にダンジョン全体の魔力と連動しているために、攻撃しても傷一つ付けられない。


「レドナ、ゼニガーが入ったら俺たちもすぐに突入で」

「了解、マスターミース」


 ゼニガーがボス部屋の扉を開けた。

 見た目の割にはそこまで重くないようだ。

 ミースとレドナも後から続いて入ると、中にはボスが待ちわびていた。

 しばらくすると背後の扉がズズン……と閉まる。

 この状態になると、敵か味方のどちらかが全滅するまでは開かない仕組みとなっている。


(こういうのを間近に見ると……ダンジョンって明らかに自然物じゃないよな。まるで何か大いなる存在に作られたような……。でも、いったい誰が何のために)


「それじゃあ、まずはワイが突っ込んでタゲを取るでぇ!」

「あ、うん。頼んだ。ゼニガー」


 ゼニガーの声でミースは思考を切り替える。

 今は目の前のボスに集中しなければならない。

 この戦いはダンジョンに慣れるための修行も兼ねているので、情報屋からボスの攻撃パターンなどは聞いていない。

 そのために余裕を持った指示を出す。


「ゼニガーはある程度耐えててくれ、その間に俺とレドナが遠めの視点から観察したり、攻撃したりしてボスを分析する」

「ワイが死ぬ前に頼むでぇ!」


 ミースはボスを観察する。

 名前はダイヤゴロストンだ。

 その名の通り、ダイヤの身体を持つゴロストンなのだが、ボスに恥じない巨大さを持っている。

 ダイヤの半透明のボディというのも、かなり威圧される感じだ。


「鉄鉱石に金剛石――石にも色々あるんやなぁ……って、うおっ!? もう攻撃してきおったでぇ! けど、これなら耐えられるくらいやな」


 ダイヤゴロストンは収納していた両手で交互に殴りつけてくるパターンと、突進してくるパターンがあるらしい。

 通常のフィールドモンスターとは違い、ダンジョンモンスターは一定のパターンを繰り返すことが多いのだ。

 なので、観察と対処さえすれば勝ち目が見えてくるケースがある。


「うりゃ、反撃や!」


 ゼニガーは余裕があるのか、右手の青銅の盾+99で防ぎつつ、左手の青銅の槍+99で反撃をしていた。

 槍が当たった箇所のダイヤに軽くヒビが入った。

 ダイヤは硬いというイメージもあるのだが、無敵というわけではなさそうだ。


「おっとと、攻撃ばかりもできんな」


 ダイヤゴロストンの攻撃パターンが再び始まり、ゼニガーは防御に徹した。

 それと同時に、ボス部屋の天井から何かが落下してきた。


「げ、コイツらは見覚えあるでぇ……!?」


 それは道中で出現してきたゴロストンや、アイアンゴロストンだ。

 それらが複数着地し、ゼニガーを狙ってくる。


「ひえーっ、さすがに全方位からは無理やー! お助けー!」

「さすがに観察している場合じゃないな。レドナ、いくぞ!」

「肯定、マスターミース」


 ミースは素早く移動してゴロストンたちに打撃を与え、崩していく。

 レドナは距離的をキープしつつ、うまく前衛の二人から射線を外して星弓を放つ。


「助かったで、ミースはん。それと……腕を上げたやないか、レドナはん!」

「マスターミース以外に褒められても嬉しくありませんが、まぁ仕方がないので素直に受け取っておくであります。仕方なく」

「なんで急にツンデレ風味になってんねん!?」

「ツーン」

「仲が良くて何より――さて、そろそろ攻略に入ろうか」


 出現したゴロストンたちを倒すと、再びダイヤゴロストンが単調な攻撃だけをするパターンに入った。

 たぶんだが、これで一通りの通常パターンが出揃ったという感じだろう。

 それとミースは気が付いたことがある。


「ゼニガーが付けた傷、塞がってるね」

「ほんまやな、再生能力持ちかいな」

「なるほど、これは面白い――っと、先生の口癖が移ったかな」


 ミースの先生は、知識を得ることを何よりの楽しみとしていた。

 きっと彼なら、この状況も新たな発見と考えて楽しみながら攻略するだろう。


(確かに楽しいけど、今は冷静に)


 ミースが仮定する行動パターンはこうだ。

 ボスの近接攻撃→ザコたち登場で時間稼ぎ→その隙に回復→再びボスの近接攻撃のループ。

 体力が減った後にパターン変化する場合もあるが、そのときはそのときだ。

 となると攻略方法は――


「たぶんダイヤゴロストンの再生能力を上回るダメージを与えながら、あの湧いてくるゴロストンたちを対処する感じかな。一人じゃダメだ、みんなで――」

「防御なら任せとき、攻撃は頼んだで」

「了解であります」


 みなまで言わず平気らしい。

 ミースは隠しきれない楽しそうな表情を見せてから行動に移した。

 いわゆるコレはダメージレースというやつだ。

 チビチビと攻撃しても再生で埒が明かない。

 最速で攻撃をし続けるのが攻略の鍵と見た。


「はぁっ!」


 ミースは疾風のようにボスに近付き、ひのきの棒で打撃を与える。

 一発でヒビは入るのだが、さすがに硬い。

 何か透明な奥に輝きが見える箇所を集中して狙う。


「――星弓」


 レドナもそれに合わせてくると、ボスは怯むようなリアクションをするようになった。

 弱点のコアのようなものが露出したのである。


「おっ、チャンスやな! 一気に――」


 ゼニガーも攻撃に参加しようとしたのだが、そうもいかなかった。

 再びザコのゴロストンたちが落下してきて、ゼニガーに向かってくる。

 しかも、コアを露出させたダイヤゴロストンは器用に壁を伝って天井まで逃げてしまった。

 コアを露出させたことで行動パターンが変化したのだ。

 このままだとまた再生されてしまう。


「くっ、どうすればいいのでありますか!?」

「レドナはん! ワイとミースはんを信じるんや!」

「……っ、肯定!」


 ゼニガーに群がろうとするゴロストンたちを無視して、レドナは天井のボスに狙いを定める。

 魔力を溜め、弓を強く引き絞る間も――ゼニガーは加速度的に増えていくゴロストンに攻撃され、それをミースが必死に追い払っている。

 レドナは機械的な思考の横から、早く早くと人間的な思考をせめぎ合わせる。

 ……――充填完了。


「大罪を貫き通せ。九の星光搦げ邪滅す矢ナイン・スターライトッ!」


 心は焦りつつも、レドナの射撃は正確だった。

 地上からの流れ星のような矢は、天井に張り付くダイヤゴロストンのコアを射貫く。


「やったでありますか!?」

「いや、まだだ!」


 もがき苦しむダイヤゴロストンだが、砕けかけたコアの輝きが消えていない。

 あと一押しが足りなかったのだ。

 レドナは星弓を再展開しようとするも、魔力切れを起こしている。

 コアの表面を覆うダイヤが徐々に復活していき、地上のゴロストンたちも増えていく。

 もうダメだと諦めかけたそのとき――まだ楽しそうにしている人間が一人だけいた。


「なるほど、このときのためのドロップアイテムか。これは面白い」


 それはミースだ。

 このピンチを気にせず、何かを手に握りしめている。

 そして、それをナイスフォームで投げ放つ。


「鉄つぶての弾丸だ、食らえ!」


 それは道中、いくらでもドロップしていたアイアンゴロストンの鉄つぶてだった。

 ミースは拾っていたのを思い出して、大収納から取り出していたのだ。


直撃ストラーイク!」


 見事に命中。

 グワラキィーンと音が響き、ダイヤゴロストンのコアが完全に砕け散った。


「ダイヤゴロストン、討伐アウトー!」


 ダイヤゴロストンと、無尽蔵に湧いていたゴロストンたちは消滅した。

 場に残ったのは連携で心を通じ合わせた三人と、ドロップした攻略の鍵――耐麻痺の指輪だった。

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