三人目の仲間
なぜかミースは人形が気になって、ジッと見詰めて観察していた。
球体関節で、身体のラインから女性をモチーフにしているらしい。
どれも長い黒髪で綺麗な緑色の目をしている。
しかし、どれもどこかが破損しているような状態だ。
「ねぇ、ゼニガー。どうしてこんなところに人形があるんだろう?」
「さぁ? モンスターで〝呪われた自動人形〟というのもおるらしいし、その類とちゃう? そんなことよりも、こっからどうするかや。この部屋は出入り口が一つしかあらへん……」
ミースとしては人形から優しい雰囲気を感じるので、モンスターの残骸のようには思えなかった。
それはそれとして、今はゼニガーの言うとおり脱出の手段を考えなければならない。
改めて部屋を調べてみたところ、人形の他には赤いテーブルクロスがかけられた大きな食卓と、頑丈そうな壁があるだけだ。
試しに壁を壊そうとしてみるも、ビクともしない。
「ここから別の所に移動できないし、何か外の巨大な獣を倒せるような武器が落ちているわけでもあらへんな……。ハインリヒのやつ、ワイらを殺すために依頼をしたんやないか……」
「うーん、こういうときのために弓矢でもドロップするダンジョンに行っておけばよかったかな……」
「確かに遠距離攻撃なら、あのダメージゾーンみたいのに触れずに攻撃できそうやなぁ。こうなったら、ワイが青銅の槍+99をぶん投げて――」
「一発で倒せなかったら、槍を回収できなくて詰んじゃうよ」
「あぁー、もうどうしたらええねん!」
頭をかきむしろうとするゼニガーだったが、透明化してある兜にコツッと遮られている。
どうにもならない状況でストレスが溜まっているようだ。
一方、ミースはまだ壊れた人形のことが気になっていた。
「なんや、ミースはん。その壊れた人形が気になっとん?」
「うん、何か目を離せなくて……」
「そうかそうかぁ~、ミースはんもお年頃やしなぁ……仕方がないこっちゃ!」
「いや、何か勘違いされてそうなんだけど?」
「人形やから色々とツルッツルなんやけど、女の子というシルエットだけでときめけるのが青少年や! ワイは、ちょっと形の良い大根とかでもエロく感じることがあるでぇ!」
「えぇ……」
何かゼニガーの知りたくないところまで知ってしまったような気もするが、ミースとしてはそういうことではない。
本当にこれはモンスター扱いなのか? ということだ。
もし、ミースの考えが正しければ何か使えるかもしれない。
「――鑑定したら、やっぱりだ」
「鑑定? 何にや?」
「この人形だよ」
ミースの網膜には人形の鑑定結果が表示されていた。
【自動人形:赤龍の遺産、疑似人格を持ち高度な戦闘を可能にする。今は壊れていて動かない】
「これはアイテムだ」
「あ、アイテム……もしかして……」
「うん、やってみる!」
壊れている複数の自動人形をつなぎ合わせ、合成していく。
すると、少しずつ人形の破損していた部分が修復されていくのがわかる。
それを九回繰り返したところで、自動人形がひとりでに起き上がった。
「リブート完了――おはようございます」
「ひっ、喋ったでぇ!?」
いつ攻撃されるのかと警戒するゼニガー、一方のミースは人形に対して笑顔で挨拶をした。
「おはよう、キミの名前は?」
「赤龍所属自立型ZYX、型式番号KSX-999 レッドナインであります」
「ええと、レッドナインという名前でいいのかな?」
「肯定、そのようにお呼び頂けたら幸いであります。マスター」
自動人形は長い黒髪が地面に付きそうなくらいの角度でお辞儀をしていた。
「マスター……?」
「現在、赤龍とのリンクが切れていて、暫定的にあなたを所有者として想定し、そうお呼びしています」
「赤龍……ということはドラゴンに所有されていたのかな。俺なんかを所有者として認めていいの?」
「『俺なんか』と、ご自分を卑下しないでください。当機がマスターの脳をスキャンしたところ、異常なまでに善意の塊でした。従属するに値する人間です。それに……今は亡き当機の前マスターもそういう御方でした」
「レッドナイン……」
ミースは何かしんみりとしてしまう。
自動人形でありながら、確かに人格を持って表情や声色を変えているからだ。
「ちょっ!? 待ちーや! ワイは急展開すぎてついていけへんぞ!? ほんまに信頼していいんか、この自動人形……?」
「大阪弁の貴方の言うことも最もであります」
「オーサカベンの貴方? なんやその変な呼び方!? ワイはゼニガーや! で、こっちはミース」
「では、マスターミースと、クルーゼニガーと呼称します」
「クルーって、船の乗務員やないかい!? ミースはんと扱いが随分と……」
「さて、それでは当機の有用性を示さなければいけませんね」
レッドナインは無表情ながらやる気のある口調で眼を光らせた。
「ま、まさかここからの脱出方法が……」
お腹の部分がパカッと開き、針と糸が出てきた。
ミースとゼニガーは首を傾げる。
「機能解放――〝裁縫〟!」
レッドナインは赤いテーブルクロスを引っぺがし、ビリビリと手で破りだした。
それをチクチクと縫っていく。
「え、あの、レッドナインはん? 何をしてるんや?」
「お裁縫であります」
「それはわかるっちゅうねん……」
「全裸は青少年の教育上良くないと思うので衣服を作成しています」
ミースはサムズアップをする。
「レッドナインは気遣いもできるんだね!」
「光栄です、マスターミース」
二人のやり取りにポカンとしてしまうゼニガー。
何か自分のツッコミが間違っているのではないかと疑い始めたりもした。
そうこうしている間に、レッドナインの服が完成した。
「どうでしょうか? 人間の基準でおかしくないでしょうか?」
「うん、似合ってる」
「黙っていればいいとこのお嬢様みたいな感じやなぁ」
一枚の布を縫っただけとは思えないくらいに精巧な赤いドレスは、レッドナインの名にふさわしい。
スタイルも人間離れしているくらいに良く、コルセットを使っているかのような引き締まったウエストが大きなバストとヒップを際立たせている。
服を着た方が逆に青少年の教育に悪いのでは? とゼニガーは思ったのだが止めておいた。
「うーん、仲間が増えたのはええんやけど、結局この状況を打開できへんな……。外にいる巨大な獣は近付いたらダメージゾーンがあってワイらじゃどうにも――」
「状況を把握しました。当機にお任せください。戦闘モード、起動します」
レッドナインはツカツカと早歩きで出入り口へと向かってしまう。
ミースとゼニガーがそれを止める間もなく、部屋の外にいた巨大な獣に気付かれてしまった。
レッドナインは敵に向かって、手ぶらで構える。
弓を打つような格好だが、肝心の弓が無い。
「お、おい!? なにをするっちゅうねん!?」
「現在、当機は動力源であるエーテル・コアが制限付きの状態であります。そのため武器には魔力を使用」
「はぁ!? どういうことや!?」
「矢で
レッドナインの左手の平が開閉し、目に見えるくらいに凝縮された魔力が放出された。
それはまるで弓のような形になり、右手の平から生み出された矢をつがえる。
「ウソやろ……あんなの見たことも聞いたこともあらへん……」
「俺は一回だけ、先生が使ってるのを見たことがある……。神々から与えられるような力だって教えてくれた……」
レッドナインは極限まで弓を引き絞り――
「大罪を貫き通せ。
輝きを放つ。
魔力の矢はまるで地上からの流れ星のようで、巨大な獣を一直線に貫いた。
ズシンと呆気なく倒れる音が響く。
「これが貴方のレッドナインの力です、マスターミース」
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