第一章(3) 失敗者は自動人形の夢を見るか
クエスト:自動人形の神殿
ミースとゼニガーの二人は、移動用のワイバーンに乗って依頼の森林地帯に到着していた。
「初めてワイバーンに乗ったよ! ありがとう、ワイバーン」
ミースはワイバーンの頭を撫でて礼を言っている。
人懐っこいワイバーンは目を細めて気持ちよさそうだ。
「まぁ、普通はワイバーンなんて乗る機会ないなぁ」
「すっごい遠くまで速く来られたけど、どうしてみんな乗らないんだろう?」
「そりゃあ、コストの問題や」
ワイバーン自体はこの世界にそれなりに生息しているのだが、それを人が乗れるようにするのは苦労する。
信頼や調教、孵化からの刷り込み。
どれも数をこなせるわけではない。
それに貴重な空の戦力にもなるので国に管理されている場合が多いのだ。
そういう理由もあり、民間人がタクシーのように使える人慣れしたワイバーンというのは、かなり高価な移動手段となる。
「ちゅうわけで、ワイバーンをポンとすぐに手配してくれたハインリヒはんは、よっぽど急いでいた。それか……」
「それか?」
「闇市に居るんがおかしいくらいに金持ちっちゅうことやな。ワイの勘ではこっちや」
「まぁ、楽なのはいいよね。先に進もう」
ワイバーンを待機させて、深い森の中にある崩れかけた神殿へと移動することにした。
人の気配は感じられない。
内装はボロボロに荒れ果てているのだが、天井や壁、支柱はほぼ無事だ。
壊れたマネキンのようなものも数多く転がっている。
「ここの調査依頼って話だけど……意外と広そうだ。奥へ進まないと」
「気ぃつけや、ここはダンジョンとは違ってフィールドの建物。死んでも生き返れんさかい」
「ええと、たしかダンジョンは最初に誰かが踏破したあとに、蘇生用の結界を張っているから生き返れるんだよね」
「そういうことや。ここはダンジョン並みに視界制限もある。もし……罠でも仕掛けられていたら――」
というところで、カチリと音がした。
何かを踏んでスイッチが鳴った――というわけではなく、神殿の入り口が特殊な結界で閉じられたようだ。
「ダンジョンでよくあるタイプの罠やな……。何かの目的を達成するまでは出られへんタイプや。そして、大体の条件が――」
奥の部屋から、ズシンズシンと巨大な獣が歩いてきた。
「決められた強敵を倒すことや」
「わかりやすいのは良いことだ……!」
ミースは大収納のチョーカーを操作して、武器を取り出す。
青銅の槍+99をゼニガーに投げ渡し、自らはひのきの棒+99を構える。
「なんや、動きの鈍そうな相手やな」
巨大な獣を観察すると、全長が4メートルほどの四足歩行で、動物のナマケモノを大きくしたような姿をしていた。
ただし、頭部だけが人間のようで、悪意に満ち溢れた表情をしていて気味が悪い。
「ノロノロとこっちに近付いてくるだけや。試しに防御の硬いワイが一撃加えてみるでぇ!」
「ゼニガー、何か嫌な予感が――」
ゼニガーが距離を詰め、もう数歩で射程の長い槍の範囲に入るというところだった。
瞬間、何か薄い魔力の膜のようなモノが見え、ゼニガーの手先が当たる。
「うおっ!?」
ゼニガーは驚きの表情で飛びのいて大きく距離を取った。
「大丈夫!?」
「ヤバい、コイツはヤバそうやでミースはん……」
ゼニガーが籠手を外すと、手先が焼けただれたようになっていた。
「近接攻撃の範囲に入ろうとすると、スキルか魔術かわからんが防御を貫通するような攻撃をしかけてくるようや……。いや、結界のようなもんか?」
「それじゃあ……」
「近接攻撃しかできんワイらに勝ち目はないなぁ」
立ち止まっているミースとゼニガーに向かって、少しずつ、ゆっくりと死を運ぼうとしている巨大な獣。
「奥に小さな入り口が見える。あそこなら追ってこられない!」
「そやな! いったん戦略的撤退や!」
二人は、動きの遅い巨大な獣を大きく迂回して、奥にあるドアを開けて中に入った。
部屋は不思議と明るく、広さもそれなりにあった。
「これは……人形?」
そこは人間サイズの壊れた人形が山積みになっていた。
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